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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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生きてるんだろうな

王都エルディア。


 王国祭の余韻が残る、石畳の大通り。


「……ぐっ……」


 顎が痛い。


 口の中には血の味が広がっていた。


 俺は石畳に片手をつき、どうにか顔を上げる。


 目の前には、見覚えのない少年。


 そいつは俺を見て、当たり前のように名前を呼んだ。


「……お前……」


 口を開くと、顎に鋭い痛みが走った。


「ぐっ……なんで……俺の名前……知ってんだ……?」


「え? そりゃ――」


「おっと」


「――がっ⁉︎」


 ドゴッ‼︎


 答えを聞くより早く、フーガの蹴りが腹へ突き刺さった。


 身体が宙に浮き、石畳を転がる。


「がはっ……げほっ、げほっ……!」


「お前はちょっと黙っとき」


 フーガは俺を一瞥すると、何事もなかったように少年へ顔を向けた。


「それよりミュゼ。お前、なんやその格好」


「あ、これっすか?」


 ミュゼと呼ばれた少年が、自分の身体を見下ろす。


 服はあちこち破れ、血に染まっていた。


 肩や腕にも傷がある。


 それなのに、本人は大して気にしていない様子だった。


「セリオ・バルディアにやられました」


「……セリオ?」


 俺は思わず呟いた。


 あいつと戦ったのか?


「ふーん」


 フーガが興味深そうに目を細める。


「強かった?」


「俺が二回死ぬぐらいには」


「へぇ……」


 フーガが少し考え込む。


 そして。


「じゃあ大したことないやん」


「ちょっと⁉︎」


 ミュゼが思わず声を上げた。


「二回っすよ⁉︎ 二回も死なされたんすよ、俺!」


「ははっ! 冗談や、冗談!」


「ったく……フーガさんは……」


 ミュゼが呆れたように肩をすくめる。


「んで? どうするんすか?」


「あぁ……せやなぁ」


 フーガが空を見上げる。


「まぁ、もうそろそろみんな戻ってくるやろし……」


 そう言いかけたところで。


「あ、噂をすれば」


「……?」


 フーガの視線を追う。


 大通りの向こう。


 二つの人影が、こちらへ歩いてきていた。


 一人は、巨大な剣を背負った大男。


 もう一人は、長い槍を肩に担いだ、背の高い男。


「……ゴートー?」


 見間違えるはずがない。


 その隣にいるのは。


「……バルド?」


 二人とも、不死隊の仲間だった。


「おー、お疲れさん」


 フーガが軽く手を振る。


「どうやった?」


「…………」


 ゴートーは何も答えなかった。


 ただ、肩に担いでいた男を下ろす。


 ドサッ。


「……え?」


 地面へ投げ出されたのは。


「……ログ?」


 見慣れた茶色い髪。


 旅行に出かける時に着ていた私服は、土埃と血で汚れていた。


「ログッ!」


 駆け寄ろうとした。


 だが、その前に。


 ドサッ!


 今度はバルドが、肩に担いでいた男を放り投げた。


「……ガオン?」


 赤い髪。


 見慣れた顔。


 その服も破れ、身体にはいくつもの傷が刻まれていた。


「ガオンッ!」


 返事はない。


 二人とも、ぴくりとも動かなかった。


「おい……」


 俺は二人を見た。


 そして、ゴートーとバルドへ顔を向ける。


「……何したんだよ」


「…………」


 ゴートーは黙ったまま。


 バルドは俺を一瞥すると、小さく鼻を鳴らした。


「……チッ」


 そして、ミュゼへ視線を移す。


「汚ねぇなぁ、ミュゼ」


「えっ、俺っすか⁉︎」


「血ぃ垂らしすぎだろ……」


「いや、バルドさんも人のこと言えないっすよ⁉︎」


「……うるせぇ」


「ひどっ!」


 まただ。


 また、何事もなかったように。


 こいつらは話している。


「……おい」


 声が震えた。


「ログとガオンに……何したんだよ!」


 俺の叫びに、フーガが振り返る。


「何って……」


 そして、いつもの調子で笑った。


「見たら分かるやろ?」


「…………」


「負けたんや」


 分かってる。


 そんなことは、分かってる。


 グウェン、フーガ、ゴートー、バルド。


 この四人は、不死隊の中でも飛び抜けて強い。


 ログやガオンが弱いわけじゃない。


 でも。


 ゴートーとバルドが相手なら、こうなることは想像できた。


 だからこそ。


「……生きてるんだろうな?」


 俺はフーガを睨んだ。


「ログも……ガオンも……!」


 フーガは答えない。


 ただ、楽しそうに首を傾げた。


「さて……」


 その視線が、再び俺へ向く。


「お前はどうする?」


「……!」


「アルト」

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