いいところだってのによぉ
「ガッハッハッハ!」
ゲンザが豪快に笑った。
「いいねぇ! そうこなくっちゃな!」
ダリウスは《ルイナ》を支えに立ち上がった。
胸の奥が、ずきりと痛む。
鎧の表面は僅かにへこんだだけ。
だというのに、息を吸うたび、身体の内側から何かに押し潰されるような痛みが走った。
(……とんでもねぇ一撃だな)
ダリウスが歯を見せる。
「なぁ、ゲンザ!」
「あん?」
「今の、もう一発食らったらやべぇな!」
「ガッハッハ! だろうな!」
「だったらよぉ……!」
ダリウスが《ルイナ》を握り直した。
「食らう前にぶっ飛ばすしかねぇだろ!」
「おう! やってみろ!」
ダリウスが地面を蹴った。
ゲンザもまた、真正面から迎え撃つ。
ガァァンッ!
《ルイナ》と《虎鉄》が激突した。
「……ぐっ!」
ダリウスの腕が押し戻される。
先ほどとは違う。
ゲンザの力が、明らかに増していた。
だが。
「まだまだぁ!」
ダリウスが腰を捻った。
押し戻された《ルイナ》を、その勢いのまま横へ振り抜く。
「おおっ!」
ゲンザが身を引いた。
巨大な槌頭が、目の前を通過する。
そのまま。
ダリウスは《ルイナ》を頭上へ持ち上げた。
「第一継承技――」
ゲンザの目が細くなる。
「《破城》!」
ドゴォォンッ!
巨大な戦槌が振り下ろされた。
ゲンザは二本の《虎鉄》を交差させる。
「おらぁっ!」
ガァァァンッ!
衝撃が足元へ突き抜けた。
石畳が砕け、破片が周囲へ飛び散る。
「ぬぉっ!」
ゲンザの膝が沈む。
《魔脈》で強化した身体でさえ、完全には受け止めきれない。
「ガッハッハ! 重てぇなぁ!」
「まだ終わりじゃねぇぞ!」
ダリウスが《ルイナ》を引き戻した。
そして。
「第二継承技――」
今度は、槌頭を地面へ向ける。
「《地裂》!」
ドゴォォォンッ!
石畳が爆ぜた。
地面を走る亀裂が、ゲンザの足元へ迫る。
「おおっ⁉︎」
ゲンザが跳んだ。
直後、立っていた場所が大きく砕ける。
無数の石片が、宙へ舞い上がった。
「もらったぁ!」
ダリウスが《ルイナ》を振り上げる。
空中のゲンザへ。
逃げ場のない一撃。
だが。
「ガッハッハッハ!」
ゲンザは笑っていた。
「そういうのを待ってたんだよ!」
二本の《虎鉄》を構え直す。
「《虎乱砲輪》!」
両腕が回った。
右。
左。
二本の短棍が、円を描くように振るわれる。
ガンッ!
ガガガンッ!
飛来する石片が、次々と打ち返された。
「……おいおい!」
ダリウスが目を見開く。
「そいつまで武器にすんのかよ!」
「使えるもんは使わねぇとな!」
ゲンザが着地した。
同時に、右の《虎鉄》を振り抜く。
ダリウスが《ルイナ》の柄で受け止めた。
ガンッ!
「ぐぅっ!」
再び、重い衝撃。
ダリウスの足が滑る。
ゲンザが踏み込む。
だが。
「……へっ!」
ダリウスは笑った。
《ルイナ》を地面へ突き立てる。
その反動で身体を捻り、ゲンザの側面へ回り込んだ。
「おっ!」
「こいつはどうだ!」
戦槌の柄が、ゲンザの脇腹へ迫る。
「ぬぉっ!」
ゲンザが左の《虎鉄》で受ける。
ガンッ!
だが、ダリウスは止まらない。
柄を引き寄せ、今度は槌頭を振り上げる。
「おらぁ!」
ゲンザが右の《虎鉄》を振り下ろした。
ガァンッ!
互いの武器が弾かれる。
そして。
「「ガッハッハッハ!」」
二人が、同時に笑った。
「やっぱお前、最高だぜ!」
「そりゃこっちの台詞だ!」
ダリウスが《ルイナ》を肩に担ぐ。
ゲンザも二本の《虎鉄》を打ち鳴らした。
カンッ!
