欺きの刃②
ドーマは笑っていた。
「……へへっ」
リオネルの騎士剣が、胴体へ迫る。
防ぐには遅い。
避けるにも、距離が近すぎる。
だが。
「……そっちは、いらねぇんだよ」
ドーマが右手を開いた。
「……なっ⁉︎」
長剣《化双》の片割れが、手から離れる。
カランッ!
石畳に落ちた。
同時に、ドーマが身体を捻る。
刃が服を裂いた。
ザシュッ!
「ぐっ……!」
ドーマの腹に血が滲む。
だが、致命傷ではない。
ドーマは剣を手放したことで右腕を自由にし、リオネルの剣を握る手首へ伸ばした。
「捕まえたぁ」
ガシッ!
「……っ!」
手首を掴まれる。
リオネルが剣を引こうとする。
だが、ドーマは離さない。
「ほらよ!」
左手の短剣が迫った。
狙いは首。
「くっ!」
リオネルはバックラーを持ち上げる。
カンッ!
短剣が盾に弾かれた。
「……へへっ」
ドーマが笑う。
「そっちじゃねぇよ」
短剣が引かれた。
その切先が、下へ向く。
狙いは腹。
「……!」
だが、リオネルも動いていた。
バックラーを斜めに押し出す。
ガンッ!
短剣を持つ腕ごと、外側へ弾いた。
「おわっ⁉︎」
ドーマの身体が開く。
リオネルは掴まれた右手を強く引いた。
「離せ!」
グイッ!
「うおっ!」
ドーマが前につんのめる。
その顔面へ。
ゴッ!
「ぶへっ!」
リオネルの膝が突き刺さった。
ドーマの手が離れる。
リオネルはすぐに距離を取った。
「……はぁっ、はぁっ……!」
剣を構え直す。
一方。
「いってぇ……!」
ドーマは鼻を押さえた。
指の隙間から血が垂れる。
「……騎士様が膝蹴りかよ」
「貴様に礼節を説くつもりはない!」
「へへっ……そりゃそうか」
ドーマは足元へ視線を落とした。
落とした長剣。
それを拾おうと屈む。
「……!」
リオネルが踏み込んだ。
武器を拾わせるつもりはない。
「はぁっ!」
騎士剣を振り下ろす。
だが。
「……あーあ」
ドーマが顔を上げた。
「また引っ掛かった」
屈んだ姿勢から、身体を横へ倒す。
ブンッ!
剣が空を切った。
ドーマの左手が伸びる。
短剣の狙いは、リオネルの足首。
「……っ!」
リオネルは咄嗟に足を引いた。
シュッ!
刃が靴の先を掠める。
その瞬間。
ドーマが地面を蹴った。
低い姿勢のまま、リオネルの懐へ飛び込む。
「へへっ!」
短剣が跳ね上がる。
狙いは腹部。
「……そこ!」
カンッ!
リオネルのバックラーが短剣を捉えた。
だが、受け止めるだけでは終わらない。
第二継承技。
《受流》。
盾をわずかに傾ける。
短剣の軌道が逸れた。
「……あ?」
ドーマの腕が外側へ流される。
その力を利用し、リオネルが身体を回した。
「《返潮》!」
ガァンッ!
バックラーがドーマの胸を打ち据えた。
「ぐぼっ!」
ドーマの身体が吹き飛ぶ。
ドガッ!
石畳を転がった。
「……ぐっ、げほっ……!」
咳き込みながら、どうにか起き上がる。
「……おいおい」
胸を押さえた。
「小せぇ盾で、なんつー威力だよ……」
リオネルは答えない。
騎士剣を構えたまま、ゆっくりと歩み寄る。
「……貴様の剣は分かった」
「……あ?」
「斬ると見せて突く。突くと見せて斬る。武器を捨てることさえ、相手を誘うために使う」
リオネルが足を止める。
「だが、どれほど欺こうと……」
剣先を向けた。
「最後に私を斬るのは、その手にある刃だ」
「…………」
「刃が届く前に、止めればいい」
ドーマが目を細めた。
そして。
「……へへっ」
ゆっくりと笑った。
「なるほどなぁ」
短剣をくるりと回す。
「確かに、あんたの方が剣は上手ぇ」
「…………」
「力もある。反応もいい。おまけに、頭も回る」
ドーマは肩を竦めた。
「……困ったもんだ」
リオネルが一歩踏み込む。
「ならば、降参しろ」
「へへっ……」
ドーマが首を横へ振った。
「そいつぁ無理だな」
そして、落とした長剣へ視線を向ける。
「……なぁ、騎士様」
「何だ」
「さっきから、俺の手ばっか見てるだろ?」
「…………」
「それでいいのかねぇ?」
リオネルの眉が動いた。
ドーマは笑っている。
先ほどから、ずっと。
何かを隠しているように。
「……今度は何を企んでいる」
「さぁ?」
ドーマが短剣を構えた。
「考えてみな」
その足元。
石畳の上には、先ほど手放した長剣が転がっていた。
リオネルは剣を握り直す。
ドーマが、にたりと笑った。




