↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

666/672

派手にやりやがって

     ◇ ◇ ◇


 先に動いたのは、シルヴァンだった。


 ダンッ!


 石畳を蹴る。


 《アクメン》の穂先が、バルドの胸元へ伸びた。


「……ほう」


 バルドが僅かに身を引く。


 突きが空を切った。


 だが。


「そこです!」


 シルヴァンが手首を返した。


 《アクメン》が横へ走る。


 バルドは《蜂穿》の柄を立て、その一撃を受け止めた。


 キィンッ!


「……悪くねぇ」


 バルドが呟く。


「……だが、遅ぇな」


「……承知しています!」


 シルヴァンがさらに踏み込んだ。


 二撃。


 三撃。


 間断なく繰り出される突き。


 だが、どれも僅かに届かない。


 バルドは大きく動こうとしなかった。


 首を傾ける。


 半歩下がる。


 時には、《蜂穿》を僅かに動かすだけ。


 最小限の動作で、次々と攻撃を捌いていく。


「……おいおい」


 バルドが面倒そうに息を吐く。


「……そんなんじゃ、当たらねぇぞ」


「……でしょうね!」


 シルヴァンが答える。


 だが、攻撃を止めない。


 むしろ。


 《アクメン》を引き戻すと同時に、左足を大きく踏み込んだ。


「……ん?」


 バルドの目が動く。


 先ほどまでとは、踏み込みの角度が違う。


 そして。


「第一継承技――」


 シルヴァンが、歯を食いしばった。


「《慧眼(クレルヴォヤンス)》!」


 その瞳が、バルドの身体を捉える。


 肩。


 腰。


 足。


 呼吸。


 僅かな変化を読み取る。


 しかし。


「……ぐっ!」


 途端に、頭の奥が軋んだ。


 霊素が乱れる。


 集めた力が、維持できない。


(……まだだ!)


 シルヴァンは意識を集中させた。


 すべてを制御しようとすれば、散ってしまう。


 ならば。


 たった一瞬。


 相手の次の動きだけを読み取る。


(……左へ!)


 バルドの足が動く。


 シルヴァンは、そこへ穂先を向けた。


 シュッ!


「……っ!」


 バルドが目を細める。


 《アクメン》が、頬のすぐ横を通過した。


 僅かに血が滲む。


「……へぇ」


 バルドが小さく呟いた。


「……まだ使えんのかよ」


「……一瞬だけなら!」


 シルヴァンが再び突く。


 しかし。


「……調子に乗んな」


 バルドが《蜂穿》を振るった。


 ガァンッ!


 《アクメン》が大きく弾かれる。


「ぐぅっ!」


 シルヴァンの右腕に、鋭い痛みが走った。


 痺れが強くなる。


 それでも、槍を離さない。


 バルドが踏み込む。


「……《乱穿》」


 《蜂穿》の穂先が、鋭く伸びた。


「……っ!」


 シルヴァンが身体を捻る。


 だが、右腕が遅れた。


 ザシュッ!


「ぐぁっ!」


 槍の穂先が、左肩を浅く貫いた。


 その瞬間。


 細く圧縮された魔力が、体内へ打ち込まれる。


「……がっ⁉︎」


 シルヴァンの身体が、大きく揺れた。


 右腕だけではない。


 左肩まで、思うように動かない。


 身体の奥を、冷たいものが這い回るような感覚。


「……っ!」


 シルヴァンが後退する。


 呼吸が荒くなった。


 視界が、僅かに霞む。


「……はぁっ……はぁっ……!」


 バルドが《蜂穿》を引き戻した。


「……だから、やめとけっつってんだろ」


「……随分と……親切ですね……!」


「……別に」


 バルドが肩を竦める。


「……これ以上やっても、結果は変わんねぇだろ」


「……さて」


 シルヴァンが、苦しげに笑う。


「それは……どうでしょうね」


「……はぁ?」


 バルドが眉を寄せた。


 シルヴァンは《アクメン》を握り直した。


 両腕が重い。


 足元も、覚束ない。


 それでも。


 構えは崩さなかった。


「……まだ、終わっていませんよ」


「……チッ」


 バルドが舌打ちする。


「……本当に面倒くせぇな、お前」


 次の瞬間。


 《蜂穿》が伸びた。


 シュッ!


 シルヴァンが首を傾ける。


 続けて、二撃目。


 《アクメン》で受け流す。


 キィンッ!


 三撃目。


 今度は、脚。


「……っ!」


 跳ぼうとする。


 だが、足が動かない。


「……しまっ!」


 ガンッ!


 《蜂穿》の柄が、シルヴァンの膝を打った。


「ぐぁっ!」


 身体が傾く。


 そこへ、さらに突き。


 だが。


「……まだ!」


 シルヴァンが《アクメン》を振り上げた。


 キィィンッ!


 辛うじて弾く。


 その反動で、身体を回した。


「……お?」


 バルドが目を細める。


 シルヴァンは、倒れかけた姿勢のまま踏み込んでいた。


 右足が石畳を蹴る。


 《アクメン》を、大きく引く。


(……これで!)


 残された霊素を、一点へ集める。


 だが。


 体内を乱す魔力が、それを妨げた。


「……ぐっ!」


 集めた霊素が、散っていく。


 それでも。


 シルヴァンは、槍を突き出した。


「第二継承技――」


 声が掠れる。


「《墜星(シュートエトワール)》!」


 《アクメン》が、一直線に伸びた。


 だが。


 先ほどまでの鋭さはない。


 霊素が足りない。


 踏み込みも、不完全。


 それでも、穂先だけはバルドの胸元へ向かっていた。


「……はぁ」


 バルドが小さく息を吐いた。


「……無茶しやがって」


 《蜂穿》を横へ払う。


 ガァンッ!


「……ぐっ!」


 《アクメン》が弾かれた。


 同時に、シルヴァンの身体が大きく崩れる。


 バルドは、そこへ踏み込んだ。


 槍の柄を返す。


 狙いは、胸元。


 これで終わり。


 そう思った。


 だが。


「…………」


 バルドの足が、止まった。


「……あ?」


 眉が動く。


 何かが。


 近づいていた。


 いや。


 既に、そこにある。


「…………」


 バルドがゆっくりと顔を上げた。


 その視線は、シルヴァンを見ていない。


 もっと遠く。


 広場の向こう側へ向けられていた。


「……何を……!」


 シルヴァンが、荒い息の合間に声を絞り出す。


「戦闘中に……余所見とは……!」


 だが。


 その言葉は、最後まで続かなかった。


 ぞわり。


「…………⁉︎」


 背筋に、冷たいものが走った。


 呼吸が止まる。


 全身の筋肉が、勝手に強張った。


(……何だ……これは……!)


 傷の痛みではない。


 《乱穿》の影響でもない。


 もっと根源的な何か。


 身体が、危険を訴えていた。


「……っ!」


 シルヴァンが《アクメン》を握り直す。


 だが、指先が震えていた。


 視界の先には、相変わらずバルドがいる。


 しかし。


 この圧迫感は、目の前の男から発せられたものではなかった。


(……別の……誰か……?)


 シルヴァンの額から、冷や汗が流れた。


「……何ですか……この……!」


 声が震える。


「……凄まじい、殺気は……!」


 バルドが、深いため息をついた。


「……ったく」


 《蜂穿》を肩に担ぎ直す。


「……遅ぇんだよ」


 シルヴァンが顔を上げる。


「……今なんて……?」


「……別に」


 バルドは答えなかった。


 ただ、面倒そうに舌打ちした。


「……あのオヤジ、また派手にやりやがって……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。