精霊術師になりに行ったんやろ?
(《砕》は無い……)
拳を構えながら。
周囲へ視線を走らせる。
(武器になりそうなものも……)
無い。
なら。
(エーテル!)
心の中で呼びかける。
だが。
返事はない。
(……は、どこにいるのかも分からない)
「…………」
だったら。
今の俺に。
できることは一つ。
(なら、やることは――)
ダンッ‼︎
「殴るのみ‼︎」
「ひゅー!」
フーガが。
楽しそうに口笛を吹いた。
「来いや!」
「おおおっ!」
踏み込む。
拳を。
フーガの顔面へ突き出した。
ブォンッ‼︎
拳が。
空気を裂く。
だが。
当たらない。
フーガは軽くステップを踏み。
身体を半身にする。
さらに。
上体を反らした。
拳が。
鼻先すれすれを通過する。
ビュォッ‼︎
風を切る音。
「痛そうやなぁ!」
「――⁉︎」
反った姿勢から。
フーガの脚が跳ね上がる。
半身から放たれた横蹴り。
狙いは。
俺の首。
「くっ!」
咄嗟に腕を上げる。
ドッ‼︎
「ぐっ……!」
重い。
腕が痺れる。
でも――。
「捕まえた!」
「あ?」
蹴りを受けた腕をそのまま絡め。
フーガの脚を掴む。
「――《砕円》!」
「お? おぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
身体を回す。
掴んだ脚ごと。
フーガの身体を巻き込んで。
大きな円を描く。
一周。
さらに。
勢いを乗せ――。
「――《砕落》!」
持ち上げた身体を。
石畳へ叩きつける。
その瞬間。
「――!」
フーガが。
空中で身体を捻った。
地面へ激突する寸前。
両手を。
石畳へ着く。
ぐっと。
両腕が沈み込んだ。
次の瞬間。
バンッ‼︎
曲げた腕が。
一気に伸びる。
矢のように。
両脚が俺の腹へ飛んできた。
「いただき!」
「――ッ!」
だが。
「……あ?」
直撃する寸前。
俺は。
身体を回した。
「――《砕流》」
迫る脚へ。
手を添える。
受け止めない。
その力を。
流す。
「お?」
蹴りの勢いを殺さず。
そのまま身体を回転させる。
そして。
石畳についていた。
フーガの腕を。
足で払った。
「おっ⁉︎」
支えを失う。
フーガの身体が。
一瞬。
宙へ浮いた。
無防備。
「――《砕震》!」
踵を。
高く振り上げる。
そして。
フーガの腹部へ。
一気に振り下ろした。
ズガァァァァンッ‼︎
石畳が。
大きく揺れる。
亀裂。
土埃。
砕けた石片が。
周囲へ飛び散った。
「はぁ……!」
俺は。
すぐに後ろへ跳ぶ。
距離を取る。
「はぁ……はぁ……」
拳を構えたまま。
土埃の向こうを睨む。
「…………」
やがて。
その中に。
人影が浮かび上がった。
「……ふーん」
「――⁉︎」
フーガが。
何事もなかったように立っていた。
「で?」
服についた埃を。
軽く払う。
「これがお前の二年?」
「……無傷かよ」
思わず。
顔が引きつる。
「ちきしょー……」
「まぁ」
フーガが。
首を左右へ傾ける。
「確かに前よりかはマシやな」
「…………」
「元々の力なんかは、俺より上やろうしな」
腕を組み。
俺を眺める。
「うーん……」
何かを探すように。
首を捻った。
「なんやろなぁ」
「…………」
「期待外れっちゅうか……」
「なっ……!」
「あぁ!」
突然。
フーガが手を叩いた。
「術や! 術!」
「…………」
「お前、精霊術師になりに行ったんやろ?」
「……!」
「術はどうした?」
フーガが。
両腕を広げる。
「撃ってこい!」
そして。
自分の腹を指差した。
「ほら! ここに!」
「……くっ」
「…………?」
俺は。
動けない。
撃てと言われても。
俺には――。
「どした?」
フーガが。
首を傾げる。
「…………」
「まさか――」
その声から。
少しずつ。
軽さが消えていく。
「使えないんか?」
「…………」
フーガの顔から。
笑みが消えた。
ぞくり。
背筋が粟立つ。
さっきまでとは。
まるで違う。
空気そのものが。
重くなったような。
凄まじい殺気。
「…………」
小さな丸眼鏡の奥。
その目だけが。
冷たく。
俺を見ていた。




