英雄達と若人達②
グレイグを先頭に、四人の隊長とセリオは王城の廊下を足早に進んでいた。
その途中。
「……む」
グレイグが足を止めた。
廊下の向こうから、一人の少年が歩いてくる。
淡い金髪に、青緑色の瞳。
ノエル・クラウゼだった。
「あれ? 隊長の皆さん。それにセリオさんまで」
ノエルは一行を見回し、不思議そうに首を傾げた。
「そんなに急いで、どこへ行くんですか?」
「ノエル」
「はい?」
「来い」
「……え?」
グレイグはそれだけ告げると、再び歩き出した。
「えぇ⁉︎ ちょ……! 急に! 説明! 説明求めます!」
慌てて後を追うノエル。
「シルヴァン隊長! 何なんですか、これ!」
「仕事ですので、来てください」
「え?」
「以上です」
「意味分からないからぁ!」
ノエルの悲鳴が廊下に響いた。
「ガッハッハ! 諦めろ、ノエル!」
ダリウスが豪快に笑いながら、その背中を叩く。
「いったぁ⁉︎ ダリウス隊長! 力加減!」
「ガッハッハ! 元気があってよろしい!」
「褒められてる気がしないんですけど!」
「無駄口を叩くな。キビキビ歩け!」
リゼットの鋭い声が飛ぶ。
「は、はい!」
「そうだぞ、ノエル!」
セリオも便乗した。
「貴様は黙っていろ!」
「何で俺だけ⁉︎」
「リゼット隊長」
シルヴァンが静かに呼びかける。
「な⁉︎ 私は別に……!」
「お静かに」
「…………」
リゼットが口を閉じた。
その様子を見たノエルが、セリオへそっと顔を寄せる。
「……セリオさん」
「あ?」
「リゼット隊長と何かあったんですか?」
「……いや、いつもこんな感じだろ」
「……それもそうですね」
「聞こえているぞ、貴様ら」
「「…………」」
二人は揃って口を閉じた。
「……ガッハッハ!」
「ダリウス隊長」
「おっと! すまんすまん!」
シルヴァンが小さくため息をつく。
「……まったく。先が思いやられますね」
そんなやり取りを交わしながら、一行は王城の正門へと向かった。
◇ ◇ ◇
王城の正門が見えてきた。
その手前に、一人の青年が立っている。
腰には騎士剣。
反対側には、小ぶりな盾。
リオネル・アクアリスだった。
「……お? リオじゃねぇか」
セリオが声を掛ける。
「セリオ殿!」
リオネルは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにグレイグへ向き直った。
「グレイグ隊長!」
「……あぁ」
「王都で異変が起きていると聞きました。私も行きます!」
「……あぁ」
「…………」
あまりにもあっさりとした返事に、リオネルが目を瞬かせる。
「……よろしいのですか?」
「構わん」
「ですが、私はまだ正式な出動命令を受けておりません」
「リオネルさん」
シルヴァンが口を開いた。
「貴方については、オーウェン様からも同行させるよう仰せつかっております」
「……父上が?」
「ええ。実戦を経験させたいとのことです」
「…………」
リオネルは僅かに目を伏せた。
やがて顔を上げ、背筋を伸ばす。
「……承知しました。必ずお役に立ってみせます!」
「……期待している」
グレイグが短く頷いた。
「おーい、リオ!」
セリオが手を振る。
「話は終わったか?」
「ええ、セリオ殿!」
「なら行くぞ!」
「はい!」
「ちょっと待ってください!」
後ろからノエルが割って入った。
「リオネルさん! 何が起きてるか知ってるんですか⁉︎」
「王都で何者かが暴れていると聞いているが……」
「それだけですか⁉︎」
「……それだけだが?」
「僕なんか、何も聞かされずに連れてこられたんですよ!」
「……そうなのか?」
「そうなんですよ!」
「ノエル」
グレイグが呼んだ。
「はい!」
「行くぞ」
「だから説明を……!」
「ノエル」
シルヴァンが片眼鏡を押し上げた。
「移動しながら説明いたします。まずは足を動かしてください」
「……最初からそう言ってくださいよぉ!」
「キビキビ歩け!」
「はいぃ!」
リゼットの一喝に、ノエルが慌てて駆け出した。
「ガッハッハッハ!」
ダリウスの笑い声が、王城の門を抜けて響いた。
◇ ◇ ◇
王都エルディア。
石畳の大通り。
七人は、街の中心部へ向かって駆けていた。
普段なら人々の声で賑わう通りも、今は様子が違う。
騎士達が慌ただしく行き交い、住民達は建物の中へと避難している。
遠くからは、何かが崩れるような音まで聞こえてきた。
「……これは」
リオネルが表情を険しくした。
「思っていた以上に、事態は深刻なようですね」
「ええ。複数の地点で戦闘が発生しています」
シルヴァンが答える。
「騎士団からの報告によれば、襲撃者は相当な手練れのようです」
「……手練れ、ねぇ」
セリオが呟いた。
先ほど戦った少年。
ミュゼ。
あの猫のような動きと、両肩を捉えた双鉤爪。
決して弱い相手ではなかった。
(……あんなのが何人もいんのか?)
