お友達
「お友達がどんどん来るで?」
フーガが、地面に倒れたログとガオンへ目を向ける。
「そこで寝とるん?」
「……舐めんな……」
俺は拳を握り締め、震える膝に力を込めた。
顎も腹も痛い。
それでも、こんなところで倒れているわけにはいかない。
「そうや! 来い!」
フーガが嬉しそうに《龍憑》を構える。
「続きや! アルト!」
俺も拳を構え直す。
その時。
「……あれ?」
フーガの視線が、俺の後ろへ向いた。
「……重い」
聞き覚えのある、眠たげな声。
「……セラ?」
振り返ると、セラが誰かの足を掴み、石畳の上を引きずっていた。
「……フィリア?」
見慣れた金髪。
破れた私服。
血に染まった右肩。
「フィリアッ⁉︎」
駆け寄ろうとした俺の耳に、今度は豪快な笑い声が届いた。
「ガッハハハハ!」
「……ゲンザ?」
腕まくりをしたゲンザが、こちらへ歩いてくる。
その肩には、ぐったりとしたヒルトが担がれていた。
「ヒルトまで……!」
「おう! フーガ隊長! 終わったぜ!」
「おー、ゲンさん。お疲れさん」
「ガッハハ! なかなか面白い兄ちゃんだったぞ!」
ゲンザが豪快に笑う。
その後ろから、さらに一人。
「あぁ、お疲れ様」
穏やかな声。
「……エルネ?」
エルネが、誰かの腕を掴んで引きずっていた。
その姿を見た瞬間、息が詰まった。
「……ユノ?」
血に染まった服。
両脚には包帯が巻かれている。
目を閉じたまま、まったく動かない。
「ユノッ!」
返事はなかった。
「なんやねん!」
フーガが大袈裟に肩を落とした。
「もうみんな来てしもうたわ!」
そして、周囲を見回す。
「……あれ? ドーマさんは?」
「……チッ」
バルドが舌打ちする。
「あの雑魚……負けたんじゃねぇだろうな……」
「いやぁ、それはないんじゃない?」
エルネが穏やかに笑った。
「ドーマ君だって、そう簡単には負けないと思うよ」
「おおかた、あのおっさんは酒でも飲んでんだろ!」
ゲンザが腹を抱えて笑う。
「ガッハハハハ!」
「……ねむい」
セラが小さく呟いた。
「セラ、もうちょい頑張りぃ」
「……やだ」
「やだやないねん」
フーガが苦笑する。
そして、ミュゼへ顔を向けた。
「ミュゼ。ドーマさん探してきてや」
「えぇ……俺がっすか?」
「他に誰がおんねん」
「いや、俺だって怪我してるんすけど……」
「歩けるやろ?」
「そりゃ歩けますけど……」
「ほな決まりや」
「横暴っすねぇ……」
ミュゼが渋々歩き出そうとした、その時。
「おい、ミュゼ」
ゲンザが声をかけた。
「はい?」
「……その血、どうした?」
「え?」
振り返ったミュゼが足を止める。
さっきまで豪快に笑っていたゲンザが、真顔になっていた。
「随分やられてんじゃねぇか」
「あぁ、これっすか。実は――」
「死んだんやって」
フーガが横から口を挟んだ。
「二回も」
「…………」
ゲンザの笑みが消えた。
「……どこのどいつにやられた?」
低い声。
先ほどまでとは、まるで違う。
「やば。キレるで」
フーガが楽しそうに呟く。
「いやいや、フーガさん!」
ミュゼが慌てて両手を振った。
「変な言い方しないでくださいよ! ちゃんと説明しますから!」
「……誰だ?」
ゲンザが一歩近づく。
「だから、落ち着いてくださいって!」
そんなやり取りを、俺はただ呆然と見ていた。
フィリア。
ヒルト。
ユノ。
ログも、ガオンも。
みんな倒れている。
分かっていた。
不死隊が強いことなんて、誰よりも知っていた。
それでも。
かつて一緒に過ごした連中が、今の仲間を傷つけている。
その光景が、どうしても受け入れられなかった。
「……おい」
俺はフーガを睨んだ。
「みんなを……どうするつもりだよ……」
「ん?」
フーガがこちらを向く。
だが、答えるより早く。
「…………」
それまで黙っていたゴートーが、ふと顔を上げた。
大通りの先を見ている。
「……きた」
「あ?」
フーガが振り返る。
俺も、その視線を追った。
通りの向こう。
一人の男が、こちらへ歩いてくる。
「……ドーマ?」
見間違えるはずがない。
着崩れた軍服。
腰には、長さの違う二振りの剣。
そして。
その手には――。
「……レテ?」
俺の声が掠れた。
ドーマが、レテの腕を掴んで引きずっていた。
右肩は血に染まり、顔は青白い。
目を閉じたまま、動かない。
「……レテッ!」
「ったく……」
ドーマが面倒くさそうに顔をしかめる。
「うるせぇなぁ……」
「おー! ドーマさん!」
フーガが手を振った。
「遅かったやん!」
「うるせぇ。こっちは色々あったんだよ」
「酒飲んでたんちゃう?」
「飲んでねぇよ!」
「ガッハハハ! やっぱりな!」
「だから飲んでねぇっつってんだろ!」
また笑い声が上がる。
俺は、もう何も言えなかった。
ログ。
ガオン。
フィリア。
ヒルト。
ユノ。
レテ。
全員が、目の前に倒れている。
「おっ」
フーガが周囲を見渡した。
「これで全員集まったか?」
「……そうみたいだね」
エルネが答える。
「ほな、一箇所にお友達集めといて」
フーガが軽い調子で言った。
ゴートーが無言でログを持ち上げる。
バルドもガオンを引きずり始めた。
他の連中も、それぞれが運んできた仲間を一箇所へ集めていく。
「……待てよ」
俺は一歩踏み出した。
「何してんだよ……」
誰も答えない。
「おい……!」
フーガの背中を睨む。
「な、何を……」
喉が震えた。
「みんなに……何をするつもりなんだよ⁉︎」
「あ?」
フーガが振り返る。
「何をって……」
不思議そうに首を傾げた。
そして。
いつものように、にこりと笑った。
「お前を苦しめるために殺すんやで」




