心配症
◇ ◇ ◇
――王都エルディア。
王国祭の余韻が残る、無人の市場通り。
通りには使われなくなった屋台が並び。
祭りの飾りが、風に揺れていた。
その中央。
ヒルトは《ツインコード》を構え。
ゲンザを睨みつける。
左腕は上がらない。
肋骨も、おそらく何本か折れている。
それでも。
「用ができた」
「あ?」
「すぐ終わらせる」
「用だぁ?」
ゲンザが太い眉を上げる。
「セラの相手の女の子のことが気になるのか?」
「あぁ」
「ほぉ?」
ゲンザがニヤリと笑った。
「いい仲なのか?」
「違う!」
「意外と隅に置けねぇな!」
「違うってば!」
「ガッハハハハ!」
ゲンザの笑い声が。
無人の市場通りに響き渡る。
「……はぁ」
ひとしきり笑って。
《虎鉄》を構え直した。
「やるか。続き」
「あぁ」
ヒルトが銃口を下げる。
「――《蜘蛛檻》」
バンッ‼︎
「お?」
狙ったのは。
ゲンザではない。
足元。
着弾した弾丸が弾け。
無数の糸が広がる。
「よっと!」
ゲンザが跳ぶ。
「それはさっき――」
「――《乱星》」
「うぉ⁉︎」
もう一挺。
銃口はすでに。
空中のゲンザへ向いていた。
バンッ‼︎
放たれた弾丸が分裂する。
一発。
二発。
十発。
それぞれが異なる軌道を描き。
逃げ場のない空中へ。
四方八方から襲いかかる。
「まだ甘ぇ!」
ゲンザの両腕が霞む。
ガガガガガガンッ‼︎
《虎鉄》が。
一発ずつ。
正確に弾丸を叩き落としていく。
だが。
「《加速》――《強化》」
「あ?」
次弾。
「――《彗星》!」
ドンッ‼︎
一直線。
先ほどまでとは比べものにならない速度で。
一発の弾丸がゲンザへ迫る。
「はっは!」
ゲンザが。
空中で身体を捻った。
「いいねぇ!」
右脚を振り上げる。
「いい手数だ!」
そして。
迫る《彗星》へ。
真正面から蹴りを叩き込んだ。
「だが!」
ドゴォン‼︎
弾丸が砕ける。
「俺っちには及ばねぇ!」
「知ってるさ」
「あ?」
着地したゲンザの顔から。
笑みが僅かに消えた。
「僕はさ」
ヒルトが。
《ツインコード》を下ろす。
「心配性だから」
「…………」
「先のことを、どうしても考えてしまう」
ゲンザが黙る。
「だから」
ヒルトは。
小さく息を吐いた。
「あんたみたいに、攻撃してから考えるなんて……たぶん無理なんだ」
「…………」
「でも」
ヒルトの口元が。
僅かに上がる。
「攻撃した後に考えることならできる」
「……?」
「あぁ、そういえば」
「なんだ?」
「お礼をまだ言ってなかった」
「礼?」
「あぁ」
ヒルトが笑う。
「すぐに僕を見つけてくれて、ありがとう」
「…………」
「なんとか――」
カチッ。
「間に合ったよ」
「なんの――」
その時。
ゲンザの足元。
先ほど《蜘蛛檻》を撃ち込んだ石畳に。
淡い光が灯った。
「……あ?」
それだけじゃない。
屋台。
木の幹。
建物の壁。
石畳。
壊れた看板。
市場通りの。
あちらこちらに。
次々と魔法陣が浮かび上がる。
「…………」
ゲンザが。
ゆっくり周囲を見渡す。
その場所は。
これまでヒルトが。
弾丸を撃ち込んできた場所。
「お前……」
「《遅延》」
ヒルトが。
《ツインコード》を構える。
そして。
もう一つ。
「《分裂》」
二つの術式が。
一つへ。
周囲に残されていた魔法陣が。
一斉に強い光を放った。
「…………」
ゲンザの口元が。
ゆっくりと吊り上がる。
「なんの……」
右。
左。
背後。
頭上。
そして足元。
完全に。
囲まれている。
「……はっはっは!」
ゲンザが。
《虎鉄》を握り締めた。
「やるなぁ!」
ヒルトの指が。
引き金へ掛かる。
「――《残星》」
次の瞬間。
市場通りを埋め尽くした魔法陣が。
一斉に。
ゲンザへ牙を剥いた。




