もうちょい付き合って!
「ウギアァァァァァァァァァ‼︎」
喉が裂けるような叫び声が、大通りに響き渡った。
「……っ!」
セラが思わず両耳を塞ぐ。
「……うるさい」
「ば……化け物……」
ミュゼが呆然と呟いた。
アルトの身体からは、今も膨大な魔力が噴き上がっている。
傷だらけの身体。
それでも倒れず、獣のような唸り声を上げ続けていた。
「…………」
フーガは、その姿を黙って見つめていた。
やがて。
「……しゃーないわ」
小さく息を吐く。
そして、《龍憑》を構え直した。
「出来の悪い弟持つと、ほんまに疲れるわぁ」
その声は、どこか呆れたようで。
けれど、いつもの軽さはなかった。
「……寝てろや、アルト」
その時。
「ごっふ! ごほっ、げほっ……!」
「……ぐっ……」
少し離れた場所から、咳き込む声が聞こえた。
ガオンが身体を起こそうとしている。
その隣では、ログも苦しそうに顔を歪めていた。
「いたた……」
「うっ……!」
フィリアとヒルトも目を覚ます。
「……ここは……いっ!」
ユノが起き上がろうとして、両脚の痛みに顔を歪めた。
そして。
「いっ……くっ……」
レテが、血に染まった右肩を押さえる。
「……アルト君?」
その声に。
フーガがゆっくりと顔を向けた。
「…………」
目を覚ました六人。
そして、周囲に立つ不死隊の面々。
フーガは一度だけ目を伏せた。
「……みんな」
静かな声だった。
「憎まれ役……もうちょっと付き合うてくれる?」
「……チッ」
バルドが舌打ちする。
「…………」
ゴートーは黙ったまま、フーガを見た。
「……うん」
セラが小さく頷く。
「もちろん」
エルネが穏やかに答えた。
「任せろい!」
ゲンザが胸を叩く。
「しゃーねぇなぁ……」
ドーマが面倒くさそうに頭を掻いた。
「…………」
フーガの口元が、僅かに緩む。
「ふっ……恩に着るわ」
そして、ミュゼへ視線を向けた。
「ミュゼ」
「……はい」
「悪いな。付き合わせて」
「…………」
ミュゼは一瞬、目を伏せた。
それから。
真っ直ぐフーガを見つめる。
「……俺だって、不死隊です」
「…………」
フーガが目を丸くした。
そして。
「はっはっは!」
大きく笑った。
「よう言うたわ!」
その笑い声が収まると、フーガは倒れていた六人へ顔を向けた。
「お友達〜!」
「……?」
レテが顔を上げる。
ログも、ガオンも。
何が起きているのか分からないまま、フーガを見つめた。
「すまん!」
フーガが笑う。
「もうちょい付き合って!」
次の瞬間。
ドンッ‼︎
石畳が砕けた。
「――⁉︎」
フーガがアルトへ向かって駆け出す。
そして。
一気に跳躍した。
高く。
アルトの頭上へ。
「――《龍断》」
《龍憑》が振り下ろされる。
狙いは。
アルトの首。
ザァン‼︎
「ギャァァァァァガァァァァァァァァァ‼︎」
凄まじい叫び声が響いた。
だが。
「…………」
フーガが目を細める。
《龍憑》の刃は、アルトの首を捉えていた。
それなのに。
「……傷一つつかんとはなぁ」
皮膚には、僅かな傷すらなかった。
「やっぱマジもんはちゃうなぁ……」
フーガが苦笑する。
「自信無くすで」
そして。
「……せやけど」
グンッ‼︎
《龍憑》を引き、アルトの体勢を崩す。
そのまま身体を押さえつけた。
ドゴォン‼︎
「グゥゥゥゥゥガァァァァァァァァァ‼︎」
アルトが暴れる。
両腕を振り回し、地面を蹴る。
石畳が砕け、亀裂が広がっていく。
だが、フーガは離さなかった。
「ほれ! 見ろや!」
「グガァァァァァ‼︎」
「あっち!」
フーガがアルトの髪を掴んだ。
そして、無理やり顔を横へ向ける。
「あっち言うとんねん!」
「グガァァァァァァ‼︎」
「よく見ぃ!」
アルトの視線の先。
そこには。
「……アルト君?」
レテがいた。
傷ついた右肩を押さえながら、こちらを見ている。
「アルト……?」
ログが呟く。
「……おい、アルト!」
ガオンが声を上げる。
フィリアも。
ヒルトも。
ユノも。
みんな、アルトを見ていた。
「グガァァァァ……!」
アルトの叫び声が、僅かに弱まる。
「……ガァ?」
その目が揺れた。
「…………」
フーガは黙って、その様子を見ていた。
「ア……ガ……」
アルトの唇が震える。
「ミン……ナ……」
レテ達の顔を、一人ずつ見つめる。
そして。
「……ヤメ……」
掠れた声が漏れた。
「……やめ……」
「…………」
フーガが小さく息を吐く。
「……やっと正気か」
だが。
その手は、アルトの髪を掴んだままだった。
「でも……」
フーガの口元が吊り上がる。
「もう遅いで?」
「…………?」
アルトの目が、大きく見開かれた。
視線の先。
レテ達を囲むように、不死隊の面々が立っていた。
ゴートーが《犀嶽》を構える。
バルドが《蜂穿》の穂先を向ける。
セラが《白鶴》を持ち上げる。
ゲンザが《虎鉄》を握り直す。
エルネが《翠角》を抜き。
ドーマが《化双》を構えた。
そして、ミュゼも。
両手の《遊猫》を、静かに持ち上げる。
「…………」
アルトの喉から、小さな声が漏れた。
「……や……め……」
誰も。
武器を下ろさなかった。




