崩槌
ユノは《水凪》から視線を外すと、今度はログの隣に立てかけられた戦槌を見た。
「ログ先輩の魔器は、それですか?」
「ああ。」
ログは戦槌を引き寄せ、軽々と肩へ担いだ。
無骨で巨大な槌頭には、いくつもの細い亀裂のような紋様が刻まれている。
「《崩槌》だ。」
「ほうつい、ですか?」
「土属性の魔力を流し込んで、殴った場所を内側から崩す。岩でも壁でも、まともに入れば人間でも同じだ。」
「物騒ですね。」
「魔器なんだから当たり前だろ。」
ログは《崩槌》の柄を軽く叩いた。
「こいつは俺が自分で作った。重さも長さも、全部俺に合わせてある。」
「ログ先輩が?」
「ああ。俺の家は鍛冶屋だからな。」
ユノが感心したように頷く。
「スミスマンというお名前にも納得しました。」
その言葉に、ログの眉が僅かに動いた。
「……どういう意味だ?」
「いえ。スミスマンという姓は、ヴォルグでよく聞く名前だったので。」
荷台の空気が、ほんの少しだけ静かになった。
レテもログへ顔を向ける。
「ログのご家族は、ヴォルグの出身なんですか?」
「ああ。」
ログは隠す様子もなく答えた。
「ひいじいさんの代までな。」
「曾祖父様がヴォルグに?」
「元々は向こうで鍛冶屋をやってたらしい。けど、色々あってガイストに移ったんだと。」
「色々とは?」
「知らねぇよ。親父も詳しく話したがらねぇし。」
ログは《崩槌》へ視線を落とした。
「ただ、ひいじいさんが持ってきた鍛冶の技術は、今も家に残ってる。」
「では、《崩槌》にもヴォルグの技術が?」
「多少はな。」
ログは少しだけ誇らしげに笑った。
「けど、作ったのは俺だ。こいつはヴォルグの武器でも、親父の武器でもねぇ。」
太い柄を握り締める。
「俺の《崩槌》だ。」
「格好いいですね。」
ユノが素直に褒めると、ログは一瞬だけ言葉に詰まった。
「……お前、普通に褒めることもできるんだな。」
「ログ先輩が褒めるところを見せてくだされば、僕も褒めますよ。」
「やっぱり喧嘩売ってんだろ。」
「そんなつもりはありません。」
ユノはいつもの柔らかな笑みを浮かべた。




