木を削り、石を割り
◇ ◇ ◇
――王都エルディア。
大通りから離れた、細い路地を抜けた先。
建物に囲まれた開けた一角では。
ユノとエルネの戦いが続いていた。
「――自分で答えを出せよ」
「くっ!」
ヒュッ――!
《翠角》の切っ先が。
ユノの身体を掠めていく。
一度。
二度。
三度――。
止まらない。
腕。
肩。
脇腹。
気づけば、身体中に無数の傷が刻まれていた。
(くそ……!)
ユノは歯を食いしばる。
(反撃の糸口が……!)
「ほら」
「――⁉︎」
「足が止まってるよ?」
シュッ――!
血飛沫が舞った。
「くぅぅぅ!」
脚に鋭い痛みが走る。
それでも。
《翠角》は止まらない。
「ほらほら、考えて! 足を動かして!」
「くっ……!」
「そんな調子じゃ――」
一歩。
エルネが踏み込む。
「すぐ死ぬよ?」
ザシュッ‼︎
「ぐわぁぁっ!」
ユノの胸に。
十字の傷が刻まれた。
浅くない。
服が裂け。
鮮血が滲み出す。
「はぁ……はぁ……!」
額から脂汗が流れ落ちる。
痛い。
息をするだけで。
胸が焼けるように痛む。
なのに。
エルネはもう。
次の攻撃へ移る姿勢を取っていた。
(……勝てるわけがない)
ユノの頭に。
そんな考えが浮かぶ。
(こんなの……次元が違う……)
「……はぁ」
「……?」
エルネが小さく息を吐いた。
「君はさ」
《翠角》を構えたまま。
ユノを見る。
「どうしたいの?」
「……え?」
「私に勝ちたい?」
「…………」
「アルト君を助けたい?」
「……両方……です……」
「じゃあ」
エルネが首を傾げる。
「どうすればいい?」
「…………」
ユノは答えられなかった。
「……わかりません」
「…………」
エルネが僅かに目を細める。
「ユノ君」
「……はい」
「わからないと言うのも、一つの答えだ」
静かな声。
「だけど、大概の場合――」
《翠角》の切っ先が僅かに下がる。
「それは、考えることを放棄してるだけなんだよ」
「……放棄……」
「そう」
エルネが眼鏡の奥からユノを見る。
「君はさ、固定観念なんかにも縛られやすそうだしね」
「…………」
「さっきだってそうだ」
ユノの目が僅かに動く。
「媒介になる魔器がなければ、霊器は呼び出せない」
「…………」
「そう思ってたよね?」
「……はい」
「違うよ」
エルネが即座に否定した。
「魔器も霊器も、戦うためのものだ」
「…………」
「じゃあ、それらがなかった時代はどうしたと思う?」
「……え?」
「拳を使った。足を使った」
エルネが。
《翠角》で地面に転がる小石を指す。
「木を削った。石を割った」
「…………」
「それらを組み合わせて、武器まで作った」
エルネが僅かに笑う。
「すごい発想だろ?」
「…………」
「なんで」
一歩。
「そこまでしたと思う?」
「……⁉︎」
なんで。
武器がなければ作る。
なぜ。
そこまでして――。
「――遅いよ」
「え?」
気づいた時には。
《翠角》の切っ先が目の前にあった。
「もっと本能的にならなきゃ」
「――っ!」
ズバッ‼︎
「え……」
一瞬。
何をされたのか分からなかった。
遅れて。
両脚から血が噴き出す。
「うっ……!」
膝が崩れた。
両方の太腿を。
深く斬られていた。
「ぐ……ぁ……!」
倒れかける。
その時にはもう。
エルネの姿は目の前から消えていた。
(どこ――)
「……ごめんね」
後ろ。
「――⁉︎」
「これ以上は――」
ゴッ――‼︎
後頭部へ。
《翠角》の柄頭が叩き込まれた。
「……ぁ……」
視界が暗くなる。
「君のためにならない」
その声を最後に。
ユノの意識は途切れた。
◇ ◇ ◇
「…………」
エルネは。
倒れたユノをしばらく見下ろしていた。
やがて。
《翠角》を納める。
それからユノの傍らへ膝をつき。
深く斬った両太腿へ。
手早く包帯を巻いていく。
「…………」
傷口を圧迫し。
血が止まり始めたのを確認する。
「……よし」
立ち上がり。
気を失ったユノの身体を引き寄せる。
そして。
そのまま引きずりながら。
フーガ達のいる方角へと歩き始めた。
「……もう少しだったんだけどな」
誰に聞かせるでもなく。
エルネはそう呟いた。




