龍憑
「お、俺……」
フーガの変化に。
思わず一歩下がる。
「やっぱり精霊に嫌われてて……」
「…………」
「だから、術も――」
「分かった上で飛び出したんやろ」
「……え?」
フーガの声が。
低い。
「自分が精霊に嫌われとるんも」
「…………」
「普通の精霊術師みたいにはいかんのも」
ゆっくりと。
俺へ近づいてくる。
「分かった上で、ここを出てったんやろ?」
「それは……」
「それで二年経って」
足が止まる。
「使えませんって言うんは……」
小さな丸眼鏡の奥。
目が。
完全に笑っていない。
「ふざけてんの?」
「ふざけ――」
ビュンッ‼︎
「――⁉︎」
拳。
顔面すれすれを。
フーガの拳が通り抜けた。
「うぉっ!」
咄嗟に。
首を傾けて避ける。
頬を。
拳が巻き起こした風が叩いた。
「…………」
フーガが。
振り抜いた拳をゆっくりと下ろす。
「お前――」
冷たい声。
「さっさと死ねや」
「…………」
冗談じゃない。
さっきまでの。
兄弟喧嘩でもない。
本気だ。
「はぁ……」
フーガが。
面倒くさそうに息を吐く。
「丸腰相手に使うんは気ぃ引けるけど……」
手を伸ばす。
「時短や。時短」
「……!」
「いくで」
その手に。
大きく湾曲した刃。
「――《龍憑》」
(まずい……!)
俺は。
腰を落とした。
目を離すな。
動きを――。
「ま、お疲れ」
「――⁉︎」
声が。
横から聞こえた。
(え――)
正面にいたはずの。
フーガが。
すぐ横にいる。
そして。
《龍憑》が。
俺の首へ振り下ろされていた。
「うぉぉぉぉ⁉︎」
考えるより先に。
しゃがみ込む。
ブォンッ‼︎
刃が。
頭上を通り過ぎた。
「避けんなや」
「避けるだろ普通!」
地面を蹴る。
「くそぉぉ!」
一気に。
距離を取る。
「こっちやで?」
「――⁉︎」
また。
声。
(後ろ――)
「ぐはっ‼︎」
振り向くより先に。
脇腹を蹴り抜かれた。
身体が。
横へ吹き飛ぶ。
「ぐっ……わ!」
なんとか。
石畳へ足をつく。
だが。
「遅いで」
「――!」
フーガが。
俺へ飛び込んでくる。
跳び上がりながら。
身体を横へ捻った。
その回転に乗せて。
踵が。
俺の胸へ突き刺さる。
ドゴッ‼︎
「ぐぅっ!」
身体が。
再び後ろへ弾かれた。
「かっかっか!」
フーガが。
軽やかに着地する。
「蹴り甲斐があるなぁ!」
「ぐっ……!」
踏ん張る。
倒れるな。
まだ――。
「でも」
「――!」
フーガの姿が。
視界から消える。
「終いや」
ズバッ――‼︎
「いぎっ……!」
熱い。
胸から。
斜めに。
焼けるような痛みが走った。
《龍憑》の刃が。
俺の胸を袈裟に斬り裂いていた。
「ぐ……ぅ……!」
斬られる瞬間。
咄嗟に後ろへ下がった。
そのおかげで。
刃は深くまでは入っていない。
けど。
胸元から。
血が滲み出してくる。
「はぁ……はぁ……」
速い。
いや。
(なんだ……?)
ただ速いだけじゃない。
正面にいたと思った瞬間には。
もう横にいる。
距離を取ったと思えば。
後ろから蹴られる。
(こいつ……)
昔から。
フーガは速かった。
でも――。
(こんなだったか……?)




