水凪
ユノはレテの腰元へ視線を向けた。
「ところで、レテ先輩はどのような魔器をお使いになるんですか?」
「これです。」
レテは腰に差していた剣の柄へ手を添えた。
一般的な長剣よりも短く、刀身が緩やかに反っている。
「《水凪》といいます。水属性の術を通しやすくするために作られた魔器です」
「剣士だったんですね。」
「剣術は一通り学びました。ただ、前衛で敵を押し切るほどの腕ではありません」
「ずいぶん謙虚だな。」
ログが口を挟む。
「こいつ、接近戦でも普通に強いぞ。俺と模擬戦した時なんか――」
「ログ。」
「……なんだよ。本当のことだろ」
レテは小さく息を吐き、《水凪》を鞘から僅かに抜いた。
青みがかった刀身が、馬車へ差し込む光を静かに反射する。
「この刃を通すことで、水をより細かく操れます。斬撃を飛ばすこともできますが、本来は水流を作り、敵の攻撃を受け流すための魔器です」
「なるほど。《水凪》という名前の通りですね」
ユノは興味深そうに刀身を覗き込んだ。
「水を荒れさせるのではなく、鎮めるための剣ですか」
「はい。傷つけるためだけの力にはしたくありませんから」
ユノは一瞬だけ目を丸くした。
そして、いつもの柔らかな笑みを浮かべる。
「レテ先輩らしい魔器ですね」
「まだ知り合ったばかりでしょう?」
「先ほどから見ていれば、少しくらいは分かりますよ」
向かい側に座るリオネルが、深く頷いた。
「まさしく、レテ殿に相応しい美しい魔器です」
「魔器の話だよな?」
ログが怪訝そうに尋ねる。
「もちろんです、スミスマン殿」
「今、絶対レテ本人のことも言ってただろ」
「何か問題でも?」
「いや……ねぇけど」
レテには二人が何を言い争っているのか、よく分からなかった。




