文句ねぇだろ②
会頭と護衛たちは、言葉を失って二人を見つめていた。
倒れた盗賊たちの呻き声だけが、街道に残っている。
ガオンは両手の埃を払うと、当然のように会頭へ向き直った。
「これでヴォルグまで乗せろ。」
「第一声がそれかよ。」
アルトが呆れる。
会頭はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「まずは礼を言わせてくれ。助かった。」
「なら乗せろ。」
「お前は少し黙ってろ。」
アルトがガオンの前へ出た。
「えっと……こいつの言い方は最悪だけど、俺たちもヴォルグに行きたいんだ。」
「理由を聞いても?」
「それは……。」
アルトは言葉に詰まる。
調査のため。
自分の正体を知るため。
そんなことを正直に話せるはずがない。
「観光だ。」
ガオンが答えた。
「誰が信じるんだよ!」
「なら、お前が何か考えろ。」
「今考えてたんだよ!」
二人のやり取りを見て、会頭が僅かに口元を緩めた。
「訳ありなのは分かった。」
「それでも乗せてくれるのか?」
「無償とは言わん。」
会頭が倒れている盗賊たちへ目を向ける。
「国境まで、商団の護衛を引き受けてもらう。」
「国境まで?」
「ヴォルグ領内へ入れば、街道の警備も増える。そこまで守ってくれればいい。」
「それで馬車に乗れるんだな?」
「ああ。」
「よし。」
ガオンが即答した。
「少しは条件を確認しろよ。」
「国境を越えられればいい。」
「本当にそれしか考えてないな……。」
護衛たちは盗賊たちの武器を回収し、縄で縛り始めた。
アルトも手伝おうと近づく。
「お前たちは休んでいてくれ。」
先ほどの護衛が言った。
「でも、人手がいるだろ。」
「十分働いてもらった。」
男は少し気まずそうに視線を逸らす。
「さっきは悪かったな。」
「何が?」
「お前たちの強さを疑った。」
「普通は疑うだろ。」
アルトが笑う。
「いきなり乗せろって言う奴が悪い。」
「俺は悪くねぇ。」
「お前以外に誰がいるんだよ。」
ガオンは聞こえないふりをして、馬車へ向かって歩き始めた。
「おい。どれに乗ればいい。」
「勝手に乗るな!」
護衛の怒声が響く。
アルトは頭を抱えた。
「すみません。本当に。」
「大変だな、お前も。」
「さっき会ったばかりなんだけどな……。」
盗賊たちを街道脇へまとめると、商団は再び出発した。
アルトとガオンは、最後尾の荷馬車へ乗せられていた。
荷台には麻袋や木箱が隙間なく積まれている。
アルトは荷物の間へ腰を下ろし、長く息を吐いた。
「やっと座れた……。」
「だらしねぇな。」
ガオンは木箱へ背を預けている。
「お前は疲れないのかよ。」
「この程度で疲れるか。」
「盗賊を十人くらい殴ってただろ。」
「十二人だ。」
「増やすなって。」
馬車が小石を踏み、大きく揺れた。
アルトは荷台の端から、遠ざかっていく盗賊たちを見る。
「放っておいて大丈夫なのか?」
「次に通る巡回兵へ知らせるそうだ。」
近くを歩いていた護衛が答えた。
「この辺りじゃ、盗賊は珍しいのか?」
「いや。最近は増えている。」
「ヴォルグの近くだろ?」
「だからだ。」
護衛の表情が曇る。
「国境の警備が厳しくなって、正規の商人でも出入りに時間がかかるようになった。荷が滞れば、仕事を失う者も出る。」
「それで盗賊になるのか。」
「全員がそうとは言わんがな。」
アルトは黙って街道を見る。
遠くの空には、薄い灰色の煙が浮かんでいた。
雲とは違う。
風に流されながらも、次々と地上から立ち昇っている。
「あれがヴォルグの煙か?」
アルトが尋ねる。
「ああ。」
護衛が頷く。
「まだ国境までは遠いが、晴れた日はここからでも見える。」
ガオンが荷台の外を覗き込み、楽しそうに笑った。
「ようやく近づいてきたな。」
「遊びに行くんじゃないんだぞ。」
「分かってる。」
「本当か?」
「着けば分かる。」
「何がだよ。」
「全部だ。」
ガオンは煙の昇る西の空を見つめる。
アルトもその隣から、初めて見る工場国家の空を眺めた。
精霊を資源として使う国。
カイルと《機装獣》に繋がっているかもしれない国。
そして、自分たちより先に何かが動き始めている国。
馬車は車輪を軋ませながら、ヴォルグ国境へ進んでいった。




