↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

665/673

さっさとかかってこい

     ◇ ◇ ◇


 シュッ!


「……っ!」


 シルヴァンが咄嗟に《アクメン》を振り上げた。


 キィンッ!


 《蜂穿》の穂先が弾かれる。


 だが。


「……遅ぇ」


 バルドが手首を返した。


 再び、突き。


 シルヴァンが半歩退く。


 さらに、三撃目。


「くっ……!」


 槍を引き戻す暇もない。


 《アクメン》の柄を傾け、辛うじて受け流す。


 しかし。


 ザシュッ!


「……ぐっ!」


 《蜂穿》の穂先が、右肩を掠めた。


 鮮血が飛ぶ。


 シルヴァンが大きく後退した。


「……はぁっ……はぁっ……!」


 肩で息をする。


 対するバルドは、相変わらず猫背のままだった。


 《蜂穿》を片手で回し、面倒そうに息を吐く。


「……何だよ。もう終わりか?」


「……冗談を」


 シルヴァンが片眼鏡を押し上げた。


「まだ、始まったばかりでしょう」


「……そうかよ」


 バルドが槍を構え直す。


「……なら、もう少し頑張れ」


 地面を蹴った。


「……っ!」


 シルヴァンの目が動く。


 右肩。


 肘。


 腰。


 そして、踏み込む左足。


 第一継承技。


 《慧眼(クレルヴォヤンス)》。


 相手の僅かな動きから、次の攻撃を予測する。


(……右から!)


 《アクメン》を構える。


 直後。


 ガァンッ!


「ぐぅっ!」


 強烈な衝撃が両腕を襲った。


 予測は正しかった。


 だが、威力が違う。


 《魔脈》によって強化されたバルドの一撃。


 先ほどまでとは、まるで重さが違っていた。


「……っ!」


 シルヴァンの足が滑る。


「……おいおい」


 バルドが鼻を鳴らした。


「……見えてんだろ?」


「……ええ!」


「……なら、ちゃんと防げよ」


 《蜂穿》が引き戻される。


 続けて、下段。


 シルヴァンが跳ぶ。


 だが、バルドはその動きを待っていた。


「……そこ」


 槍が跳ね上がる。


「……っ!」


 シルヴァンが《アクメン》を横へ振るった。


 キィィンッ!


 空中で刃が激突する。


 シルヴァンの身体が、大きく弾かれた。


 着地と同時に、膝が沈む。


「……くっ!」


 だが、反撃する。


 《アクメン》を引き、鋭い突きを放った。


 狙いは、バルドの胸元。


「……ほう」


 バルドが僅かに身を引く。


 穂先が服を掠めた。


 シルヴァンがさらに踏み込む。


「そこです!」


 槍を返し、今度は首元へ。


 だが。


「……甘ぇな」


 バルドが《蜂穿》を引き寄せた。


 ガンッ!


 柄で《アクメン》を押し下げる。


 同時に、穂先が走った。


 ザシュッ!


「……がっ!」


 シルヴァンの左脇腹が裂けた。


 鮮血が石畳へ散る。


「……ぐっ……!」


 後退しようとする。


 しかし。


「……逃がすかよ」


 バルドが踏み込んだ。


「《乱穿》」


 その瞬間。


 《蜂穿》の穂先へ、細く圧縮された魔力が集まった。


 突き。


「……っ!」


 シルヴァンが身を捻る。


 だが、避けきれない。


 ザシュッ!


 穂先が、右の上腕を浅く貫いた。


「くっ……!」


 シルヴァンが槍を振り払い、距離を取る。


 傷は浅い。


 だが。


「……ん?」


 右腕に、奇妙な感覚が走った。


 指先が痺れる。


 続いて、肩。


 そして、胸元。


「……ぐっ⁉︎」


 突然、身体が重くなった。


 呼吸が乱れる。


 全身を、じっとりとした倦怠感が包み込む。


(……何だ、これは……!)


 まるで、毒でも受けたかのようだった。


「……おい」


 バルドが《蜂穿》を肩に担いだ。


「……顔色悪ぃぞ」


「……あなたが、何かしたのでしょう……!」


「……まぁな」


 バルドが面倒そうに答える。


「……毒じゃねぇから安心しろ」


「……安心、できるわけが……!」


 シルヴァンが《アクメン》を構え直した。


 その瞬間。


「……っ!」


 右腕が、思うように持ち上がらなかった。


(……力が……!)


