地、鎮まる
先に仕掛けたのは、ゴートーだった。
「……《犀飩》」
《犀嶽》の切っ先が、斜め上へ向けられる。
そして。
ドンッ!
石畳を蹴り砕き、巨体が突進した。
巨大な剣を角のように突き出した、猛烈な突撃。
「……!」
グレイグは咄嗟に盾を構えた。
直後。
ドゴォォンッ!
《犀嶽》が《クストス》へ激突する。
凄まじい衝撃。
グレイグの身体が後方へ押し込まれた。
一歩。
二歩。
さらに三歩。
靴底が石畳を削り、長い跡を残す。
「……すげぇ」
少し離れた場所で、ログが呟いた。
「力が……俺とは違いすぎる」
グレイグは盾を構え直した。
その眼前で、ゴートーが《犀嶽》を振り上げる。
「……《犀絶》」
巨大な刃が、頭上から迫った。
グレイグは右手の大剣を引き寄せる。
ガチャンッ!
《クストス》の中央へ、剣を納めた。
第一継承技。
「《鉄壁》」
盾を掲げる。
次の瞬間。
ガァァァンッ!
《犀嶽》が叩きつけられた。
石畳が砕け、衝撃が周囲へ広がる。
グレイグの膝が僅かに沈んだ。
だが。
盾は砕けない。
剣を芯とした《クストス》が、巨剣の一撃を受け止めていた。
「……硬いな」
ゴートーが低く呟く。
「…………ふんっ!」
グレイグは盾を押し返した。
ガンッ!
《犀嶽》が弾かれる。
ゴートーの巨体が後方へ下がった。
その瞬間。
グレイグの右手が動く。
ガシャッ!
大剣が《クストス》から引き抜かれた。
第二継承技。
「《断閃》」
ヒュンッ!
鋭い一閃。
「……!」
ゴートーが《犀嶽》を引き戻す。
だが、間に合わない。
ザシュッ!
胸元を刃が走った。
鮮血が飛び散る。
ゴートーの軍服が裂け、その下に深い傷が刻まれた。
「…………」
ゴートーは動かなかった。
胸元から血が流れる。
しかし。
その出血が、徐々に収まっていく。
「…………」
グレイグは大剣を構え直した。
(……筋肉で血を止めたか)
ゴートーは自らの胸元を一瞥する。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「……止めだ」
「…………」
「……お前は強い」
グレイグは盾を構えたまま、口を開いた。
「……引いてくれるか?」
「……いや」
ゴートーは首を横に振った。
「……手を抜くのを止めだ」
《犀嶽》を握る両手に、力が込められる。
「……だから、お前も本気を出せ」
「…………」
グレイグは答えなかった。
ゴートーは大きく息を吐く。
そして。
「……魔脈」
その巨体を、魔力が巡り始めた。
足元の石畳が、微かに軋む。
「《地鎮》」
ゴゴゴゴッ……。
低い振動が、大地を伝う。
ゴートーの足元から、細かな亀裂が広がっていった。
グレイグは盾を構え直す。
カタカタカタ……。
微かな金属音。
盾を握る指が、震えている。
先ほどよりも。
さらに強く。
カタカタカタカタ……。
《クストス》の金具が、小刻みに鳴り続けていた。




