気に食わねぇ奴
七人は石畳の大通りを駆け抜けた。
角を曲がり、中央広場へと飛び込む。
その瞬間。
「…………っ!」
先頭を走っていたグレイグが目を細めた。
砕けた石畳。
倒壊した露店。
地面を抉る無数の傷跡。
そして、広場のあちこちに倒れ伏す人影。
「……おいおい」
セリオが足を止めた。
ログ。
ユノ。
ヒルト。
フィリア。
ガオン。
見覚えのある顔が、次々と目に飛び込んでくる。
「……何だよ、これ」
そして。
「……レテ?」
セリオの表情が変わった。
少し離れた場所に、レテがいた。
肩から血を流し、地面に膝をついている。
その姿を見た瞬間。
「――レテ殿⁉︎」
リオネルが声を上げた。
普段の落ち着いた声とは、まるで違う。
「……そんな」
彼の瞳が見開かれる。
血に染まった衣服。
力なく垂れた腕。
それでもなお、誰かを守ろうとするように前へ伸ばされた手。
「……誰が」
リオネルの声が震えた。
「誰が、レテ殿にこんなことを……!」
剣の柄を握る手に力が籠もる。
その指が、僅かに震えていた。
「……許せない」
低い声。
「……絶対に、許せない!」
「リオネルさん……」
ノエルが思わず顔を向けた。
だが、リオネルの耳には届いていなかった。
その視線は、レテを取り囲む者達へと向けられている。
一方。
「……あ?」
セリオは広場の中央へ目を向けた。
そこには、黒髪の青年がいた。
アルト。
いや。
正確には、地面に押さえつけられていた。
白髪の男が、その身体を上から押さえ込んでいる。
アルトの顔は血に汚れ、身体は傷だらけだった。
それでも必死にもがき、仲間達の方へ手を伸ばしている。
「……あの野郎」
セリオが眉をひそめた。
いつもなら、見るだけで腹が立つ相手。
だが、今はそれどころではない。
「……何やってんだよ」
思わず漏れた言葉。
その時。
白髪の男が、片手を上げた。
「……やれ」
短い命令。
それに応じて、周囲の者達が武器を構える。
狙いは。
倒れたガイストの者達。
「……っ!」
リオネルが剣を抜こうとした。
「グレイグ隊長!」
「……あぁ」
グレイグが短く頷く。
その隣で、リゼットが銀の長剣を抜き放った。
「……見過ごせんな」
ダリウスが大戦槌を構える。
「ガッハッハ……笑えん光景だな、これは」
シルヴァンが片眼鏡を押し上げた。
「……状況は明白です。直ちに阻止しましょう」
ノエルも剣の柄へ手を掛ける。
「……ひどいですね、これ」
「あぁ」
セリオが答えた。
そして、再びアルトを見る。
地面に押さえつけられながら、必死に仲間達へ手を伸ばしている。
あれほど傷ついているというのに。
まだ諦めていない。
「……チッ」
セリオが舌打ちした。
「気に食わねぇ奴だぜ、ほんと」
その手に、風が集まる。
淡い光が形を成し、二振りの双剣《飛燕》が現れた。
同時に。
「――やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
アルトの絶叫が広場に響き渡った。
賊達の武器が振り下ろされる。
「――行くぞ!」
グレイグの号令。
七人が一斉に地面を蹴った。
巨大な盾。
銀の長剣。
大戦槌。
パルチザン。
騎士剣と小盾。
少年の剣。
そして、風の双剣。
七つの武器に、力が宿る。
その瞬間。
◇ ◇ ◇
時は再び、あの瞬間へと追いつく。




