廻る刃
「……やれるものなら」
セラは《白鶴》を構え直した。
リゼットは口元に笑みを浮かべる。
「もう私は動いているぞ?」
「……⁉︎」
銀色の影が視界から消えた。
「……めんどくさい!」
「《銀閃》!」
銀光が走る。
「それは見た!」
セラは《白鶴》の柄を差し込み、刃を受け流した。
キィンッ!
そのまま身体を回転させる。
リゼットの横を抜け、背後へ。
回転の勢いを乗せた薙刀の刃が、首筋へ迫った。
「……⁉︎」
だが。
リゼットの姿勢が沈んだ。
ヒュンッ!
刃が頭上を通り過ぎる。
「遅い」
リゼットは身体を捻りながら立ち上がった。
その動きに合わせ、《エクラ》を横薙ぎに振るう。
「……チッ!」
セラは一歩引いた。
銀色の切っ先が、胸元を掠める。
さらに距離を取る。
(……疾い)
セラは目を細めた。
(……嫌いな戦い方)
「どうした? 舌打ちなんて、はしたないぞ?」
「…………」
セラは《白鶴》を握り直した。
「……こっちから行く」
「それは楽しみだなぁ」
リゼットが剣を構える。
セラは地面を蹴った。
《白鶴》を前へ突き出す。
鋭い刺突。
リゼットは僅かに首を傾けた。
刃が頬の横を通過する。
「そんなもの……」
「…………」
セラの手首が捻られた。
突き出した薙刀の刃が、横へ向きを変える。
「……⁉︎」
リゼットは咄嗟にしゃがみ込んだ。
ヒュンッ!
刃が頭上を薙ぐ。
セラはそのまま一回転し、後方へ距離を取った。
だが、回転は止めない。
《白鶴》を握る手を滑らせ、石突に近い位置へ持ち替える。
長くなった間合い。
遠心力を乗せた刃が、リゼットへ叩きつけられた。
「ほう……」
リゼットは後方へ跳ぶ。
ドガッ!
薙刀の刃が石畳を砕いた。
だが、セラの動きは終わらなかった。
地面に食い込んだ刃。
それを支点に、長い柄が起き上がる。
セラは石突側を握ったまま、身体を持ち上げた。
《白鶴》が垂直に近づく。
そして。
石突へ体重を掛ける。
宙に浮いた身体が前方へ倒れ込み、薙刀の刃が地面から引き抜かれた。
「《廻輪舞》」
ゴォンッ!
刃がリゼットへ叩きつけられる。
「……っ!」
リゼットは後方へ下がった。
しかし。
セラは着地しない。
《白鶴》を再び地面へ突き立て、柄を支点に身体を回転させる。
石突を握る手。
宙を舞う身体。
そして、地面から跳ね上がる刃。
まるで巨大な車輪。
回転するたび、薙刀の刃がリゼットへ迫る。
ガァンッ!
リゼットは《エクラ》で受け流した。
だが、セラはその反動さえ回転に変える。
二度。
三度。
回転が重なるたびに、速度が増していく。
「チッ!」
リゼットが後方へ跳んだ。
その耳へ、眠たげな声が届く。
「……舌打ち」
「……あ?」
「……はしたない」
ピクリ。
リゼットのこめかみに、青筋が浮かんだ。
「……貴様」
銀色の曲剣を握る手に力が込められる。
「いいだろう」
リゼットは踏み込んだ。
「《銀閃》!」
銀光が走る。
だが、その狙いはセラではない。
回転の支点となる《白鶴》。
ギィィンッ!
銀色の刃が、薙刀の柄を強く弾いた。
「……わっ」
支点がずれる。
セラの身体が宙で大きく傾いた。
回転の軌道が崩れる。
リゼットはその隙を逃さない。
「《双閃》!」
一閃。
銀色の刃がセラへ迫る。
「……くぅ!」
セラは咄嗟に《白鶴》を引き寄せた。
キィィンッ!
辛うじて受け止める。
だが。
二閃。
弾かれた《エクラ》が、再び銀色の軌跡を描いた。
「終わりだ!」
逃げ場のない空中。
迫る刃。
その瞬間。
「……魔脈」
セラの身体を魔力が巡った。
「《白閃》」
「……⁉︎」
リゼットの目が見開かれる。
セラは《白鶴》を引き戻さなかった。
むしろ。
先ほど弾かれた勢いに、身体を預けた。
クルンッ!
空中で身体が回転する。
迫る二撃目。
その刃へ、《白鶴》の柄を合わせた。
キィィィンッ!
衝突。
だが、セラは押し返さない。
刃の軌道を逸らし、その衝撃を回転へと変えた。
魔力が、一瞬だけ身体の各部へ集中する。
腕。
肩。
腰。
そして、脚。
受け流した衝撃が、全身の動きへと繋がっていく。
回転が加速した。
「……なっ!」
リゼットが剣を引く。
だが、すでに遅い。
「《白閃・乱廻》」
ヒュヒュヒュンッ!
セラの身体が、空中で何度も回った。
回転に合わせて《白鶴》の刃が走る。
一撃。
リゼットが《エクラ》で受ける。
二撃。
身体を捻って躱す。
だが。
三撃。
ザシュッ!
「ぐっ……!」
リゼットの肩が裂けた。
さらに回転。
四撃目。
ザンッ!
肩口から血が噴き出した。
「ぐぅぅぅっ!」
リゼットが後方へ弾かれる。
セラは最後の回転を終えると、石畳へ着地した。
トンッ。
《白鶴》を軽く振り、刃に付着した血を払う。
「…………」
リゼットは肩を押さえた。
指の間から、赤い血が流れ落ちる。
セラは首を傾けた。
「……まだやる?」
「…………」
リゼットはゆっくりと顔を上げた。
その目が、セラを睨みつける。
「……貴様が死ぬまでな」
《エクラ》を握り直す。
セラは小さく息を吐いた。
「……めんどくさい」
再び、二人の刃が向き合った。