 魔素の巡りがおかしい。


 身体の内側で、何かが流れを乱している。


 シルヴァンは歯を食いしばった。


(……ならば!)


 周囲の魔素を取り込む。


 それを霊素へ変換し、継承技を発動させる。


 だが。


「……なっ⁉︎」


 変換が、うまくいかない。


 普段ならば、淀みなく霊素へと変わるはずの魔素。


 それが、途中で乱れる。


 集めた力が、散っていく。


「……馬鹿な……!」


 シルヴァンが目を見開いた。


 もう一度。


 意識を集中させる。


 だが、結果は同じだった。


「……何を、したんです……!」


「……あ?」


 バルドが首を傾げる。


「……ああ。そっちにも効くのか」


「…………!」


「……面倒な技が使えなくなったんなら、ちょうどいいだろ」


 バルドが《蜂穿》を構え直した。


「……そのまま寝てろよ」


 シュッ!


「……っ!」


 シルヴァンが咄嗟に《アクメン》を振るう。


 キィンッ!


 一撃目を弾く。


 だが、右腕が痺れる。


 二撃目。


 今度は、左肩。


「くっ!」


 身体を捻る。


 辛うじて躱した。


 しかし。


 ガンッ!


「ぐぁっ!」


 《蜂穿》の柄が、胸当てを打ち据えた。


 シルヴァンの身体が後方へ吹き飛ぶ。


 石畳へ叩きつけられ、転がった。


「……がはっ!」


 咳き込む。


 口元から、血が垂れた。


「……はぁっ……はぁっ……!」


 《アクメン》を支えに、片膝をつく。


(……まずいですね)


 相手の動きは、まだある程度読める。


 だが、《慧眼》を維持するための霊素が足りない。


 身体も、思うように動かない。


 このままでは。


「……おい」


 バルドが声をかけた。


「……無理すんなよ」


「……お気遣い、どうも」


「……別に気遣ってねぇ」


 バルドが肩を竦める。


「……倒れられたら、面倒なんだよ」


「……そうですか」


 シルヴァンが苦笑した。


「それは……申し訳ありませんね」


 ゆっくりと立ち上がる。


 足元がふらついた。


 それでも、《アクメン》は手放さない。


「……まだ、やんのか」


「当然でしょう」


「……チッ」


 バルドが舌打ちする。


「……頑固な野郎だな」


「よく言われます」


 シルヴァンが片眼鏡を押し上げた。


「ですが……一つ、分かりましたよ」


「……あ?」


「あなたの攻撃は、ただ速いだけではない」


 右腕を持ち上げる。


 まだ痺れが残っていた。


「体内に何かを打ち込み、魔素の循環を乱している」


「…………」


「おかげで、魔素を霊素へ変換することすら難しい」


 バルドが小さく鼻を鳴らした。


「……そこまで分かってんなら、もういいだろ」


「いいえ」


 シルヴァンが首を振った。


「仕組みが分かれば……対処のしようもあります」


「……はっ」


 バルドが呆れたように笑う。


「……頭でっかちな野郎だ」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「……褒めてねぇよ」


 シルヴァンが《アクメン》を構えた。


 右足を後ろへ。


 左肩を僅かに下げる。


 そして。


 深く、息を吸った。


(……すべてを正常に戻す必要はない)


 乱れた魔力の流れ。


 変換できずに散っていく霊素。


 そのすべてを制御することは、今の自分には難しい。


 だが。


(……一瞬だけなら)


 必要な量だけを集める。


 たった一撃。


 それだけならば。


「……ほう」


 バルドが目を細めた。


「……まだ何か隠してんのか?」


「さて……どうでしょう」


「……チッ」


 バルドが《蜂穿》を握り直した。


「……面倒くせぇな」


 シルヴァンの周囲に、僅かな霊素が集まり始める。


 だが、その流れは不安定だった。


 生まれては散り。


 集まっては乱れる。


 それでも。


 シルヴァンは、槍を下ろさなかった。


「……まだ、終わっていませんよ」


 バルドが、深いため息をつく。


「……ああ、分かったよ」


 《蜂穿》の穂先を、シルヴァンへ向けた。


「……だったら、さっさとかかってこい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。