不死隊 第一席
「……つ……ぐっ……」
砕けた木箱の中で。
ログがゆっくりと上体を起こした。
「うっ――⁉︎」
次の瞬間。
首を掴まれる。
そのまま。
身体が宙へ持ち上げられた。
「ぐっ……!」
目の前には。
無表情のゴートー。
「……お前は」
ログを片手で吊り上げたまま。
静かに口を開く。
「力の使い方がなっていない」
「な……ん……」
「力は点で使うものではない」
短く。
「……線で使え」
「ぐっ……!」
ログが。
首を掴むゴートーの手首へ。
両手を伸ばした。
そして。
掴む。
「…………⁉︎」
ゴートーの眉が。
僅かに動いた。
手首に。
違和感。
ログが掴んだその手には。
淡い茶色の光が漂っている。
「……《脆化》」
僅かに。
痛む。
その程度だった。
だが。
ゴートーの目が細くなる。
無力だと思っていた男に。
痛みを与えられた。
それが。
少しだけ気に食わなかった。
ドゴォンッ‼︎
「がっ――!」
ログの身体が。
地面へ叩きつけられる。
そして。
再び持ち上げられ。
ゴガァンッ‼︎
「ぐぁっ‼︎」
二度目。
地面が砕ける。
ログの顔は。
血と土にまみれていた。
「…………」
それでも。
ログの腕が。
ゆっくりと上がる。
朦朧とする意識の中。
人差し指を。
ちょい。
ちょい。
と動かした。
「ま……だ……」
口元だけが。
僅かに笑う。
「こ……いよ……」
「…………」
ゴガァァンッ‼︎
三度目。
ログの身体が。
地面へ叩きつけられた。
「…………」
もう。
動かない。
ゴートーは。
しばらくログを見下ろした。
そして。
意識がないことを確認すると。
その身体を担ぎ上げる。
《犀嶽》を手に。
元来た道へと歩き始めた。
「…………」
ふと。
足を止める。
近くに見える。
王城。
ゴートーは。
しばらくそれを見上げていた。
「……仲間か」
先ほどの。
ログの言葉が蘇る。
『アルトは俺達の仲間なんだよ!』
「…………」
ゴートーが。
僅かに目を伏せる。
「……俺にも」
ぽつり。
「いたのだろうか」
そして。
「……アルト」
一度。
言葉が止まる。
「……あとは――」
「…………」
その先を。
口にすることはなかった。
ゴートーは。
ログを担いだまま。
再び歩き出した。
◇ ◇ ◇
王都エルディア。
王国祭の余韻が残る。
石畳の大通り。
「兄弟喧嘩しよか? アルト」
「…………」
俺は。
ゆっくりと立ち上がった。
けど。
フーガには向かわない。
少し離れた石畳の上。
そこに転がる。
グウェンの首へと近づいた。
「…………」
しゃがみ込み。
両手で。
そっと持ち上げる。
「グウェン……」
閉じられた目。
もう。
何も答えてくれない。
「ごめんな……」
胸の奥が。
ぎゅっと締めつけられる。
「痛かったよな?」
「…………」
背後から。
フーガの視線を感じる。
「……何してんねん」
答えず。
グウェンの首を抱えたまま。
石畳から外れ。
土のある場所へと歩いていく。
「今は……こんなところでしか供養してあげられないけど……」
せめて。
ちゃんと――。
「ちゃん――」
ブンッ‼︎
「――ぐぅふっ⁉︎」
顔面に。
後ろから回し蹴りが飛んできた。
身体が吹き飛ぶ。
石畳の上を転がる。
それでも。
グウェンの首だけは。
離さなかった。
「俺を無視して」
フーガが。
ゆっくりと足を下ろす。
「そんなもんに気ぃ取られとるんか?」
「…………」
「お?」
口元を歪める。
「喧嘩売って――」
「そんなもんじゃねぇだろ!」
「…………」
俺は。
グウェンの首を抱えたまま。
フーガを睨みつけた。
「恩人の首なんだ!」
声が。
勝手に大きくなる。
「俺達の恩人の!」
「あ?」
フーガが。
首を傾げた。
「死んだだけやろ?」
「…………」
その言葉を聞いた瞬間。
頭の中に。
一人の男が浮かんだ。
セブラン。
あいつも。
死んだ。
間違えて。
苦しんで。
最後には。
何も言えなくなった。
「簡単に死んじゃ……」
グウェンを抱く手に。
力が入る。
「簡単に殺しちゃダメなんだよ……!」
「…………」
「苦しむんだよ……」
死ぬ奴だけじゃない。
「悲しむ人もいるんだよ……」
「…………」
フーガが。
一瞬だけ黙る。
そして。
「はっはっは!」
笑った。
「意味分からんわ」
「…………」
「だいたい俺ら――」
ダンッ‼︎
「――!」
俺は。
石畳を蹴った。
拳を。
フーガの顔面へ振り抜く。
スッ――。
僅かに。
首を傾けられた。
拳が。
頬すれすれを通り過ぎる。
「…………」
俺は。
そのままフーガを睨む。
「……来いよ、フーガ」
「あ?」
拳を。
強く握る。
「お前に――」
ここを出てから。
俺が見てきたもの。
出会った奴ら。
知ったこと。
昔の俺が。
知らなかったこと。
「俺が何を見てきたか――」
構える。
「身体で教えてやる!」
「…………」
フーガの口元が。
ゆっくりと吊り上がった。
「……はっ!」
《龍憑》を。
肩へ担ぐ。
「ええやん……」
さっきまでとは。
空気が変わった。
「不死隊――第一席」
小さな丸眼鏡の奥から。
俺を真っ直ぐに見据える。
「《逆鱗》――フーガ」
そして。
楽しそうに笑った。
「後悔すんなよ?」
《龍憑》の切っ先が。
俺へ向く。
「――アルト」




