天才と熟練
◇
キィンッ!
剣と細剣がぶつかった。
「ほらほら! まだまだ行くよ!」
ノエルが踏み込む。
右から一閃。
エルネが《翠角》で受け流した。
だが。
シュッ!
次の斬撃が迫る。
「……っ」
エルネが首を傾ける。
刃が頬を掠めた。
さらに一撃。
ザシュッ!
腕に細い傷が走る。
「…………」
エルネは距離を取った。
頬。
肩。
腕。
身体のあちこちに、浅い傷が刻まれていた。
(……攻撃の起こりが読めない)
ノエルが剣を構える。
だが、次の攻撃を予測する手掛かりがない。
肩の動き。
重心の移動。
剣を振るう直前の力み。
それらが、ほとんど見えなかった。
(……うーん。これは確かに……)
エルネが小さく笑った。
「天才か……」
第二騎士隊の若き剣士。
ノエル・クラウゼ。
その第一継承技。
《無拍》。
攻撃の予備動作を極限まで削ぎ落とし、相手に斬撃の始まりを悟らせない技。
速さそのものを高めるわけではない。
ただ、いつ剣が振るわれるのか分からない。
気づいたときには、刃が迫っている。
「だから言ったでしょ!」
ノエルが得意げに笑う。
「僕は天才だって!」
「……あ、そこ隙」
「え?」
シュッ!
《翠角》が伸びた。
「あぶなっ!」
ノエルが身を反らす。
だが、エルネは止まらない。
すぐに手首を返す。
次の突き。
「……って、もう次⁉︎」
「はい、頑張って捌いて!」
カンッ!
ノエルが剣で弾いた。
「天才くん?」
「ムカつくなぁ!」
エルネが一歩踏み込む。
突き。
払い。
再び突き。
どれも特別に速いわけではない。
だが。
(この人……)
ノエルが剣を振るう。
エルネは《翠角》で受け流した。
その動きのまま、次の攻撃へ移る。
(攻撃のあとに、隙がなさすぎる……!)
カンッ!
ノエルが突きを弾く。
だが、エルネの剣先は既に戻っていた。
(速いってわけじゃない……)
エルネが踏み込む。
ノエルは横へ跳んだ。
(……一切の無駄がないんだ!)
「いやー、でも強いよ、君」
エルネが笑った。
「久しぶりに面白い剣を見た」
「おじさんも思ったよりやるね!」
「おじさんって……」
ノエルが斬りかかる。
キィンッ!
エルネは《翠角》で捌いた。
そのまま手首を返す。
シュッ!
ノエルが首を傾ける。
続けて二撃目。
カンッ!
剣で受ける。
三撃目。
ノエルは後ろへ下がった。
だが、エルネが距離を詰める。
「まだまだ!」
「そっちこそ!」
ガキィンッ!
剣と細剣が噛み合った。
鍔迫り合い。
互いの顔が近づく。
「……なんなの、その技」
ノエルが眉を寄せた。
「一切隙がないじゃん」
「ははは」
エルネが笑う。
「基本を極めただけだよ」
「……基本?」
「そう」
エルネは《翠角》を押し返した。
「構え。踏み込み。剣の振り方。戻し方」
ギリギリと刃が軋む。
「余計な動きを一つずつなくしていったら、こうなった」
「……それが極めたってこと?」
「そうさ。」
エルネが口元を緩めた。
「無隙の極致」
ノエルが目を細める。
「……無隙?」
「攻撃にも、防御にも、余計な隙を作らない」
エルネが続けた。
「僕はそう名付けた」
「へぇ……」
ガンッ!
二人は同時に剣を弾いた。
距離を取る。
ノエルは剣を肩に担いだ。
「ねぇ、おじさん」
「なんだい、天才くん」
「他にもあるの?」
「もちろん」
エルネは《翠角》を軽く振った。
「ミュゼくん以外は、それぞれの極致に至っているよ」
「へぇ!」
ノエルの目が輝いた。
「他にどんな極致があるのか教えてよ」
「……え?」
エルネが首を傾げる。
「今かい?」
「そう!」
ノエルが踏み込んだ。
横一閃。
キィンッ!
エルネが《翠角》で受け止める。
ノエルは楽しそうに笑った。
「ただ戦うだけじゃ、退屈でしょ?」




