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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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暴れん坊

 シュッ!


「……うわっ!」


 《翠角》の切っ先が、ノエルの頬を掠めた。


 ノエルが慌てて後方へ跳ぶ。


「ちょっと! 速すぎない⁉︎」


「ははは。君がもっと速くって言ったんじゃないか」


「限度ってもんがあるでしょ!」


「困ったなぁ」


 エルネが小さく笑った。


 その手に握られた《翠角》が、再び動く。


 シュッ!


「……っ!」


 ノエルが剣で受け流す。


 だが、エルネは既に次の動作へ移っていた。


 右足を踏み込む。


 同時に、細剣を引き戻す。


「ほら、そこ」


 キィンッ!


「くっ……!」


 ノエルの剣が弾かれた。


 間髪入れずに、二撃目。


 三撃目。


 エルネは、まるで最初からノエルの動きを知っているかのように、次々と攻撃を繰り出していく。


(……何なのさ!)


 ノエルが歯を食いしばった。


 ただ速いだけではない。


 攻撃。


 防御。


 踏み込み。


 回避。


 そのすべてが、恐ろしく正確だった。


 しかも。


 どれだけ攻撃しても、隙が生まれない。


「……ねぇ、おじさん!」


「何だい?」


「それ、どうやってるの⁉︎」


「うーん……」


 エルネが少し考える。


「必要なところに、必要なだけ力を使っているんだ」


「……それだけ?」


「うん。それだけ」


「絶対嘘でしょ!」


「ははは。嘘じゃないよ」


 エルネが肩を竦めた。


「まぁ、君には少し難しいかな」


「……むっ!」


 ノエルが頬を膨らませる。


「馬鹿にしてる?」


「まさか。君は天才なんだろう?」


「……そうだよ!」


「なら、自分で答えを見つけてごらん」


「言われなくても!」


 ノエルが地面を蹴った。


 右から斬撃。


 エルネが受け流す。


 すぐさま左へ。


 だが、そこには既に《翠角》があった。


 キィンッ!


「……っ!」


 ノエルの腕が押し戻される。


 エルネは追撃しない。


 ただ、静かに細剣を構え直した。


「……惜しいね」


「……何が!」


「攻撃を繋げるのは上手い。でも、相手の反応を見てから次を決めている」


「……それの何が悪いの?」


「悪くはないよ」


 エルネが微笑む。


「ただ、それだと僕には間に合わない」


「…………」


 ノエルの表情が変わった。


 エルネは、その変化を見逃さなかった。


「……おや?」


 ノエルが、ゆっくりと剣を引く。


 右足を後ろへ。


 切っ先を、エルネの胸元へ向けた。


 先ほどまでの構えとは違う。


「……へへっ」


 ノエルが笑う。


「じゃあさ」


「うん?」


「反応できないくらい速かったら、どうする?」


「……なるほど」


 エルネが目を細めた。


「そう来たか」


 ノエルの重心が、僅かに沈む。


 剣を握る右手に、力が籠もった。


「第二継承技――」


 エルネは動かない。


 《翠角》を構えたまま、静かにノエルを見つめていた。


「《瞬穿(ペルセ)》!」


 ダンッ!


 ノエルが地面を蹴った。


 一瞬。


 その姿が、エルネの視界から消える。


 いや。


 消えたのではない。


 あまりにも速い踏み込み。


 次の瞬間には、ノエルの剣が目の前へ迫っていた。


 狙いは胸元。


 無駄な動きを削ぎ落とした、一直線の突き。


 エルネの目が、僅かに見開かれる。


「……うん」


 小さく頷く。


「悪くない」


 だが。


「でも……」


 エルネの手首が、静かに動いた。


「うわっ⁉︎」


 ノエルが声を上げた。


 突き出した剣が、突然止まったのだ。


 いや。


 止められた。


 《翠角》の鍔。


 鹿の角を模した、枝分かれした意匠。


 その隙間に、ノエルの剣が絡め取られていた。


「……なっ⁉︎」


 ノエルが目を見開く。


 剣を引こうとする。


 だが、動かない。


 エルネが、穏やかに微笑んだ。


「《絡角(らくかく)》」


 そして。


「殺気がダダ漏れだよ?」


 僅かに首を傾げる。


「天才くん」


「……っ!」


 エルネが手首を返した。


 《翠角》の鍔に絡め取った剣を、そのまま上へ。


「うわぁっ!」


 ガキィンッ!


 ノエルの手から、剣が弾き飛ばされた。


 くるくると回転しながら、宙を舞う。


「……くそっ!」


 ノエルが咄嗟に手を伸ばす。


 だが、届かない。


 剣が、背後の石畳へ突き立った。


 カランッ!


「……くっ!」


 ノエルが歯を食いしばる。


 すぐに後ろへ跳ぼうとした。


 しかし。


 シュッ!


 《翠角》の切っ先が、目の前へ差し出された。


「…………!」


 ノエルの身体が止まる。


 喉元。


 あと僅かでも動けば、細剣の切っ先が触れる距離。


 エルネは、いつものように穏やかな表情を浮かべていた。


「さて……」


 ノエルが悔しそうに顔を歪める。


 だが、そのとき。


「……おや?」


 エルネの視線が、ふと動いた。


 ノエルではない。


 その向こう側。


 遠く、広場の外へ。


「…………?」


 ノエルが眉を寄せる。


「……何?」


 エルネは答えなかった。


 ただ、何かを感じ取るように目を細める。


 そして。


 ぞわり。


「…………‼︎」


 ノエルの背筋に、冷たいものが走った。


 息が詰まる。


 全身の産毛が逆立った。


 まるで、得体の知れない何かに睨みつけられているような感覚。


「……‼︎ なんだよ……この圧……⁉︎」


 思わず声が漏れる。


 先ほどまで目の前にあった《翠角》の切っ先など、気にならなくなるほどの威圧感。


 ノエルは、ゆっくりと視線を巡らせた。


 だが、何も見えない。


 それなのに。


 何かが。


 確実に、こちらへ近づいていた。


「……やれやれ」


 エルネが小さく息を吐いた。


 その表情には、驚きよりも呆れが浮かんでいた。


「また殺気が抑えられない暴れん坊が来た」

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