鉄の人形⑥
二人が同時に地面を蹴った。
「右膝の内側です!」
ユノの声が飛ぶ。
レテが先行し、《水凪》を低く構えた。
鉄人形がそれを迎え撃つように拳を振り下ろす。
「レテ!」
「分かっています!」
レテは足を止めない。
振り下ろされた拳を紙一重でかわし、そのまま懐へ潜り込んだ。
「《水刃》!」
至近距離から放たれた水の刃が、右膝の内側へ直撃する。
鋭い音。
装甲に亀裂が走った。
「ログ!」
「任せろ!」
後ろから踏み込んだログが、《崩槌》を横薙ぎに振り抜く。
亀裂の入った膝へ、重い一撃が叩き込まれた。
金属が砕ける。
鉄人形の右脚が大きく折れ曲がり、巨体が傾いた。
「倒れます!」
「まだだ!」
アーヴェルが叫ぶ。
鉄人形は片膝をつきながらも、腕を伸ばしてレテを掴もうとする。
「フェルメル!」
「首の後ろです! 今なら狙えます!」
「オーズィラ、下がれ!」
「はい!」
レテが横へ飛ぶ。
その直後、アーヴェルが正面から踏み込んだ。
《不落》を下から振り上げ、鉄人形の身体を強引に仰け反らせる。
「スミスマン!」
「はい、隊長!」
ログが地面を蹴った。
傾いた背中を駆け上がり、《崩槌》を大きく振りかぶる。
「これで――三体目だ!」
振り下ろされた《崩槌》が、首の後ろへ突き刺さった。
鈍い破壊音。
内部で何かが弾け、火花が一気に噴き出す。
鉄人形の身体が激しく震えた。
そして。
胸元の赤い光が消える。
巨体が前のめりに倒れ、地面を大きく揺らした。
「三体目……!」
レテが息を整えながら呟く。
だが、残る四体は動きを止めなかった。
ゆっくりと四人を囲むように広がっていく。
アーヴェルが《不落》を構え直す。
「来るぞ」
「まだやる気ですか……」
ユノが《灯環》を握る。
ログも荒い息を吐きながら、《崩槌》を持ち上げた。
「上等だ」
「スミスマン」
「分かってます。無理はしません」
「本当ですか?」
「うるせぇぞ、糸目」
その時だった。
残る四体の胸元が、同時に赤く明滅した。
短い音が、連続して鳴る。
四体は拳を構えたまま、ぴたりと動きを止めた。
「なんだ……?」
ログが眉をひそめる。
鉄人形たちの頭部が、同時にわずかに動く。
まるで、どこか遠くの声を聞いているようだった。
「来ません」
ユノの赤い瞳が細められる。
「熱の流れが変わりました」
「どう変わった」
「身体の外側へ集まっています」
アーヴェルが一歩踏み出す。
その瞬間。
四体の鉄人形が、一斉に後ろへ跳んだ。
「逃げる気か!」
ログが追おうとする。
「待て、スミスマン!」
アーヴェルの声に、ログの足が止まる。
鉄人形たちは四人へ背を向け、そのまま街道を駆け始めた。
倒れた三体を回収する様子もない。
金属の足音が次第に遠ざかっていく。
「追わなくていいんですか?」
レテが尋ねる。
「罠の可能性がある」
アーヴェルは遠ざかる背中を睨んだまま答えた。
「それに、こちらの消耗も大きい」
「俺はまだいけます」
「黙れ、スミスマン」
「はい」
即答したログに、ユノが小さく笑う。
「随分と素直ですね、ログ先輩」
「隊長に逆らっても面倒なだけだ」
「聞こえているぞ」
「……すみません」
レテが倒れた鉄人形へ視線を向ける。
「突然、撤退しましたね」
「ああ」
アーヴェルは《不落》を下ろした。
「自分たちの判断で退いたのか。それとも、何者かの命令か」
「どちらにしても」
ユノが《火眼》を解く。
赤く染まっていた瞳が元の色へ戻った。
「私たちのことを、どこかで見ていた者がいるかもしれません」
その言葉に、全員の表情が険しくなる。
街道には、壊れた三体の鉄人形だけが残されていた。




