力で示せ
「……ころ……」
何を。
今、何を言った?
「……は?」
フーガは笑っていた。
いつもと変わらない顔で。
「じょ……冗談だろ……?」
俺は震える声で問いかける。
「狙いは……俺だけだろ……?」
「うーん……」
フーガが顎に手を当てた。
少し考えるように首を傾げる。
「お前が苦しんで死ぬ」
「…………」
「それが狙いや」
息が止まった。
苦しんで。
死ぬ。
俺が。
それなら。
「……俺だけ……」
「あ?」
「俺だけ死ねば……みんなは……」
「それじゃあ」
フーガが俺の言葉を遮った。
「ただ死ぬだけやん?」
「…………」
「つまらんわ」
頭が真っ白になった。
目の前には、倒れた仲間達。
ログ。
ガオン。
フィリア。
ヒルト。
ユノ。
レテ。
みんな。
俺と一緒に旅をしていただけなのに。
「……フーガ」
俺は一歩踏み出した。
「フーガ……!」
気づけば、その服を掴んでいた。
「頼む……!」
頭を下げる。
「俺はどうなってもいい……!」
「…………」
「だから……みんなだけは……!」
その時。
「……チッ」
ドゴッ‼︎
「がっ⁉︎」
横から蹴りが飛んできた。
バルドだ。
身体が吹き飛び、石畳を転がる。
「ぐっ……!」
起き上がろうとした瞬間。
背後から大きな手が伸びてきた。
「――っ⁉︎」
ゴートー。
腕を掴まれ、背中へ捻り上げられる。
「いっ……!」
そのまま。
ゴッ‼︎
頭を石畳へ押しつけられた。
「ぐぅぅっ……!」
動けない。
片腕を背中で固められ、少しでも抵抗すれば肩が軋む。
「やめてくれ……」
俺は顔を歪めた。
「お願いだよ……」
フーガの足が、目の前に見える。
「頼む……みんなを……」
「じゃあ」
フーガがしゃがみ込んだ。
「止めてみぃや」
「…………」
「殺されたくないんやろ?」
「……っ」
「ほな、止めたらええやん」
「頼む……!」
俺は必死に声を絞り出した。
「頼む……頼む……頼む……!」
お願いだから。
やめてくれ。
俺はどうなってもいい。
だから。
みんなだけは。
「…………」
その時。
小さな足音が近づいてきた。
「……セラ?」
セラが俺の前でしゃがみ込む。
眠たげな目で、じっと俺を見つめていた。
「……それじゃあダメ」
「……え?」
「お願いしても……ダメ」
セラが小さく首を振る。
「…………」
「ったく……」
今度はドーマの声がした。
「情けねぇなぁ、アルト」
呆れたように頭を掻いている。
「フーガの野郎を黙らす方法なんざ、一つしかねぇだろ」
「……?」
「おう!」
ゲンザが一歩前へ出た。
さっきまでの笑みはない。
「アルト!」
「…………」
「俺達の価値! それはなんだ⁉︎」
「……価値……?」
「あぁ」
エルネが穏やかに頷いた。
「単純だろ?」
セラが立ち上がる。
ドーマが鼻を鳴らす。
ゲンザが腕を組む。
そして。
四人の声が重なった。
「「「「――力で示せ」」」」
「……!」
力。
その言葉が、頭の中で何度も響いた。
「……力……」
「そう」
エルネが微笑む。
「まずは、ゴートー君をどかしてみな」
「…………」
「私達も、彼らに死んでほしくはないんだよ」
「……え?」
俺は顔を上げようとした。
けれど、ゴートーの手がそれを許さない。
「けっ!」
ドーマが吐き捨てる。
「俺は別に、あいつらがどうなろうと知ったこっちゃねぇけどな」
「ガッハハ!」
ゲンザが笑った。
「俺っちは、そもそもあの小僧の名前も知らねぇしな!」
「……フィリアは」
セラがぽつりと呟く。
「面白かったから……」
それぞれが、勝手なことを言っている。
なのに。
どうしてだろう。
さっきまでとは。
何かが違って聞こえた。
「…………」
フーガが、ゆっくりと立ち上がった。
そして。
俺を見下ろす。
「……立てや」
「…………」
「アルト」
その声には、もう笑みがなかった。




