希望達②
◇ ◇ ◇
キィィンッ!
《飛燕》と《龍憑》が激突する。
火花が散った。
「おらぁっ!」
セリオが双剣を振るう。
右。
左。
続けて、下から斬り上げる。
だが。
カンッ! キィンッ!
フーガはそれらを捌きながら、ふと視線を横へ向けた。
その先には。
負傷した仲間たちに治癒の術を施す、レテの姿があった。
「……健気やわぁ。あの子」
「……あ?」
セリオの眉が跳ね上がる。
「よそ見してんじゃねぇ!」
双剣《飛燕》が光へ戻った。
直後。
赤い光が、セリオの両手に集まる。
炎の大剣。
《天燼》。
「おらぁっ!」
ゴォォッ!
炎を纏った大剣が振り下ろされた。
「うわっ、あっついわ!」
フーガが横へ跳ぶ。
轟ッ!
炎の刃が石畳を薙いだ。
だが、フーガもただ逃げているわけではない。
身を翻しながら《龍憑》を振るう。
シュンッ!
「……っ!」
セリオが大剣を引き戻した。
ガキンッ!
刃がぶつかる。
フーガはその反動を利用して、さらに後方へ跳んだ。
「……チッ!」
セリオが舌打ちする。
「真面目にやれや……さっきまでの殺気はどうした!」
「ん〜?」
フーガが首を傾げる。
「別に、真面目にやっとるで?」
「どこがだ!」
《天燼》が光へ戻る。
代わって現れたのは。
青く輝く長槍。
水の霊器。
《海潚》。
「はぁっ!」
シュッ!
鋭い突きが、フーガの胸元へ伸びた。
「……あらよっと!」
フーガが地面を蹴る。
ふわりと身体が浮き上がった。
槍の穂先が、その足元を通り過ぎる。
「……っ!」
セリオが目を見開く。
フーガは空中で身体を捻り。
トンッ。
なんと。
突き出された《海潚》の柄の上に、片足で立っていた。
「……⁉︎」
セリオのこめかみに青筋が浮かぶ。
「テメェ! 降りろ!」
「いやや」
「この野郎……!」
セリオが槍を振り上げようとする。
だが。
その瞬間。
フーガが柄を蹴った。
タンッ!
跳躍。
セリオの頭上から、一気に距離を詰める。
「……首ちょーだい!」
《龍憑》が振り下ろされた。
「やるわけねぇだろ!」
《海潚》が光へ戻る。
次の瞬間。
ドンッ!
巨大な盾が現れた。
土の霊器。
《鎮岳》。
ガァァンッ!
《龍憑》が盾へ激突する。
「……っ!」
セリオの腕に衝撃が走った。
だが、受け止める。
フーガは盾を蹴って後方へ跳び、軽やかに着地した。
「……はぁ」
大きな溜息。
「めんどくさいわぁ」
「……あ?」
「卑怯やろ、それ」
フーガが《鎮岳》を指差す。
「霊器四つなんて、聞いたことないわ」
「知らねぇよ!」
《鎮岳》が光へ戻る。
再び、風が集まった。
双剣《飛燕》。
「おらぁっ!」
セリオが地面を蹴った。
シュシュシュッ!
左右の刃が、立て続けに閃く。
上段。
中段。
下段。
さらに踏み込み、逆袈裟。
だが。
キンッ! カンッ! キィンッ!
フーガは《龍憑》一本で、それらを捌いていく。
無理に力を込めない。
刃の向きをわずかに変え。
手首を返し。
必要な分だけ、身体を動かす。
「……まぁ」
フーガが笑った。
「使いこなせなきゃ、意味ないわな!」
ドゴッ!
「ぐっ!」
セリオの腹に、蹴りが突き刺さった。
身体が後方へ弾かれる。
だが。
「……おらぁっ!」
セリオは吹き飛びながら、右の《飛燕》を投げ放った。
シュンッ!
「おっ⁉︎」
フーガが咄嗟に首を傾ける。
刃が頬の横を通り過ぎた。
「……あぶ〜」
フーガが笑う。
だが。
「……嘘やん!」
目の前。
セリオが迫っていた。
投げた《飛燕》は、すでに光へ戻っている。
その代わり。
両腕には、巨大な《鎮岳》。
「おらぁぁっ!」
ドゴォンッ!
盾がフーガへ激突した。
「ぐっ!」
フーガが足を踏ん張る。
石畳を靴底が削った。
ギギギッ!
セリオが盾を押し込む。
「どうしたぁ!」
「……ふんっ!」
フーガも押し返した。
互いの力が拮抗する。
ギリギリと。
盾が軋む。
「……っ!」
セリオがさらに踏み込む。
その瞬間。
ゴッ!
《鎮岳》の上縁が、フーガの額を打った。
「……いった!」
赤い血が、額から一筋流れる。
だが、フーガは退かない。
セリオは歯を食いしばった。
(……こいつ)
押し合いながら、相手の身体の動きを観察する。
(……脱力が上手い)
腕。
肩。
脚。
どこにも、余計な力が入っていない。
(攻撃の瞬間にだけ力を込めやがる……)
だから。
次にどこから力が来るのか、読みづらい。
しかも。
(……無駄が少ねぇ)
攻撃も。
防御も。
必要な瞬間だけ、必要な力を使う。
セリオは奥歯を噛んだ。
(……やりづれぇ!)
「……痛いわぁ」
フーガが額から流れる血を気にしながら、笑った。
「いい加減にせいや」
「……だったら!」
セリオの口元が吊り上がる。
「押し返してみろよ!」
その瞬間。
《鎮岳》が光へ戻った。
「……うぁっ⁉︎」
突然、押し返す相手が消えた。
フーガの身体が前へ傾く。
踏ん張っていた足が、わずかに滑った。
「もらった!」
セリオの両手に風が集まる。
双剣《飛燕》。
シュンッ!
右の刃が、フーガの脇腹へ迫った。
だが。
「……なんてな!」
「……⁉︎」
フーガが笑った。
崩れた姿勢のまま。
身体をさらに捻る。
そして。
ドンッ!
背中を、セリオの胸元へ叩きつけた。
「ぐっ!」
肺から空気が押し出される。
セリオの身体が宙へ浮いた。
ドガッ!
石畳を転がる。
「……ぐっ、くそっ!」
セリオは片膝をつき、どうにか身体を起こした。
腹が痛む。
胸元にも、鈍い衝撃が残っていた。
一方。
「…………」
フーガは脇腹へ手を当てた。
指先に、赤いものが付く。
「……チッ」
軍服の脇腹が裂けていた。
そこから、わずかに血が滲んでいる。
「……切りおったわ」
フーガが顔を上げる。
その先では。
セリオが《飛燕》を構え直していた。
「……クソが」
セリオが吐き捨てる。
フーガは、にやりと笑った。
額から血を流しながら。
「……おもろいやんけ」
セリオも笑った。
「……そりゃどうも」
二人の視線が交わる。
互いに傷を負いながら。
それでも。
どちらも、まだ倒れるつもりはなかった。




