↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

647/674

希望達③

「……なぁ」


 フーガが、額から流れる血を指先で拭った。


「あ?」


「お前、なんで術使わんの?」


「…………」


 セリオの眉が、わずかに動いた。


「……テメェには関係ねぇだろ」


「まぁ、そうやけどな」


 フーガは《龍憑》を肩に担いだ。


「……出し惜しみして勝てる相手やと思われてんの?」


 その口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「心外やわぁ」


 くるり。


 フーガが手首を回した。


 次の瞬間。


 キィィンッ!


「……っ!」


 《龍憑》が閃いた。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 刃が、ほとんど間を置かずに襲いかかる。


「おらっ!」


 セリオは《飛燕》を交差させた。


 カンッ! キィンッ!


 右の刃で受け流し、左で弾く。


 だが、フーガの攻撃は止まらない。


「……ほらほら!」


「うるせぇ!」


 セリオが踏み込んだ。


 《飛燕》が光へ戻る。


 代わって、赤い光が両手に集まった。


 炎の大剣。


 《天燼》。


「さぁな!」


 ゴォッ!


 熱を帯びた刃が、横薙ぎに振るわれる。


 フーガは《龍憑》を斜めに構えた。


 キィィンッ!


 刃が滑り、火花が散る。


「……なんや、それ」


 フーガが首を傾げる。


「それとも、術が得意やないん?」


「んなわけねぇだろ!」


 セリオが《天燼》を振り上げる。


 ガキンッ!


 続けて、振り下ろす。


 ガァンッ!


 さらに踏み込み、斜めに斬り上げた。


 キィィンッ!


 だが。


 フーガは全てを捌いていた。


「……なぁ」


 刃を受け流しながら、フーガが笑う。


「教えてや」


「……っ!」


「なんで使わんの?」


 キンッ!


 《龍憑》が《天燼》の刃を弾いた。


 セリオが歯を食いしばる。


「だから……!」


 一瞬。


 その視線が、横へ向いた。


 少し離れた場所。


 そこには、アルトがいた。


 そして。


 双鉤爪を構えた、軍服に黄色の装いが入った物を着る青年。


 ミュゼ。


「…………」


 セリオはすぐに視線を戻した。


 《天燼》を握る両腕に力を込める。


「関係ねぇって……!」


 ガギィンッ!


 大剣を勢いよく斬り上げた。


「……おっ!」


 《龍憑》が上方へ弾かれる。


 フーガの両腕が持ち上がった。


 がら空きになった胴体。


「言ってんだろうが!」


 《天燼》が光へ戻る。


 風が渦巻いた。


 双剣《飛燕》。


「おらぁっ!」


 セリオが一気に踏み込む。


 だが。


「……はぁ」


 フーガが溜息をついた。


「つまらん」


「……あ?」


 その瞬間。


 上方へ弾かれたはずの《龍憑》が。


 無理やり。


 振り下ろされた。


「……⁉︎」


 セリオが目を見開く。


(……速ぇ!)


 咄嗟に《飛燕》を交差させた。


 直後。


 ガァァァンッ!


「ぐっ……!」


 凄まじい衝撃。


 セリオの膝が沈んだ。


 石畳に亀裂が走る。


「……おいおい」


 フーガの声が、頭上から降ってくる。


「ミュゼを殺した言うから、どんな奴か思ったら……」


「……っ!」


「拍子抜けや」


 ギリギリッ……!


 《龍憑》が、二振りの《飛燕》を押し込んでいく。


「……本気出さんなら」


 フーガが、にやりと笑った。


「殺すぞ?」


「……ぐっ!」


 セリオが歯を食いしばる。


(……重い)


 腕が震えた。


 先ほどまでの軽い動きとは、まるで違う。


(……こりゃ、きついな)


 細い刀身からは想像もつかない圧力。


 少しでも力を抜けば、押し潰される。


 だが。


「……はっ!」


 セリオが笑った。


「俺が術を使ったらな……!」


 《飛燕》を握る腕に力を込める。


「テメェなんか瞬殺だからな!」


「……へぇ」


 フーガの口元が吊り上がった。


「ええやん」


 さらに体重が乗る。


「殺してみろや」


「……っ!」


 ギギギッ!


 セリオの靴底が、石畳を削った。


(……クソが)


 本来なら。


 ここで術を使ってもよかった。


 いや。


 使うべき相手だった。


 だが。


(……スパーナにいる間は、なるべく術に頼らねぇつもりだったんだがな)


 霊器と己の技量だけで、どこまで戦えるのか。


 そのために、できる限り術を使わずにいた。


 しかし。


(……こいつは、そんなこと言ってられる相手じゃねぇ)


 術を使わずに勝てる。


 そんな確信は、とうに失せていた。


 それでも。


(……アルトの野郎が近ぇ……!)


 セリオが、再び視線を横へ向ける。


 アルト。


 そして、ミュゼ。


 二人は、まだ近くにいた。


(……下手に術を使えば、あいつまで巻き込んじまう)


 それだけではない。


(……それに、あのミュゼって野郎)


 猫のような鉤爪。


 黄色い軍服。


 見間違えるはずがない。


(……なんで、生きてやがる?)


 あの時。


 確かに死んだはずだった。


 フィンの術を受けて。


 倒れた。


 動かなくなった。


 それなのに。


 今、あの男は平然と立っている。


(……どうなってやがる)


 そして。


(……あんな奴を、このままアルトと戦わせていいのか?)


