相手の得意を---
◇ ◇ ◇
――王都エルディア。
大通りから離れた自然公園。
王都の中でも緑の多いこの場所には、祭りの喧騒もほとんど届かない。
聞こえるのは。
風に揺れる木々の音と。
二人の戦いが生み出す激しい衝撃音だけ。
「へっ!」
フィリアは。
血の滲む右肩を押さえながら笑った。
「上等だいっ!」
「……まぁ、いいけど」
セラは。
相変わらず眠たそうな目で《白鶴》を構える。
「ヒバリ」
フィリアが。
自分の周囲を飛ぶ精霊へ目を向けた。
「遠慮はなしだよ?」
「…………」
ヒバリが。
心配そうにフィリアの周囲を飛び回る。
右肩。
全身に刻まれた傷。
荒くなった呼吸。
そんなフィリアを見て。
ヒバリはすぐには応えなかった。
「大丈夫!」
フィリアが笑う。
「……それぐらいしないと、勝てないから」
「…………」
その言葉に。
ヒバリが小さく羽ばたいた。
「……はぁ」
セラが溜息を吐く。
「さっさと来れば?」
「……っ」
フィリアの眉が跳ねる。
「ムカつく!」
風が。
フィリアの背後へ集まる。
「――《旋翼》!」
ゴォッ‼︎
背中で。
二つの風の渦が激しく回転を始めた。
さらに。
「《追い風》!」
背中を押す風。
「《地風》!」
足元から吹き上げる風。
三つの風が。
フィリアの身体を包み込む。
「……それは」
セラが僅かに目を細める。
「さっき見た――」
「――でしょ!」
ドンッ‼︎
「……!」
フィリアが消える。
いや。
違う。
飛び出した。
だが――。
「…………?」
先ほどとは違う。
真っ直ぐではない。
右へ。
左へ。
急上昇。
そこから一気に落ち。
また横へ。
《追い風》と《地風》。
さらに《旋翼》。
それぞれの風を細かく変化させながら。
フィリア自身ですら次の位置を読ませないような。
歪で。
乱れた軌道。
「合わせられるなら――」
フィリアが。
セラの頭上へ跳ね上がる。
「合わせてみろ!」
「…………」
セラが。
初めて。
「……ふふふ」
笑った。
「⁉︎」
「それで」
《白鶴》が動く。
「どうにかできると思ったの……?」
「あはは」
「――っ!」
フィリアの顔が引き攣る。
「だったら――!」
空中で。
身体を捻る。
《旋翼》が唸り。
風が。
右脚へ集中する。
そして。
雷が落ちるように。
セラの頭上へ。
踵を振り下ろした。
「――《風雷》‼︎」
ドォォォン‼︎
「……私の回転は」
セラが。
《白鶴》の柄を横へ構える。
ガァン‼︎
「その程度じゃ破れない‼︎」
「ぐっ……!」
踵を。
《白鶴》の柄が受け止める。
次の瞬間。
セラの身体が。
縦へ回った。
「――⁉︎」
フィリアの脚を受け止めた力すら。
その回転へ乗せて。
《白鶴》が。
円を描く。
「……終わり」
振り下ろされる。
「――っ!」
ドゴォン‼︎
「ぐぅっ!」
地面へ叩きつけられる。
土が弾け。
フィリアの身体が地面を跳ねた。
「……終わ――」
「――《風流》」
「……?」
倒れたまま。
フィリアが。
片手を地面につく。
「《逆渦》‼︎」
ゴォォォッ‼︎
「……⁉︎」
風が。
セラを包んだ。
ただの突風じゃない。
回る。
セラが身体を回していた方向とは――。
真逆へ。
「これは……」
セラの回転へ。
反対方向から風が噛みつく。
回転が。
一瞬だけ。
「――っ」
止まった。
その瞬間。
フィリアが顔を上げる。
「相手の得意を――」
「……!」
「潰すんでしょっ!」
その手には。
すでに《遠音》。
弦へ。
指を掛ける。
「――《彼方音》!」
ポロン――。
ポロン――。
「……っ!」
響いた音が。
空気を震わせる。
次の瞬間。
ドンッ‼︎
「うっ……!」
音が。
衝撃となって。
回転を止められたセラへ。
真正面から襲いかかった。