互いに傷だらけだった。
ダリウスの胸には、未だ《虎嘯》の痛みが残っている。
ゲンザもまた、先ほどの継承技を受けた両腕が痺れていた。
だが。
どちらも、退くつもりはなかった。
「……なぁ、ゲンザ」
「何だ?」
「そろそろ、決めようじゃねぇか」
「……へっ!」
ゲンザが笑う。
「気が合うじゃねぇか!」
ダリウスが《ルイナ》を両手で握り直した。
槌頭を低く下げ、身体の右側へ引く。
「……お?」
ゲンザが眉を上げた。
「何だぁ、その構えは?」
「へっ! 見りゃ分かる!」
ダリウスが腰を落とす。
そして。
《ルイナ》を、大きく振り回し始めた。
ブォンッ!
巨大な槌頭が、地面すれすれを通過する。
一回転。
さらに、二回転。
戦槌の重量に引かれるように、ダリウスの巨体が旋回していく。
「……おいおい!」
ゲンザが目を見開いた。
「そいつを振り回すってのか!」
「ガッハッハ!」
ダリウスが笑う。
「重てぇならよぉ!」
さらに一回転。
「その重さを、全部ぶつけりゃいいだろ!」
ブォォォンッ!
風が唸った。
槌頭の通り道にあった瓦礫が、次々と弾き飛ばされる。
回転するたびに、勢いが増していく。
だが。
「……へっ!」
ゲンザが笑った。
「いいねぇ! そういう馬鹿でけぇ技は大好きだぜ!」
二本の《虎鉄》を握り直す。
「だったら俺も、とっておきを見せてやるよ!」
全身を巡る魔力が、激しく脈打った。
「《虎乱須武》!」
ゲンザの両腕が動いた。
右。
左。
上段。
下段。
二本の《虎鉄》が、目にも留まらぬ速度で振るわれる。
ダリウスが《ルイナ》を振り抜いた。
ガガガガンッ!
巨大な槌頭へ、無数の打撃が叩き込まれる。
「……ぬぉっ⁉︎」
ダリウスの腕が跳ねた。
回転の勢いを乗せた《ルイナ》が、大きく弾き返される。
だが。
「ガッハッハ! やるじゃねぇか!」
ダリウスは笑った。
弾かれた《ルイナ》を、そのまま引き戻さない。
むしろ。
その勢いを利用して、さらに大きく身体を回した。
一回転。
二回転。
先ほどよりも、さらに速く。
「……ほう!」
ゲンザが目を細める。
「そいつは面白ぇ!」
「まだ終わりじゃねぇぞ!」
ダリウスの両足が、石畳を強く踏みしめた。
回転する《ルイナ》が、風を巻き込む。
「第三継承技――」
ゲンザが、ゆっくりと構えを変えた。
二本の《虎鉄》を身体の左右へ。
そして。
腰を落とす。
さらに、低く。
膝を深く曲げ、上体を前へ倒した。
まるで。
獲物を狙う、虎。
「…………」
ダリウスの目が細くなる。
先ほどまでとは違う。
あれほど豪快に笑っていた男が、静かに自分を見据えていた。
ゲンザの足元が、僅かに沈む。
両脚に力が蓄えられていく。
《魔脈》で強化された筋肉が、限界まで引き絞られる。
「……ガッハッハ!」
ゲンザが笑った。
「さぁ、来いや!」
「望むところだぁ!」
ダリウスが最後の一回転へ入った。
「《轟旋》!」
巨大な《ルイナ》が、凄まじい風圧とともに迫る。
その瞬間。
ゲンザが、地面を蹴った。
ドンッ!
低い姿勢のまま、一直線に飛び込む。
まるで、獲物へ襲いかかる虎のように。
「《虎乱侍襲飛》!」
右の《虎鉄》が走った。
続けて、左。
さらに右。
踏み込みの勢いを乗せた連撃が、《ルイナ》へ迫る。
巨大な戦槌。
虎のように飛びかかる双短棍。
二つの大技が、真正面から激突する。
その、寸前。
「…………⁉︎」
ダリウスの身体が止まった。
回転していた《ルイナ》が、空中で静止する。
同時に。
ゲンザの身体も、飛びかかった姿勢のまま動きを止めていた。
「……なっ⁉︎」
ダリウスの目が見開かれる。
腕が動かない。
足も。
指先すら。
まるで、身体そのものを何かに押さえつけられたかのようだった。
(……何だ、これは⁉︎)
ダリウスは必死に力を込める。
だが、動かない。
対するゲンザは。
「…………」
僅かに眉を寄せた。
そして。
「……ったく」
小さく舌打ちする。
「いいところだったってのによぉ」




