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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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617/672

貴方のお陰

「ざ〜こ」


「ッ……!」


 レテが。


 右肩へ突き刺さった短剣に顔を歪める。


 その隙に。


 ドーマは軽々と体勢を立て直した。


「おらぁ!」


 一気に間合いを詰め。


 《化双》の長剣を振るう。


「くっ!」


 ガキィン‼︎


 《水凪》で受け止める。


 刃と刃が噛み合い。


 鍔迫り合いになる。


「ぐっ……!」


 右肩が痛む。


 力が入らない。


 それでも。


 レテは《水凪》を押し返そうと――。


「返してもらうぜっ!」


「――⁉︎」


 ドーマの左手が。


 レテの右肩へ伸びる。


 突き刺さったままの短剣。


 その柄を掴み。


 グリンッ!


 手首を返した。


「ぐぅぅぅぅっ!」


 傷口が抉られる。


「ごふっ⁉︎」


 ドゴッ‼︎


 同時に。


 ドーマの蹴りが腹へ突き刺さった。


 レテの身体が折れ曲がり。


 短剣が。


 血を引きながら肩から抜ける。


「がっ……!」


 数歩。


 よろめく。


 右腕が。


 だらりと下がった。


「もう無理だろ?」


 ドーマが。


 短剣を軽く振って血を払う。


「両手で刀を持てねぇなら、ろくに振れねぇはずだ」


「……貴方に……」


「あ?」


「心配される筋合いは……ありません……」


「…………」


 ドーマが。


 小さく息を吐く。


「はぁ……」


 そして。


 長剣を持ち上げた。


「その通りだな」


「…………」


「じゃあ死ね」


 振り下ろされる。


「……ッ!」


 レテは。


 動く左腕だけで《水凪》を掲げた。


 ガァン‼︎


「ぐっ……!」


 重い。


 片腕では。


 支えきれない。


 さらに。


 ドーマが力を込める。


 そして――。


 バキィン‼︎


「――!」


 《水凪》が。


 折れた。


「…………」


 ドーマが。


 呆れたように目を細める。


「なんだそりゃ……」


 刀身が。


 半ばから消えている。


「そんな簡単に折れ――」


「………⁉︎」


 違う。


 折れたんじゃない。


 崩れた。


 形を失った水が。


 ドーマの長剣へ絡みつく。


「なん――」


 そのまま。


 腕へ。


 這う。


「なっ⁉︎」


 シュルルルルッ‼︎


 水が。


 縄のように。


 ドーマの両腕へ巻きついた。


「ぐっ……!」


 締まる。


 長剣と短剣。


 《化双》を握った両腕が。


 身体ごと拘束された。


「テメェ……!」


「……貴方のおかげで」


 レテが。


 ゆっくりと顔を上げる。


「気づきました」


「あ?」


 右肩から。


 血が滴る。


 それでも。


 レテの目は。


 真っ直ぐドーマを見ていた。


「私はずっと……」


 左手に残された《水凪》の柄を見る。


「これを、刀だと思っていました」


「…………」


「長くする」


「…………」


「短くする」


「…………」


「形を変える」


 今まで。


 何度もやってきた。


 けれど。


 その根本だけは。


 ずっと変わっていなかった。


「でも――」


 レテが。


 柄を握り直す。


「違った」


 ドーマの腕へ絡みつく水が。


 さらに形を変えていく。


「《水凪》は――」


 水が。


 脈打つ。


「刀ではない」


「…………!」


「《水凪》は……」


 レテが。


 一歩。


 踏み込んだ。


「――形のない水です」

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