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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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戦いの気配

 七つの技が、中央広場を駆け抜けた。


 倒れた仲間達へ振り下ろされようとしていた武器が、次々と弾き返される。


 轟音。


 衝撃。


 巻き上がる土煙。


「「「――⁉︎」」」


 不死隊の面々が、一斉に目を見開いた。


 何が起きたのか。


 誰もが、一瞬理解できなかった。


「……あ……あ……」


 アルトもまた、呆然としていた。


 フーガに地面へ押さえつけられたまま、目の前の光景を見つめている。


 仲間達は。


 まだ、生きている。


「…………」


 フーガがゆっくりと顔を上げた。


「……おいおい」


 その口元から、笑みが消える。


「……ふざけんなや」


 低く、押し殺した声。


 次の瞬間。


「邪魔すんなやぁぁ! ゴラァァァァ!」


 怒号が広場を震わせた。


 だが。


「よー、お前ら。生きてるかぁ?」


 その声を遮るように、軽い調子の声が響いた。


 セリオだった。


 二振りの双剣《飛燕》を手に、倒れた仲間達へ視線を向けている。


「ガッハッハ! そうはいかんぞ!」


 大戦槌《ルイナ》を担いだダリウスが、豪快に笑った。


「ふん! 野蛮な連中だ!」


 リゼットが銀の長剣《エクラ》を構える。


「ええ。本当に」


 シルヴァンは片眼鏡を押し上げ、パルチザン《アクメン》の穂先を静かに向けた。


「さて……僕の相手は誰かな?」


 ノエルが剣を肩に担ぎ、周囲を見回す。


 その隣。


「……レテ殿を傷つけたのは、誰だ」


 リオネルの声は低かった。


 普段の穏やかな表情は、そこにはない。


 騎士剣を握る手に力が籠もる。


 その瞳は、怒りに燃えていた。


 そして。


「……総員」


 グレイグが巨大な盾《クストス》を構えた。


 静かな声。


 だが、その一言だけで場の空気が引き締まる。


「――戦闘開始」


「「「了解!」」」


 六人の声が重なった。


「…………」


 フーガは七人を見回した。


 やがて、ゆっくりと立ち上がる。


 その足元では、アルトが苦しげに息をしていた。


「……なんやなんや」


 フーガが首を鳴らす。


「急に出てきて、好き勝手言いよってからに……」


 そして。


 口元を歪めた。


「……不死隊」


 その一言に、周囲の者達が視線を向ける。


「こいつら、皆殺しや」


「「「――了」」」


 短い返答。


 それだけで、広場に殺気が満ちた。


「……ん?」


 セリオが眉をひそめた。


 不死隊の面々を見回す。


 その中に。


 見覚えのある顔があった。


「…………⁉︎」


 セリオの目が見開かれる。


「……お前」


 視線の先。


 双鉤爪を手にした少年。


 ミュゼだった。


「……げっ!」


 ミュゼが露骨に顔をしかめた。


 その反応を見て、セリオの表情がさらに険しくなる。


「……おい」


 声が低くなった。


「……何で生きてんだよ」


「…………」


 ミュゼは気まずそうに視線を逸らした。


 確かに、あの時。


 フィンの一撃が、少年を捉えた。


 死んだはずだった。


 それなのに。


 目の前の少年は、何事もなかったかのように立っている。


「……どういうことだ?」


 セリオが双剣を握り直した。


 その時。


「……セリオ……さん」


「……あ?」


 足元から、掠れた声が聞こえた。


 アルトだった。


 血に汚れた顔を、僅かに持ち上げている。


「……みんなを……」


 震える唇。


「……助けて………」


「…………」


 セリオがアルトを見下ろした。


 全身傷だらけ。


 立ち上がることすらできない。


 いつもの騒がしさも、馬鹿みたいな笑顔もない。


「……お前は何してんだ」


「…………」


 アルトは答えなかった。


 いや。


 答える力すら、残っていなかった。


「……はぁ」


 セリオがため息をつく。


「まあ……いいわ」


 そして、双剣を構え直した。


「寝てろ。いても役に立たなそうだしな」


「…………」


 アルトの瞳が、僅かに揺れた。


 だが、言い返すことはなかった。


 ただ。


 倒れた仲間達へ、視線を向ける。


「……おい」


 低い声が響いた。


 フーガだった。


「……あ?」


 セリオが顔を向ける。


 フーガは笑っていなかった。


「……お前、今なんつった?」


「何がだよ」


「アルトにや」


「……あ?」


 フーガが、ゆっくりと歩み寄る。


「アルトをいじめてええのはな……」


 その口元が吊り上がった。


「――俺だけやねん」


「…………」


 セリオが鼻で笑った。


「……知るか」


 その瞬間。


 空気が変わった。


「…………!」


 セリオの瞳が鋭くなる。


 目の前の男。


 白髪。


 小さな丸眼鏡。


 飄々とした態度。


 だが。


 その奥に潜む何かが、他の者達とは明らかに違っていた。


「……はっ」


 セリオが笑う。


「お前……相当強いだろ?」


「…………」


 フーガは答えなかった。


 代わりに。


 手にした《龍憑》を、無造作に振るった。


「――っ!」


 セリオが咄嗟に双剣《飛燕》を交差させる。


 直後。


 凄まじい衝撃が、両腕を襲った。


「ぐっ……!」


 踏ん張った足が、石畳を削る。


 靴底が地面を抉り、セリオの身体が後方へ押し戻された。


 数歩。


 さらに数歩。


 ようやく勢いを殺し、セリオが顔を上げる。


「…………」


 双剣を握る手が、僅かに痺れていた。


(……マジかよ)


 ただ振るっただけ。


 それだけで、この威力。


「……さぁ?」


 フーガが肩をすくめた。


「お前は弱そうやけどなぁ」


「…………」


 セリオの口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「……はっ」


 二振りの双剣を構え直した。


「試してみるか?」


「…………」


 フーガが笑った。


 先ほどまでの怒りが嘘のように、愉快そうな笑みだった。


「……味見にもならなそうやなぁ」


 二人の視線が交差する。


 風が、石畳の上を駆け抜けた。


 そして。


 中央広場に、再び戦いの気配が満ち始めた。

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