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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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632/674

百戦の騎士

 グレイグ・バルハルトは、静かに盾を構えた。


 その眼前には、一人の巨漢。


 乱れた黒髪。


 分厚い胸板。


 そして、その手に握られているのは、常人では持ち上げることすら難しいであろう巨大な剣。


 《犀嶽》。


 ゴートーはそれを片手で持ち上げると、無造作に肩へ担いだ。


「…………」


「…………」


 二人の間に、言葉はない。


 グレイグは左腕の《クストス》を身体の正面へ引き寄せた。


 大盾の中央には、一振りの大剣が納められている。


 剣そのものを盾の芯とする特殊な構造。


 納刀状態の《クストス》は、その構造によって高い防御力を発揮する。


 カタカタ。


 微かな金属音が鳴った。


 盾を握るグレイグの指が、小さく震えている。


 ゴートーの視線が、その手へ向けられた。


(……震えている?)


 僅かに目を細める。


(……武者震いか)


 その視線の先で、グレイグは静かに《クストス》を構え直した。


 震えは、まだ止まらない。


「…………」


 ゴートーは《犀嶽》を肩から下ろした。


 そして。


 ドンッ!


 石畳が踏み砕かれる。


 巨体に似合わぬ踏み込み。


 《犀嶽》が頭上へ持ち上げられた。


 振り下ろされる。


 グレイグは盾を掲げた。


 ガァァンッ!


 耳を劈く轟音。


 衝撃が足元を走り、周囲の石畳がひび割れた。


 だが。


 グレイグは立っていた。


 盾の向こうから、ゴートーの巨躯を見据えている。


「…………」


 ゴートーは無言のまま剣を引いた。


 続けざまに、横薙ぎ。


 グレイグの盾が僅かに傾く。


 ガギィンッ!


 巨大な刃が盾の表面を滑り、横へ逸れた。


 さらに一撃。


 今度は斜め上から。


 グレイグは半歩だけ足を引く。


 盾の角度が変わる。


 ガンッ!


 衝撃が抜けた。


 ゴートーの剣先が石畳を抉る。


 第一継承技。


 《鉄壁(ランパール)》。


 迫る攻撃に対し、盾の角度、足の位置、身体の向きを最適化する防御技。


 力で押し返すのではない。


 相手の力を、最小限の動作で受け流す。


 ゴートーが再び《犀嶽》を振るった。


 グレイグは盾を構え直す。


 ガァンッ!


 刃が逸れる。


 だが、ゴートーは止まらない。


 振り抜いた勢いを利用し、反対側から巨剣を叩きつける。


 ガギィィンッ!


 今度は盾の縁を刃が掠めた。


 グレイグの肩が僅かに揺れる。


 その直後。


 ゴートーの足が、一歩前へ出た。


 巨剣の柄を握る両腕に力が込められる。


 真正面からの突き。


 グレイグは盾を斜めに構えた。


 だが。


 ガゴォンッ!


 巨剣の切っ先が盾を捉え、グレイグの身体が後方へ押し込まれた。


 靴底が石畳を削る。


 一歩。


 二歩。


 そして、止まる。


「…………」


 ゴートーは《犀嶽》を引いた。


 グレイグは盾を下ろさない。


 その左手が、再び小さく震えていた。


 ゴートーは、その手を一瞥する。


(……妙だな)


 先ほどから、盾を握る指は震え続けている。


 だが、その防御には一切の迷いがない。


 剣の軌道を見極め、僅かな動作で攻撃を逸らす。


 その技量は、並の騎士のものではなかった。


「…………」


 グレイグは何も言わない。


 ただ、右手を《クストス》の中央へ伸ばした。


 そこに納められた大剣の柄を、静かに握る。


 カチリ。


 留め具が外れた。


 グレイグは、ゆっくりと剣を引き抜いた。

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