ド派手
◇ ◇ ◇
「……ようやくやな」
フーガが笑った。
その正面。
セリオは、ゆっくりと息を吐く。
「……ああ」
足元に。
淡い光が広がった。
「……待たせたな」
「ほんまやで。どんだけ焦らすねん」
「勝手に待ってただけだろ」
「ははっ! せやな!」
フーガが《龍憑》を肩へ担ぐ。
相変わらず。
飄々とした態度。
だが。
セリオは、もう分かっていた。
あの男は。
隙だらけに見えて、隙がない。
力を抜き。
身体を緩め。
斬る瞬間だけ、必要な力を込める。
その動きは、何度見ても掴みづらい。
(……面倒な野郎だ)
セリオが右手を上げる。
そして。
「……行くぞ」
ゴォォォォッ!
轟音。
セリオの周囲から、炎が噴き上がった。
「……お?」
フーガが眉を上げる。
炎は、一つではない。
二つ。
三つ。
四つ。
幾本もの火柱が、セリオの周囲に立ち上がる。
その熱で。
石畳が、赤く照らされた。
「……ははっ!」
フーガが笑う。
「いきなり派手やなぁ!」
「まだだ!」
セリオが腕を振り下ろす。
ドゴォォォンッ!
火柱が、一斉に倒れた。
まるで。
巨大な槍のように。
フーガへ向かって殺到する。
「……っ!」
フーガが地面を蹴る。
一本目。
横へ。
二本目。
身体を沈める。
三本目。
《龍憑》を振り抜いた。
ゴォンッ!
炎が割れた。
だが。
「……っ⁉︎」
割れた炎の向こう。
さらに巨大な火球が浮かんでいた。
「……おいおい!」
ドゴォォォンッ!
爆発。
石畳が砕け散る。
熱風が、周囲へ吹き荒れた。
「……っは!」
フーガが炎の中から跳び出した。
軍服の裾が焦げている。
「……ははっ!」
それでも。
笑っていた。
「ええやん! めっちゃええやん!」
「……余裕だな」
セリオが呟く。
その両手に。
光が集まった。
現れたのは。
風を纏う双剣。
《飛燕》。
「……っ!」
セリオが地面を蹴る。
シュンッ!
一瞬で距離を詰めた。
右。
左。
斜め。
連続する斬撃。
ガギンッ!
ギィンッ!
フーガが《龍憑》で受け流す。
だが。
セリオは、そこで止まらない。
双剣を交差させた。
ゴォッ!
暴風。
刃の軌跡に沿って、巨大な風の刃が生まれた。
「……っ!」
フーガが後方へ跳ぶ。
だが。
風の刃は、地面を抉りながら追いかけてくる。
「……うおっ!」
フーガが《龍憑》を振り下ろした。
ガァンッ!
風の刃が砕ける。
その瞬間。
「……上だ!」
セリオの声。
「……っ!」
フーガが顔を上げる。
頭上。
空気が渦を巻いていた。
巨大な竜巻。
それが。
真下へ向かって落ちてくる。
「……ははっ!」
フーガが笑った。
「どんだけやねん!」
ダンッ!
地面を蹴る。
だが。
竜巻の吸引力が、身体を引き戻した。
「……っ!」
フーガが足を踏ん張る。
石畳が削れる。
その瞬間。
セリオが左手を前へ突き出した。
ゴォォォッ!
炎が走る。
竜巻へ。
吸い込まれるように。
炎が絡みついた。
「……おいおい……!」
フーガが目を見開く。
竜巻が。
赤く染まっていく。
炎を纏った巨大な渦。
その中心へ。
フーガが引き込まれた。
ドゴォォォンッ!
爆音。
火炎の竜巻が、石畳を削りながら暴れ回る。
だが。
次の瞬間。
シュバッ!
赤い渦の一角が、鋭く裂けた。
「……っ!」
セリオが目を細める。
炎の向こう。
フーガが、跳び出してきた。
《龍憑》を振り抜いた姿勢。
肩から血が流れている。
だが。
「……ははっ!」
笑っていた。
「……ええなぁ!」
「……しぶとい野郎だ」
「そらこっちの台詞や!」
フーガが踏み込む。
シュッ!
《龍憑》が、横へ走った。
「……っ!」
セリオが《飛燕》を交差させる。
ガギィンッ!
衝撃。
腕が痺れた。
だが。
セリオは、そのまま身体を捻る。
《飛燕》が光へ変わった。
代わりに。
炎を纏う大剣。
《天燼》。
「……っ!」
ゴォンッ!
巨大な刃が、フーガへ振り下ろされる。
「……うおっ!」
フーガが《龍憑》を横へ構える。
ガァンッ!
石畳が砕けた。
その瞬間。
セリオの左手が、地面へ向けられる。
ドゴゴゴゴッ!
