鉄の人形②
七体の鉄人形が、一斉に腕を持ち上げた。
筒状の先端へ、赤い光が集まっていく。
「クロイツ隊、戦闘準備」
アーヴェルが右手を前へ差し出す。
「来い――《不落》」
魔力が収束し、大剣《不落》がその手へ現れた。
ユノも腰へ手を伸ばす。
取り出したのは、六十センチほどの短い錫杖。
魔器《灯環》。
先端の輪が触れ合い、澄んだ音を響かせた。
「《活火》」
《灯環》に青い炎が灯る。
炎は三つに分かれ、アーヴェル、ログ、レテの身体へ吸い込まれた。
「……身体が軽くなりました」
レテが驚いたように、自分の腕を見つめる。
アーヴェルも《不落》を握り直した。
「身体強化か」
「はい。動きやすくなっているはずです」
ユノが柔らかく微笑む。
しかし、ログだけは不満そうに足を踏み鳴らした。
「おい、糸目!」
「なんですか?」
「さっきより効果が薄いぞ!」
ユノの笑みが僅かに引きつる。
「三人にかけているんですから、しょうがないじゃないですか!」
「もっと強くできねぇのか!」
「簡単に言わないでください!」
鉄人形の腕に集まっていた光が、強く瞬いた。
レテが《水凪》を抜く。
「来ます!」
「《鉄封》」
アーヴェルが左手を振る。
地面から鉄の帯が伸び、先頭の鉄人形へ絡みついた。
「《土槍》!」
ログが《崩槌》を振り下ろす。
地面から鋭い土の槍が突き上がった。
「《水刃》!」
レテが《水凪》を振るう。
薄く研ぎ澄まされた水の刃が飛び、鉄人形の首元へ直撃した。
三人は術を放つと同時に駆け出す。
だが。
ガギンッ!
響いたのは、重い金属音だった。
土槍は砕け散り、水刃も弾かれる。
「なっ……!」
ログが目を見開いた。
「効いていません!」
レテも驚き、僅かに足を緩める。
拘束されていた鉄人形が、両腕に力を込めた。
鉄の帯が軋む。
次の瞬間。
バキンッ。
《鉄封》が、力任せに引き千切られた。
「《鉄封》を力だけで破ったか」
アーヴェルが《不落》を構え直す。
鉄人形たちは速度を落とさず、こちらへ迫ってくる。
「術を撃ちながら接近します!」
レテが再び駆け出した。
その隣をログが走る。
「分かってる!」
「《水刃》!」
「《土槍》!」
水の刃と土の槍が、次々と鉄人形へ襲いかかる。
肩。
胸。
脚。
しかし、どの攻撃も硬い装甲に弾かれた。
「一度、《活火》を解きます」
ユノが《灯環》を握り直す。
「あ?」
ログが振り返った。
青い炎が、三人の身体から一斉に抜け落ちる。
「うおっ!?」
急に身体の重さが戻り、ログの踏み込みが乱れた。
勢いのまま倒れそうになり、慌てて《崩槌》を地面へ突き立てる。
「きゃっ……!」
レテも足をもつれさせ、前へよろめいた。
「ユノさん!?」
「すみません。少しだけ耐えてください」
「おい、糸目! 解くなら先に言え!」
その隙を逃さず、鉄人形が腕を振り上げる。
赤い光が溢れた。
アーヴェルが二人の前へ飛び込む。
「《鋼壁》」
《不落》を地面へ突き立てる。
轟音とともに、分厚い鋼の壁がせり上がった。
鉄人形の拳が鋼壁へ叩きつけられる。
同時に赤い光が直撃し、激しい火花が辺りへ飛び散った。
鋼壁の表面が大きくへこむ。
それでも、攻撃は貫通しない。
「おい、糸目! 何してやがる!」
ログが体勢を立て直しながら叫ぶ。
「静かにしてください」
ユノは鉄人形から目を離さず、《灯環》を自らの顔へ向けた。
先端の輪が、小さく鳴る。
「《火眼》」
青い炎が細い筋となり、ユノの瞳へ吸い込まれた。
閉じられていた瞼が、ゆっくりと開く。
赤い光を宿した瞳が、鉄人形を捉えた。
ユノの視界が変わる。
胸部に大きな熱源。
そこから腕や脚へ、幾筋もの熱が流れている。
ユノは一体ずつ、静かに目を走らせた。
鉄人形が腕を動かす。
熱が全身へ流れる。
その瞬間。
首の後ろだけ、僅かに温度が下がった。
「……見つけました」
ユノの口元に、いつもの笑みが戻る。
「何が分かった!」
ログが怒鳴る。
「胸ではありません」
ユノは《灯環》の先端を鉄人形へ向けた。
「首の後ろです」
「首?」
「あそこから熱を外へ逃がしています」
鋼壁へ、再び拳が叩きつけられる。
亀裂が大きく広がった。
「他の場所より装甲も薄い」
アーヴェルが《不落》を握り直す。
「間違いないか、フェルメル」
「はい」
ユノは笑みを浮かべたまま頷いた。
「次は、首の後ろを狙ってください」
アーヴェルは迫る鉄人形を見据える。
「スミスマン、オーズィラ。聞いたな」
「はい!」
「おう!」
「俺が正面を抑える。二人は背後へ回れ」
「了解!」
「はい!」




