戦いの気配③
その一方。
銀色の曲刀を手にしたリゼットは、目の前の少女を興味深そうに眺めていた。
「ほう。薙刀か」
「…………」
セラは答えない。
ただ、白銀の薙刀《白鶴》を片手に、眠たげな瞳を向けていた。
「薙刀という武器は、重さと遠心力を利用して威力を生み出すと聞く」
リゼットがゆっくりと《エクラ》を持ち上げる。
「しかし……」
「……なに?」
「いや、同時に腕力の弱さを象徴しているようにも思えてな」
口元に、挑発的な笑みが浮かぶ。
「非力な者でも、それなりの威力を出せる。実に合理的な武器だ」
「…………」
セラの眉が、僅かに動いた。
「……あなた」
「あぁ?」
「……むかつく」
「ふふふ」
リゼットは楽しげに笑った。
「そうか。ならば、その怒りを刃に乗せてみるといい」
銀色の刃が、ゆっくりと構えられる。
「《銀閃》と呼ばれる私の剣について来られるかな?」
「……うるさい」
セラが薙刀を構えた。
次の瞬間。
白銀の刃が、音もなく走った。
「――ほう!」
リゼットの曲刀が、それを迎え撃つ。
甲高い金属音。
銀と白銀。
二つの刃が、火花を散らした。
◇ ◇ ◇
「……いい槍をお持ちですね」
穏やかな声が響いた。
シルヴァンは片眼鏡の位置を直しながら、目の前の男を見つめていた。
紺色の髪。
長身の身体を僅かに丸めた、陰気な雰囲気の男。
その手には、微かに蜂を思わせる長槍《蜂穿》。
「……てめぇ」
バルドが低く呟く。
「はい?」
「……気に食わねぇな。それ」
バルドの視線が、シルヴァンの手元へ向けられた。
そこには、鋭い穂先を備えたパルチザン《アクメン》。
「……何ですって?」
シルヴァンが片眉を上げる。
「あ?」
「いえ。何をおっしゃっているのか、よく聞こえませんでした」
片眼鏡を押し上げる。
「もう少し、はっきり喋っていただけますか?」
「…………」
バルドの眉間に皺が寄った。
「……チッ」
苛立たしげに舌打ちする。
「……不死隊第七席」
ぼそぼそとした声が続く。
「……《乱穿》バルド」
「え?」
「…………」
「申し訳ありません。もう一度お願いできますか?」
「……チッ!」
バルドが長槍を構えた。
その穂先が、シルヴァンの喉元へ向けられる。
「おや」
シルヴァンは涼しい顔で《アクメン》を構え直した。
「ようやく、何をおっしゃりたいのか分かりましたよ」
「……ぶっ殺す」
「ふふ。今のはよく聞こえました」
バルドのこめかみに、青筋が浮かんだ。
◇ ◇ ◇
「……お?」
ノエルが足を止めた。
視線の先。
軍服の一部に深緑の装いをした男が、細身の剣を手に立っている。
レイピア《翠角》。
その刃を見た途端、ノエルの表情が明るくなった。
「へぇ……」
「どうかしたかい?」
エルネが穏やかに尋ねる。
「いやぁ、相手を探していたんですけど」
ノエルは自分の剣を肩に担いだ。
「できれば、剣を使う人がいいなぁと思って」
「ほう。どうして?」
「僕、剣の天才なんですよ」
「…………」
エルネが瞬きをした。
「……天才?」
「はい!」
ノエルは当然のように頷く。
「だから、剣士を一方的にボコボコにして、格の違いってやつを教えてやろうと思っていて」
「…………」
エルネはしばらく黙っていた。
そして。
「あはははは!」
突然、笑い出した。
「いやぁ、これは驚いた!」
「……?」
「とんだクソガキだね!」
「…………」
ノエルの笑顔が固まった。
「……クソガキ?」
「あぁ」
「……僕が?」
「他に誰がいるんだい?」
「…………」
ノエルの頬が、ぴくりと引きつった。
「……まぁ、いいや」
無理やり笑顔を作る。
「それで、付き合ってくれます?」
「あぁ、いいとも」
エルネがレイピア《翠角》を持ち上げた。
「……少年」
「ん?」
「世界は広く、深いぞ?」
その瞬間。
エルネの姿勢が変わった。
「――!」
細い刃が、一直線にノエルの顔へ迫る。
「⁉︎」
ノエルは咄嗟に首を傾けた。
鋭い切っ先が、頬のすぐ横を通り抜ける。
数本の金髪が宙を舞った。
「…………」
ノエルがゆっくりと顔を戻す。
「……へぇ」
その口元には、笑みが浮かんでいた。
だが、目は笑っていない。
「……やるじゃん」
「ふふ」
エルネはレイピアを構え直した。
「では、基礎から教えよう!」
穏やかな笑顔のまま。
「――クソガキ」
「…………」
ノエルの額に、青筋が浮かんだ。
「……カッチーン」
そして。
二人の剣士が、同時に踏み込んだ。