 背筋に、嫌なものが走った。


 自分の能力まで知っていた男。


 死んだはずなのに生きている男。


 その正体すら分かっていない。


 何より。


 アルトは、すでに満身創痍だった。


「…………」


 セリオの目が細くなる。


 その時。


「……あ?」


 フーガが声を漏らした。


 セリオの視線。


 その向きを追う。


 そして。


「…………」


 少しの沈黙。


 やがて。


「……なんや」


 フーガが笑った。


「お前、アルトのこと気にしてんの?」


「……っ!」


 セリオの表情が歪む。


「……はぁ?」


「なんやなんや!」


 フーガが、嬉しそうに声を上げた。


「ええ奴やん!」


「……うるせぇ!」


「そういうことかいな!」


 フーガは《龍憑》を引いた。


 突然、圧力が消える。


「……っ!」


 セリオが一歩退いた。


 だが、フーガは追撃しない。


 代わりに。


「おーい! ミュゼ!」


 広場へ向かって声を張り上げた。


     ◇ ◇ ◇


「……ん?」


 少し離れた場所。


 ミュゼが顔を上げた。


 その両手には、鉤爪型の魔器《遊猫》。


 向かいには、傷だらけのアルトが立っていた。


「……なんすかぁ?」


「お前ら、もうちょい離れーや!」


「……は?」


「この兄ちゃんが本気出せん言うてんねん!」


「…………」


 ミュゼが、セリオへ視線を向けた。


 その顔が、途端に嫌そうに歪む。


「……うげ」


 見覚えのある顔。


 できれば、もう関わりたくない男だった。


「……えぇ」


 ミュゼが露骨に肩を落とす。


「怖いんすけど……」


 そして、アルトへ向き直った。


「……離れましょ、アルトさん」


「…………」


 アルトは動かなかった。


 ただ、目の前の青年を見つめている。


「……なぁ」


「はい?」


「……俺とお前、戦うのか?」


「…………」


 ミュゼが瞬きをした。


「……今さらっすか?」


「……だって」


 アルトは顔をしかめた。


「お前、さっきから何なんだよ」


「…………」


 ミュゼは、少しだけ黙った。


 そして。


「……んー」


 頭を掻く。


「俺の八つ当たりっすよ」


「……八つ当たり?」


「そうっす」


 軽い口調。


 だが。


 その目は、笑っていなかった。


「……ちょっと、むかついてるんで」


「…………」


 アルトは眉を寄せた。


 その理由を尋ねようとした。


 だが。


「ミュゼ!」


 再び、フーガの声が響いた。


「……はい?」


 ミュゼが振り向く。


「殺すなよ?」


「…………」


 一瞬。


 ミュゼの表情が消えた。


 グウェンの首。


 それを埋めたいと言ったアルトの顔が、脳裏を過ぎる。


 自分たちが何者なのか。


 あの男は、本当に分かっているのだろうか。


 あれほど長く、不死隊にいたというのに。


「…………」


 ミュゼは小さく息を吐いた。


「……はーい」


 間延びした返事。


 それが本心かどうかは、分からなかった。


 フーガは満足そうに頷いた。


 そして。


「……アルト!」


「……なんだよ」


 アルトが顔を上げる。


 フーガは《龍憑》を肩に担いだまま、笑っていた。


「負けんなよ?」


「…………」


 アルトが目を瞬かせる。


「……は?」


「頑張れや」


「……お前……」


 アルトの眉間に皺が寄った。


 さっきまで。


 自分を地面へ押さえつけていた男。


 仲間たちを殺そうとしていた男。


 その男が。


 今度は、負けるなと言っている。


「……意味わかんねー!」


 アルトが叫んだ。


「はははっ!」


 フーガは楽しそうに笑った。


 だが。


 アルトの隣にいるミュゼは、笑わなかった。


「…………」


 《遊猫》の鉤爪を見下ろす。


 ゆっくりと、指を握った。


 フーガの言葉は聞こえている。


 だが。


 目の前のアルトを見ていると、どうしても苛立ちが消えなかった。


「……行きましょ」


 ミュゼが歩き出す。


「……おう」


 アルトも、その後を追った。


 互いに背を向けることなく。


 少しずつ。


 セリオたちから距離を取っていく。


     ◇ ◇ ◇


「……おい」


 セリオが低く唸った。


「……なんや?」


 フーガが振り返る。


「テメェ……何考えてやがる」


「ん?」


「アルトを殺そうとしてたんじゃねぇのかよ」


「…………」


 フーガが首を傾げた。


「……さぁ?」


「……あ?」


「どうなるかなんて、分からんやろ」


 そう言って。


 《龍憑》を構え直す。


「……それより」


 フーガの口元が吊り上がった。


「これで、ええんやろ?」


「…………」


 セリオは答えなかった。


 ただ。


 離れていくアルトの背中を、一度だけ見た。


 そして。


「……チッ」


 小さく舌打ちする。


「……後悔すんなよ」


「……へぇ?」


 フーガが笑った。


「やっと、その気になったん?」


 セリオは《飛燕》を光へ戻した。


 両手を、ゆっくりと開く。


「……あぁ」


 その周囲で。


 霊素が、静かに揺らぎ始めた。


「……テメェが望んだんだからな」


 フーガの笑みが、深くなる。


「……ええやん」


 《龍憑》の切っ先が、セリオへ向けられた。


「見せてみぃや」


 セリオは、ゆっくりと腰を落とした。


 そして。


「……吠え面かくなよ」


 二人の間に。


 再び、張り詰めた沈黙が落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。