だとすれば、厄介なことになる。
「セリオさん」
隣を走るノエルが顔を向けた。
「ガイストのお仲間が巻き込まれてるかもしれないんですよね?」
「あぁ」
「……心配じゃないんですか?」
「……まぁ、何人かはな」
「何人か?」
ノエルが首を傾げる。
「全員じゃないんですか?」
「……一人、気に食わねぇガキがいるんだよ」
「えぇ……仲間なのに?」
「仲間だからって、全員と仲良しこよしなわけじゃねぇだろ」
「……それは、そうですけど」
セリオは肩をすくめた。
「ま、レテ達が無事ならそれでいいさ」
「……随分と嫌われてるんですね、その人」
「そりゃもう、めちゃくちゃにな」
セリオが鼻を鳴らす。
「……セリオ殿」
今度はリオネルが口を開いた。
「その少年とは、何かあったのですか?」
「あぁ?」
「随分と険悪なご様子なので……」
「……色々とな」
セリオは短く答えた。
思い出すだけで腹が立つ。
あの少年の存在。
あの得体の知れなさ。
何より、自分の理解できないものを平然と抱えているところが、どうにも気に食わなかった。
「……ま、今はどうでもいいだろ」
セリオが前を向く。
「先にレテ達を見つけねぇとな」
「……ええ」
リオネルが頷いた。
その時。
「――止まれ」
グレイグの声が響いた。
七人が一斉に足を止める。
石畳の先。
通りの向こうから、騎士が一人駆けてきた。
肩で息をし、鎧には土埃が付いている。
「た、隊長方!」
「報告しろ」
グレイグが短く告げた。
「はっ! 中央広場付近にて、複数名の戦闘を確認!」
「人数は?」
「正確には不明です! ですが、ガイストからの来訪者と思われる者達が襲撃されており……!」
「……!」
セリオの眉が動いた。
「状況は!」
「黒髪の青年が賊一人と戦闘中! ……ですが、劣勢!」
「…………」
「他の者達は、別の賊達に取り囲まれています!」
「……ったく」
セリオが舌打ちした。
「何やってんだよ、あいつら」
「セリオ」
グレイグが振り向いた。
「知り合いか?」
「あぁ。たぶん、うちの連中だ」
「……そうか」
グレイグは騎士へ向き直った。
「負傷者は?」
「多数確認されています! しかし、戦闘が激しく、我々では近づくことすら……!」
「…………」
グレイグの表情が引き締まった。
リゼットが眉をひそめる。
「騎士団でも近づけぬほどか」
「……相手は相当な使い手ですね」
シルヴァンが静かに呟く。
「ガッハッハ! ならば我々の出番ではないか!」
ダリウスが大戦槌を担ぎ直した。
その隣で、グレイグが巨大な盾に手を掛ける。
「……急ぐぞ」
「了解!」
リゼットが答えた。
「承知しました」
シルヴァンも頷く。
「おう!」
ダリウスが笑う。
「はい!」
リオネルが剣の柄を握った。
「……えっ、もう行くんですか⁉︎」
ノエルが慌てて声を上げる。
「当然だ」
リゼットが睨む。
「キビキビ歩け!」
「は、はい!」
「そうだぞ、ノエル!」
セリオも便乗した。
「貴様は黙っていろ!」
「だから何で俺だけ⁉︎」
「リゼット隊長」
「…………!」
「お静かに」
「…………」
リゼットが口を閉じた。
「……ガッハッハ!」
「ダリウス隊長」
「……おっと!」
そんなやり取りを最後に、七人は再び石畳を蹴った。
目指すは中央広場。
その先で何が待っているのか。
この時のセリオは、まだ知らなかった。




