ちっと効きすぎたか!
◇ ◇ ◇
ガァァンッ!
《ルイナ》と二本の《虎鉄》が激突した。
「ぬぉぉぉぉ!」
「おらぁぁぁぁ!」
互いに一歩も引かない。
だが。
「……ぐっ!」
ゲンザの足が、僅かに後ろへ滑った。
ダリウスが、さらに力を込める。
「どうしたゲンザぁ! さっきまでの威勢は!」
「ガッハッハ! 言ってくれるじゃねぇか!」
笑いながらも、ゲンザの両腕は押し込まれていた。
《ルイナ》の巨大な槌頭が、じりじりと迫る。
そして。
「おらぁっ!」
ダリウスが一気に押し切った。
「ぬぉっ!」
ゲンザの身体が後方へ弾かれる。
石畳を滑りながら、どうにか踏み止まった。
「ガッハッハッハ!」
ダリウスが豪快に笑う。
「力比べなら、俺の勝ちみてぇだな!」
「……へっ」
ゲンザが口元を拭った。
「そうだなぁ。普通にやり合ったんじゃ、お前の方が上かもしれねぇ」
「お?」
「だったらよぉ……」
ゲンザが二本の《虎鉄》を握り直した。
「ちっとばかし、本気を出すとするか!」
その瞬間。
「《魔脈》」
ゲンザの全身を、魔力が駆け巡った。
両腕。
肩。
背中。
そして、両脚。
筋肉が膨れ上がり、足元の石畳が軋む。
「……ん?」
ダリウスが眉を上げた。
「何だ、そりゃ?」
「ガッハッハ! まぁ、見てな!」
ゲンザが地面を蹴った。
ドンッ!
「……っ!」
ダリウスの目が見開かれる。
速い。
先ほどまでとは、明らかに違う。
「おらぁっ!」
右の《虎鉄》が振り下ろされた。
「ぬぅっ!」
ダリウスが《ルイナ》で受け止める。
ガァァンッ!
「……ぐっ⁉︎」
重い。
先ほどまでとは比べものにならない衝撃。
ダリウスの両腕が、大きく沈んだ。
だが、ゲンザは止まらない。
「まだまだぁ!」
左。
右。
再び左。
ガンッ!
ガァンッ!
ドゴォンッ!
二本の《虎鉄》が、次々と《ルイナ》へ叩きつけられる。
「ぬぉぉっ!」
ダリウスが歯を食いしばった。
受け止めるたびに、足が後方へ滑る。
先ほどまで押していたはずの自分が。
今度は、押し込まれていた。
「……何だ、その馬鹿力は!」
「ガッハッハ! どうだぁ!」
「面白ぇじゃねぇか!」
ダリウスが笑った。
《ルイナ》を大きく振りかぶる。
「だったら、こいつはどうだ!」
渾身の横薙ぎ。
巨大な槌頭が、ゲンザへ迫る。
だが。
「おらよっ!」
ゲンザは二本の《虎鉄》を交差させた。
ガァァァンッ!
「……なっ⁉︎」
ダリウスの目が見開かれる。
《ルイナ》が、大きく弾かれた。
両腕が持ち上がり、胸元が無防備になる。
その瞬間。
「……へっ!」
ゲンザが笑った。
右の《虎鉄》を引く。
全身を巡っていた魔力が、打撃を放つ右腕へ集中する。
「《虎嘯》!」
ドンッ!
短棍が、ダリウスの胸当てを捉えた。
だが。
鎧は砕けなかった。
僅かにへこんだだけ。
それなのに。
「……がっ⁉︎」
ダリウスの身体が、大きく跳ねた。
胸の奥。
鎧の内側へ、凄まじい衝撃が突き抜ける。
「ぐ……ぉ……っ!」
肺から、一気に空気が押し出された。
呼吸が止まる。
視界が揺れる。
まるで、鎧など着ていなかったかのような一撃。
ダリウスが数歩後退した。
そして。
ドサッ。
片膝をついた。
「……がはっ! げほっ……!」
咳き込みながら、胸元を押さえる。
鎧には、小さなへこみがあるだけだった。
だが、その奥が焼けるように痛む。
(……何だ、今のは……!)
ただの打撃ではない。
あの短棍が鎧に触れた瞬間、何かが身体の内側へ突き抜けてきた。
「……おいおい」
ダリウスが、苦しげに笑った。
「とんでもねぇもん隠してやがったな……!」
「ガッハッハ!」
ゲンザが《虎鉄》を肩に担ぐ。
「悪ぃな! ちっと効きすぎたか!」
「……へっ!」
ダリウスが《ルイナ》を支えに、ゆっくりと立ち上がろうとする。
「この程度で……終われるかよ……!」
その口元には、まだ笑みが残っていた。




