表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/107

青白い髪の男

 馬車は夕暮れ前に、ヴォルグの国境へ辿り着いた。


 高い外壁の上には、歯車を模した旗が並んでいる。


 巨大な鉄門の前には、商人や旅人を乗せた馬車が長い列を作っていた。


「すげぇ人だな。」


 アルトが荷台から身を乗り出す。


「国境ってのはこんなもんだろ。」


「お前、来たことあるのか?」


「ない。」


「じゃあ知ったように言うなよ。」


 商団の馬車も列の最後尾へ加わった。


 周囲には、荷物を抱えた商人や旅人が溢れている。


 怒鳴る兵士。


 嘶く馬。


 車輪の軋む音。


 遠くでは、ヴォルグの言葉で何かを訴えている男もいた。


 だが、その声もアルトの耳には理解できる言葉として届いている。


「ここから先は歩きだ。」


 会頭が二人へ告げた。


「馬車に隠れて国境を越える、なんて真似はさせられん。」


「正面から入れるのか?」


「身分を聞かれたら、うちの臨時護衛だと言えばいい。」


 会頭は小さな木札を二枚差し出した。


「国境を越えるまでの証明にはなる。」


 アルトが木札を受け取る。


「ありがとう。」


「こちらこそ助かった。」


 会頭はガオンへも木札を差し出した。


「お前も受け取れ。」


「分かってる。」


「少しは礼を言えよ。」


「盗賊を倒した。」


「それとこれは別だろ。」


 ガオンは面倒そうにしながら、木札を受け取った。


「……助かった。」


「言えるじゃん。」


「うるせぇ。」


 手続きを終え、二人は鉄門をくぐった。


 その瞬間、アルトは思わず足を止める。


 見渡す限りの石造りの建物。


 複雑に交差する鉄の管。


 建物の屋根から伸びる煙突。


 その先から、灰色の煙が絶え間なく吐き出されている。


 街道には荷馬車や人が溢れ、肩がぶつかりそうなほど混み合っていた。


「ここがヴォルグ……。」


「立ち止まるな。邪魔だ。」


 ガオンに背中を押され、アルトは再び歩き出す。


「最初に飯だな。」


「本当に飯からなのかよ。」


「腹が減った。」


「俺たち、調査に来たんだろ?」


「飯を食いながらでも調査はできる。」


「できるか?」


 人の波に押されながら、二人は大通りを進んでいく。


 その時だった。


 アルトの視界を、二つの人影が横切った。


 一人は、二十代ほどに見える男。


 背中まで伸びた青白い髪。


 整った顔立ちをしているが、どこか人を寄せつけない冷たい雰囲気を纏っていた。


 その隣には、アルトたちとさほど歳の変わらなそうな男がいる。


 金髪の坊主頭。


 鋭い目つき。


 服の着方も歩き方も荒く、いかにも柄の悪そうな風貌だった。


 二人は会話もせず、人混みの中を進んでいる。


 すれ違う直前。


 青白い髪の男が、僅かに顔を横へ向けた。


 アルトの足が止まる。


「……え?」


 ほんの一瞬だった。


 だが、その横顔には見覚えがあった。


 目元。


 鼻筋。


 冷たい表情の奥に残る、どこか弱々しさを感じさせる顔立ち。


「……ヒルト……?」


 アルトが振り返る。


 しかし、すでに二人の姿は人混みへ紛れていた。


「どうした。」


 ガオンが足を止める。


「今の奴……。」


 アルトは人の波の向こうを見つめた。


「ヒルトに、似てた。」


「ヒルトはガイストの病室だろ。」


「分かってる。でも……。」


 もう一度探す。


 青白い長髪も、金色の坊主頭も見当たらない。


 最初から、そこには誰もいなかったかのように消えていた。


「見間違いじゃねぇのか?」


「……そうかもしれない。」


 そう答えながらも、アルトはしばらくその場から動けなかった。


 工場の煙に覆われた空の下。


 ヴォルグの雑踏だけが、何事もなかったように流れ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