鉄の人形⑤
六体の鉄人形が、一斉に腕を振り下ろした。
「散れ!」
アーヴェルの声と同時に、四人が左右へ飛ぶ。
巨大な拳が地面へ叩きつけられ、土と砕けた石が巻き上がった。
「フェルメル!」
「右から二体目です! 首の後ろに熱が集中しています!」
「スミスマン!」
「はい!」
ログが《崩槌》を地面へ叩きつける。
「《脆化》!」
鈍い灰色の光が地面を駆けた。
光は指示された鉄人形の足元から装甲を這い上がり、首の後ろへ集中する。
硬い金属の表面に、細かな亀裂が浮かび上がった。
「オーズィラ!」
「はい!」
レテが地面を蹴る。
だが、別の鉄人形が横から拳を振り抜いた。
「《鋼壁》」
レテの前に分厚い鋼の壁が現れる。
拳が直撃し、轟音とともに壁全体が大きく震えた。
「行け!」
「《水刃》!」
レテが鋼壁の脇を駆け抜け、《水凪》を振るう。
放たれた水の刃が、亀裂の入った首の装甲へ直撃した。
甲高い音。
装甲が砕け、内部から火花が噴き出す。
「ログ!」
「ああ!」
ログが鉄人形の背後へ飛び込む。
露出した内部へ向け、《崩槌》を勢いよく振り下ろした。
鈍い衝撃音が響く。
鉄人形の身体が大きく跳ね、そのまま地面へ倒れ込んだ。
「二体目です!」
「喜ぶのは後だ、オーズィラ!」
残る五体が迫る。
一体がアーヴェルへ。
二体がログとレテへ。
そして残る二体は、後方にいるユノへ向かって進路を変えた。
「フェルメル君!」
レテが振り返る。
「前を見ろ、オーズィラ!」
アーヴェルが《不落》で拳を受け止めながら叫ぶ。
「フェルメルなら対処できる!」
「ですが――」
「レテ先輩!」
ユノが《灯環》を掲げる。
「こちらは大丈夫です!」
二体の鉄人形が、左右からユノを挟み込む。
巨大な拳が同時に振り上げられた。
それでも、ユノは動かない。
「《狐火》」
二つの小さな炎が生まれる。
狐火は左右へ飛び、鉄人形の顔の前で弾けた。
視界を遮られた二体の拳が、僅かに軌道を逸らす。
拳同士が、ユノの頭上で激突した。
轟音と風圧が辺りを揺らす。
「危ねぇだろうが、糸目!」
「当たっていないので問題ありません!」
「そういう話じゃねぇ!」
ログが怒鳴りながら、目の前へ迫った拳を《崩槌》で受け流す。
「余所見をするな、スミスマン!」
「はい、隊長!」
ログは即座に前を向いた。
鉄人形が続けて拳を突き出す。
身を低くして腕の下へ潜り込み、その背後へ回る。
「こいつも首の後ろでいいんだな!」
「はい! ですが、先ほどのものより熱源が奥にあります!」
「先に言え!」
ログは《崩槌》を構え、片手を鉄人形へ向けた。
「《脆化》!」
灰色の光が装甲を覆う。
だが、先ほどよりも亀裂の広がりが遅い。
「……っ」
ログの足が僅かにふらついた。
「ログ、大丈夫ですか?」
「なんでもねぇ!」
レテの声に、ログはすぐさま答える。
しかし、アーヴェルは見逃さなかった。
「スミスマン」
《不落》を振り抜き、正面の鉄人形を押し返す。
「無理をしているな」
「まだいけます!」
「聞いているのではない」
アーヴェルは別の鉄人形が振るった腕を、《不落》の腹で受け止めた。
「《脆化》は一度に何体まで使える」
「一体です!」
「連続使用は」
「問題ありません!」
「嘘をつけ」
短い言葉に、ログが顔をしかめる。
「……三回くらいから、少し身体が重くなります」
「無理をするな‼︎」
アーヴェルの怒声が戦場へ響いた。
「まだ二回です!」
「ここへ来るまでにも戦っているだろう」
「ですが、まだ――」
「無理をするなと言っている」
アーヴェルは《不落》を振り上げ、鉄人形の拳を力任せに弾き返した。
「倒れるまで戦うことを、勇敢とは言わん」
「……はい、隊長」
ログが悔しそうに答える。
「二人とも、聞いてください」
ユノの声が飛ぶ。
赤く染まった瞳が、五体の鉄人形を順番に捉えていた。
「全ての装甲を《脆化》で壊す必要はありません」
「どういうことだ、フェルメル」
「首以外にも、熱の流れが細くなっている部分があります」
ユノは《灯環》の先端を、一体の膝へ向けた。
「アーヴェル隊長。まずは動きを止めましょう」
「狙えるのか」
「はい」
ユノがいつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「弱点さえ分かれば、《脆化》を使わなくても壊せるかもしれません」
鉄人形たちが再び動き出す。
ユノは、そのうち一体の右足を指した。
「レテ先輩! 右膝の内側です!」
「分かりました!」
レテが《水凪》を構える。
「ログ!」
「分かってる!」
ログも《崩槌》を握り直した。
「今度は《脆化》なしで狙うぞ!」
「はい!」
二人が同時に地面を蹴った。




