困った子だなぁ
◇ ◇ ◇
「……一番、僕が嫌いな極致さ」
エルネが小さく肩を竦めた。
「えー、なんで?」
ノエルが不思議そうに首を傾げる。
「欺く、騙す、翻弄する。そういう戦い方は、あまり好きじゃないんだ」
「へぇ。強ければ何でもいいと思うけどなぁ」
「君らしい答えだね」
エルネが笑った。
そして。
「さて。お話はここまでにしようか」
《翠角》を構える。
「えー! もっと聞きたいのに!」
「続きは、僕から一本取れたらね」
「……またそれ?」
「ははは。頑張って」
ノエルが頬を膨らませた。
だが、その目は楽しそうだった。
「じゃあ、今度こそ一本取ってやる!」
地面を蹴る。
シュッ!
剣が、エルネの首元へ伸びた。
「おっと」
《翠角》が動く。
キィンッ!
刃を受け流す。
だが、ノエルの攻撃は終わらない。
剣を引き戻し、今度は脇腹へ。
「《無拍》!」
「……っ!」
エルネが身体を捻る。
シュッ!
刃が服を掠めた。
「危ないなぁ」
「余裕そうに言わないでよ!」
ノエルが踏み込む。
肩の動きも。
重心の移動も。
剣を振るう直前の力みすら、ほとんど感じられない。
エルネの頬に、再び浅い傷が走った。
「……なるほど」
エルネが目を細める。
「さっきより、さらに無駄が減ったね」
「へへっ! 天才だからね!」
「うん。確かに」
エルネが素直に頷く。
「でも、惜しい」
「……は?」
「剣を振り始める瞬間は読めない。だけど、振り終わったあとには隙がある」
シュッ!
《翠角》が伸びた。
「……っ!」
ノエルが咄嗟に剣を引き戻す。
キィンッ!
辛うじて防ぐ。
だが、エルネは既に次の動作へ移っていた。
「ほら、右足」
「……え?」
ノエルの視線が落ちる。
踏み込みすぎた右足。
重心が前へ流れていた。
そこへ。
「《寸角》」
鋭い突き。
「くっ!」
ノエルが身体を反らす。
《翠角》の切っ先が、胸元を掠めた。
「危なっ!」
「うん。今のはよかった」
「……っ! 戦いながら採点しないでよ!」
「癖なんだ。ごめんね」
エルネが穏やかに笑う。
だが。
ノエルは気づいていた。
エルネの剣には、まだ余裕がある。
こちらがどれだけ攻め込んでも、決定的な隙が見つからない。
(……ほんっと、嫌になるなぁ)
それでも。
ノエルは笑った。
(でも、面白い!)
「ねぇ、おじさん!」
「何だい?」
「もっと速く動けないの?」
「……速く?」
「そう! 僕、まだまだいけるよ!」
エルネが瞬きをした。
そして、小さく笑う。
「……困った子だなぁ」
《翠角》を下ろす。
「じゃあ、少しだけ」
「……お?」
ノエルが剣を構え直した。
エルネは一度、深く息を吸う。
そして。
「《魔脈》」
「…………?」
ノエルが眉を寄せた。
その瞬間。
エルネが踏み込んだ。
「……っ⁉︎」
速い。
先ほどまでとは比べものにならない。
《翠角》の切っ先が、既に眼前へ迫っていた。
「うわっ!」
ノエルが首を傾ける。
シュッ!
頬のすぐ横を、細剣が通過した。
だが。
「まだだよ」
エルネの足が動く。
ノエルの側面へ。
同時に、手首が返された。
「……えっ?」
横から、二撃目。
キィンッ!
ノエルが剣で受ける。
しかし、今度は下から。
「ちょっ……!」
さらに、上段。
「待ってって!」
「待ったら意味がないでしょ?」
エルネが笑った。
その攻撃には、先ほどまでと同じく無駄がない。
ただし。
速さも。
踏み込みの鋭さも。
剣に込められた力も。
すべてが跳ね上がっていた。
(……何なの、この人!)
ノエルが歯を食いしばる。
精霊術を使っているようには見えない。
継承技とも違う。
それなのに。
(……急に強くなりすぎでしょ!)
キィィンッ!
ノエルの剣が、大きく弾かれた。
胸元が開く。
エルネの《翠角》が、そこへ向けられた。
「……さて」
エルネが微笑む。
「次は、これを見せてあげようか」
全身を巡る魔力の流れが変わった。
「《枝角》」
ノエルの目が、僅かに見開かれた。
◇ ◇ ◇




