実力の片鱗②
シュッ!
シルヴァンの《アクメン》が伸びた。
狙いは顔。
バルドは首を横へ傾ける。
穂先が頬の横を抜けた。
そのまま一歩、踏み込む。
「……そこ」
槍を握る手を滑らせ、石突を跳ね上げた。
狙いは顎。
「見えています」
シルヴァンは顎を上げた。
ブンッ!
石突が鼻先を通り過ぎる。
「……だろうな」
バルドが呟いた。
シルヴァンの顔は上を向いている。
だが、片眼鏡の奥の瞳は、バルドを捉えたままだった。
その視線を、バルドは見逃さなかった。
「……その体勢じゃ」
ぼそぼそとした声。
「……俺は見えても、足元は見えねぇだろ?」
「何を……ぐっ!」
ブォンッ!
バルドが槍を低く振るった。
石突がシルヴァンの足を払う。
踏ん張りを失った身体が傾いた。
そこへ。
「……まだだ」
バルドが槍を握り直す。
ガァンッ!
横薙ぎに振るわれた柄が、シルヴァンの鎧を打ち据えた。
「ぐわぁっ!」
シルヴァンの身体が地面へ叩きつけられる。
ドガッ!
石畳が砕けた。
だが、衝撃はそれだけでは終わらない。
鎧を纏った身体が、地面から跳ね上がった。
「……終わりだ」
バルドが踏み込む。
槍《蜂穿》を引き絞った。
狙いは胴体。
空中では足場もなく、身体を捻ることさえ難しい。
そこへ、寸分の狂いもない突きが放たれた。
シュッ!
穂先がシルヴァンの胸を貫く。
……はずだった。
「……そうくると思いました」
シルヴァンの片眼鏡の奥。
その瞳が、鋭く輝いた。
第一継承技。
《慧眼》。
ガキィンッ!
《アクメン》が《蜂穿》の穂先を捉えた。
力任せに受け止めるのではない。
槍の側面を、わずかに押す。
それだけで、必殺の一撃は軌道を変えた。
「……チッ!」
穂先が鎧の脇を掠める。
シルヴァンは地面へ転がり、片膝をついた。
「……はぁ、はぁ……」
荒い息を吐く。
鎧の胸元には、柄で打たれた大きなへこみが残っていた。
だが。
「……さて」
シルヴァンが立ち上がる。
《アクメン》を構えた。
「私の番ですね」
踏み込む。
シュッ!
鋭い突き。
バルドが柄で弾いた。
だが、シルヴァンは止まらない。
すぐに槍を引く。
右肩。
左脇。
腹部。
次々と穂先が伸びる。
カンッ! キィンッ!
「……っ」
バルドが捌く。
一撃。
二撃。
三撃。
どれも急所を狙った、無駄のない突き。
バルドは槍を回し、全てを弾いた。
だが、シルヴァンの攻撃は続く。
「……しつけぇな」
バルドが小さく舌打ちした。
シルヴァンは答えない。
ただ、相手の動きを見ていた。
肩。
肘。
膝。
重心。
そして。
バルドの後ろ足に、わずかに力が込められた。
後方へ跳ぶ。
そう判断した瞬間。
「そこです!」
シルヴァンが地面を蹴った。
第二継承技。
「《墜星》!」
高く跳び上がる。
バルドが後方へ跳躍した、その瞬間を狙って。
シルヴァンは空中で《アクメン》を構えた。
穂先を真下へ向ける。
「……チッ!」
バルドが槍を持ち上げた。
直後。
ガァァンッ!
二本の槍が激突する。
凄まじい衝撃。
バルドの足が石畳を削った。
だが、完全には防ぎきれない。
シュッ!
《アクメン》の穂先が頬を掠めた。
赤い筋が走る。
シルヴァンは着地すると、すぐに距離を取った。
「……はぁ、はぁ……」
荒い呼吸。
対するバルドは、ゆっくりと頬に触れた。
指先に血がつく。
「…………」
それを眺める。
そして。
「……ふっ」
小さく笑った。
「……悪くねぇ」
「何です?」
シルヴァンが眉を寄せる。
「……チッ」
バルドは面倒そうに舌打ちした。
「……少しだけ、認識を改めてやる」
槍を握り直す。
その瞬間。
バルドの身体から、魔力が溢れ出した。
「魔脈」
低い声が響く。
「《乱穿》」
ドクンッ!
空気が震えた。
バルドの腕から肩へ。
そして、全身へ。
魔力が脈打つように巡り始める。
「……!」
シルヴァンの目が見開かれた。
片眼鏡の奥で、視線が忙しく動く。
呼吸。
重心。
筋肉の動き。
どれも、先ほどまでと大きく変わっていない。
だが。
(……なんだ、この力は)
シルヴァンは《アクメン》を握り直した。
バルドが槍を構える。
その穂先が、静かにシルヴァンへ向けられた。




