戦いの気配②
その一方。
広場の別の場所では、二人の男が向かい合っていた。
「…………」
グレイグは、目の前の大男を静かに見据えていた。
乱れた黒髪。
分厚い胸板。
その手には、犀を思わせる重厚なツヴァイヘンダー《犀嶽》。
「…………」
ゴートーもまた、無言でグレイグを見つめている。
互いに一歩も動かない。
やがて。
「……構えろ」
グレイグが口を開いた。
「……あぁ」
ゴートーが短く答える。
グレイグは巨大な盾を正面に構えた。
「スパーナ騎士団第一隊隊長――グレイグ・バルハルト」
その名を聞いた瞬間。
ゴートーの眉が、ぴくりと動いた。
「……不死隊第三席」
低い声が響く。
「――《地鎮》ゴートー」
次の瞬間。
ゴートーが地面を蹴った。
「――!」
巨大な《犀嶽》が頭上から振り下ろされる。
グレイグは動じない。
ただ、巨大な盾を僅かに傾けた。
直後。
――ゴォォォンッ‼︎
凄まじい衝撃が、広場に響き渡った。
石畳が砕ける。
足元から亀裂が走り、砂埃が巻き上がった。
「…………!」
グレイグの両足が、僅かに地面へ沈む。
だが。
その身体は、一歩も退かなかった。
「…………」
「…………」
盾越しに、二人の視線が交差する。
ゴートーが僅かに目を細めた。
グレイグもまた、静かに相手を見据えている。
互いに、何も言わない。
ただ、その一撃だけで。
目の前の男が、並の相手ではないことを理解していた。
◇ ◇ ◇
「……うわぁ」
少し離れた場所。
ミュゼが、嫌そうに顔をしかめていた。
「……またあいつかよ」
視線の先には、セリオ。
フーガと向かい合う、あの男だった。
「……どーした?」
隣から声が掛かる。
ゲンザだった。
腕まくりをした逞しい男が、ミュゼの顔を覗き込む。
「……いやぁ、ゲンさん」
ミュゼが頭を掻いた。
「俺、あいつに二回も殺されてるんすよ……」
「……あ?」
「…………」
ミュゼの手が止まった。
(……やっべ)
余計なことを口走った。
ゲンザの眉間に、深い皺が寄る。
「……おい」
「……な、何すか?」
「……あいつか?」
ゲンザがセリオを指差した。
「…………」
「……そうか」
ゲンザが、ゆっくりと首を鳴らす。
「……ぶち殺してくるわ」
「えっ⁉︎ いや、ゲンさん! ちょっと待ってくださいって!」
ミュゼが慌てて手を伸ばす。
だが。
「……あ?」
ゲンザが足を止めた。
セリオの前には、すでにフーガが立っている。
「……チッ!」
ゲンザが舌打ちした。
「隊長に取られた……」
「……はぁぁ」
ミュゼが胸を撫で下ろす。
「……助かったぁ」
「……何か言ったか?」
「い、いや! 何でもないっす!」
その時。
「お?」
背後から、豪快な声が響いた。
「ガッハッハ! お前さんも相手を取られたのか!」
「……あ?」
ゲンザが振り向く。
そこには、大戦槌を担いだ大男が立っていた。
ダリウス。
スパーナ騎士団第三隊隊長。
「俺もなぁ、あのデカブツと戦いたかったんだが……」
ダリウスが顎でゴートーを示す。
「グレイグに取られちまってな!」
「…………」
ゲンザが目を細める。
「……で?」
「ガッハッハ!」
ダリウスが大戦槌を肩から下ろした。
「よければ、どうだ?」
「…………」
ゲンザが、ダリウスの武器を見た。
巨大な双頭の戦槌。
無数の突起が生えた鋼鉄の塊。
それを、まるで木の棒でも扱うかのように担いでいる。
「……あ?」
ゲンザの口元が吊り上がった。
「そんなデケェもんで、俺の手数についてこれんのか?」
「ほぉ?」
ダリウスが笑う。
「ガッハッハ! 言うじゃねぇか!」
そして。
ゲンザの手にした二本の短棍《虎鉄》へ視線を向けた。
「……だが、お前さんこそ」
大戦槌を、どん、と石畳に突き立てる。
「そんな棒切れで、俺の一撃を受けられんのか?」
「…………」
「…………」
一瞬。
二人の間に沈黙が落ちた。
やがて。
「ガッハッハッハ!」
「ガッハッハッハ!」
同時に笑い出した。
まるで、長年の知り合いのように。
豪快に。
腹の底から。
「……おもしれぇ!」
二人の声が重なった。
ゲンザが双短棍《虎鉄》を構える。
ダリウスも、大戦槌を持ち上げた。
笑みを浮かべたまま。
二人の大男が、真正面から睨み合う。
そして。
同時に、石畳を蹴った。




