痺れたぜ
「……ちっと」
ゲンザが。
《虎鉄》を握ったまま。
ぐるりと肩を回す。
「本気出すか」
「……え?」
次の瞬間。
百近い弾丸が。
一斉にゲンザへ襲いかかった。
前。
後ろ。
左右。
頭上。
足元。
幾重にも仕込まれた術式が。
逃げ場など残さず殺到する。
その中心で。
ゲンザが腰を落とした。
「――《暴虎乱打》」
「……嘘だろ?」
ガガガガガガガガガガガガッ‼︎
《虎鉄》が。
霞んだ。
右。
左。
上。
下。
正面から来た一発を叩き落とし。
横から迫る一発を弾き。
背後から飛び込んできた弾丸すら。
身体を捻って打ち落とす。
腕だけじゃない。
踏み込み。
蹴り。
身体の回転。
使えるもの全てを使って。
次々と。
弾丸を叩き落としていく。
十。
二十。
五十――。
「…………」
ヒルトは。
引き金に指を掛けたまま。
その光景を見つめる。
ガガガガガガガガガガッ‼︎
そして。
最後の一発まで。
《虎鉄》に叩き落とされた。
「……嘘だろ」
静かになった市場通りに。
ヒルトの声だけが落ちた。
「おー……」
ゲンザが。
片方の《虎鉄》で肩を軽く叩く。
「ちょっと肩いてぇや……」
「くっ……!」
ヒルトが。
すぐさま銃口を向ける。
「《蜘蛛――》」
「もうそれはいいわ」
「――⁉︎」
一瞬。
ゲンザが間合いを詰める。
ブンッ‼︎
蹴りが。
《ツインコード》の一挺を弾き飛ばした。
「くっ……!」
宙を舞う銃。
追わない。
もう一挺。
残った《ツインコード》を。
ゲンザへ向ける。
(《蜘蛛檻》はもう……)
何を使う?
どう撃つ?
いや――。
パァン‼︎
「おっ」
ゲンザが。
僅かに首を動かす。
弾丸が。
その頬の横を通り抜けた。
「…………」
ゲンザが笑う。
「今、考えたろ?」
「……くそっ」
その通りだった。
また。
考えた。
どうすれば当たる。
何を使えばいい。
ほんの一瞬。
それだけなのに。
「……ぐっ!」
左腕に。
激痛が走った。
「く……っ」
無理やり動かし続けていた腕。
もう。
限界だった。
「……ごっ――」
ゴッ‼︎
《虎鉄》が。
ヒルトのこめかみを打ち抜いた。
「…………」
身体から。
力が抜ける。
膝が折れ。
そのまま。
地面へ倒れ込んだ。
「……ま」
ゲンザが。
倒れたヒルトを見下ろす。
「こんなもんか?」
「…………」
返事はない。
ゲンザは《虎鉄》を下ろし。
ヒルトを担ごうと近づく。
その時。
パァン‼︎
「⁉︎」
ゲンザの左肩を。
一発の弾丸が掠めた。
「……あ?」
足を止める。
視線を落とす。
「うっ……がっ……」
倒れたまま。
ヒルトが。
震える腕で《ツインコード》を向けていた。
目は。
もうほとんど開いていない。
腕も。
まともに上がっていない。
狙いなんて。
つけられる状態じゃない。
それでも。
撃った。
「…………」
ヒルトの腕が。
力なく地面へ落ちる。
今度こそ。
動かなくなった。
「……やるな」
ゲンザが。
血の滲む左肩を見る。
「もや……」
「…………」
「いや、名前は……なんだっけか?」
首を傾げる。
「まぁ……」
ゲンザが笑った。
「痺れたぜ、兄ちゃん」
「…………」
返事はない。
ゲンザは。
今度こそヒルトを担ぎ上げる。
そして。
《虎鉄》を手に。
フーガ達のいる方角へ歩き始めた。