「……っ⁉︎」
フーガの足元。
地面が隆起した。
巨大な岩の柱が、真下から突き上がる。
「……っ!」
フーガが咄嗟に跳んだ。
だが。
その先へ。
セリオの《天燼》が迫っていた。
「……くっ!」
ガギィンッ!
刃がぶつかる。
フーガの身体が、空中で押し戻された。
そこへ。
ゴォォォッ!
炎の奔流。
「……っ!」
フーガが身体を捻る。
炎が肩を掠めた。
軍服が焼ける。
そのまま。
岩柱へ足をついた。
ダンッ!
蹴る。
一直線に。
セリオへ。
「……っ!」
《龍憑》が、鋭く突き出された。
セリオは《天燼》を消す。
光。
現れたのは。
大盾。
《鎮岳》。
ガァンッ!
刃が、盾へ突き刺さるようにぶつかった。
「……ぐっ!」
衝撃。
セリオの身体が、後方へ押し戻される。
だが。
「……甘ぇ!」
セリオが盾を押し出した。
ドゴンッ!
「……っ!」
フーガの身体が、僅かに浮く。
その瞬間。
セリオが足元へ掌を向けた。
ドゴゴゴッ!
岩の柱が、再び突き上がった。
「……っ!」
フーガが身体を捻る。
だが。
避けきれない。
ドッ!
「ぐっ……!」
岩が、脇腹を掠めた。
身体が傾く。
その隙へ。
セリオの右手。
《鎮岳》が光へ変わる。
現れたのは。
水を纏う長槍。
《海潚》。
「……っ!」
シュバッ!
突き。
フーガが《龍憑》で弾く。
だが。
その穂先から。
大量の水が噴き出した。
「……おっ⁉︎」
ゴォォォッ!
巨大な水流。
まるで。
堰を切った大河のように。
フーガを飲み込む。
「……っ!」
フーガが《龍憑》を振るう。
水が割れる。
だが。
割れた先から、さらに水が押し寄せた。
「……っ!」
身体が押し流される。
足元を奪われる。
そのまま。
ドゴォォンッ!
石壁へ叩きつけられた。
「……っは!」
フーガが息を吐く。
壁に亀裂が走る。
だが。
セリオは止まらない。
《海潚》を構え直す。
そして。
左手を、ゆっくりと上げた。
ゴゴゴゴゴッ!
水が持ち上がる。
地面を流れていた水が。
次々と。
宙へ浮かび上がった。
「……お?」
フーガが顔を上げる。
その頭上。
巨大な水塊。
それが。
徐々に形を変えていく。
幾本もの。
巨大な水の槍。
「……はは」
フーガが笑う。
「……ほんま、派手やなぁ」
「……まだ終わってねぇぞ」
セリオが腕を振り下ろす。
シュババババッ!
水の槍が、一斉に降り注いだ。
ドゴンッ!
ドゴゴゴッ!
石畳が砕ける。
水飛沫が舞い上がる。
フーガの姿が、見えなくなった。
「…………」
セリオは、槍を構えたまま動かなかった。
水飛沫。
砕けた石。
立ち込める蒸気。
その向こう。
何かが、動いた。
「……っ!」
シュンッ!
刃。
水飛沫を裂いて。
《龍憑》が迫る。
「……ちっ!」
セリオが《海潚》を横へ構えた。
ガギィンッ!
衝撃。
身体が押し戻される。
その正面。
フーガが笑っていた。
全身、傷だらけ。
軍服は裂け。
肩から血が流れている。
それでも。
その目は、輝いていた。
「……ははっ!」
フーガが笑う。
「……最高やん!」
「……っ!」
セリオが奥歯を噛む。
これだけの術を浴びせた。
これだけの攻撃を重ねた。
それでも。
この男は。
まだ、笑っている。
「……テメェ」
セリオが槍を構え直した。
「……本当に、人間かよ」
「……ははっ!」
フーガが笑う。
「そら、こっちの台詞や!」
《龍憑》を肩へ担ぐ。
「四つも霊器持っとって」
周囲を見渡す。
燃え上がる石畳。
隆起した岩柱。
水浸しになった広場。
「こんだけ術ぶっ放して」
そして。
にやりと笑う。
「……どっちが化け物やねん」
「……うるせぇ」
セリオが《海潚》を消した。
光が散る。
両手へ。
再び《飛燕》が現れる。
「……まだまだあるぞ」
「……おぉ!」
フーガが笑う。
「そら楽しみや!」
セリオの周囲。
再び。
炎が灯る。
水が浮かぶ。
風が渦を巻き。
地面が震えた。
そして。
その正面で。
フーガが《龍憑》を構える。
「……ほな」
笑みが。
僅かに鋭くなった。
「次は、こっちから行くで」
ダンッ!
地面が弾けた。
フーガが、一気に距離を詰める。
セリオの四方から。
炎と水が、同時に動いた。
激突。
轟音。
二人の戦いは。
さらに激しさを増していった。




