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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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赤獅子


「はっ!」


 ガオンが鼻で笑う。


「また何を言ってるか分からん!」


「……チッ」


 バルドが。


 露骨に舌打ちした。


「なら――これならどうだ!」


 ガオンが地面を蹴る。


 両手の《灼獅》に。


 赤熱した光が灯った。


「――《焦連爪》!」


 五指を。


 爪のように振り抜く。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 熱を帯びた爪撃が。


 途切れることなくバルドへ襲いかかる。


 そして。


 打ち込む度に。


 その速度が増していく。


「だから……」


 バルドが。


 《蜂穿》を握り直す。


「無駄が多いんだよ!」


 ブンッ‼︎


 横薙ぎ。


 長い《蜂穿》が。


 迫る爪撃ごとガオンを薙ぎ払う。


「チッ……!」


 ガオンが。


 咄嗟に後ろへ跳んだ。


 槍の穂先が。


 胸元すれすれを通り抜ける。


(親父との戦いで、長物との戦いには慣れたはずだが……)


 ガオンが。


 《蜂穿》を睨む。


(なんだ?)


 スカーの《灼王牙》。


 あれも。


 長い間合いを持つ霊器だった。


 何度も。


 その間合いへ飛び込み。


 拳を届かせてきた。


 だが。


(槍の長さか?)


 違う。


 それだけじゃない。


(確実に親父よりも遠い……)


「確かに」


 バルドが。


 《蜂穿》を構え直す。


「速さも威力もいい」


「…………」


「それに霊器の能力か?」


 ぼそぼそと。


 相変わらず聞き取りづらい声。


「連撃を加えるほど、速く、鋭くなってる」


 ガオンの目が。


 僅かに細くなる。


「厄介だが――」


 バルドが。


 穂先を下げた。


「それだけだ」


「…………」


(何言ってるか、本当に分かんねぇな)


「確実に当てなきゃ意味がねぇ」


「あ?」


「右腿」


「……⁉︎」


 トンッ。


「――ッ!」


 突然。


 ガオンの右腿に。


 鋭い痛みが走った。


「貴様……!」


「右肩」


 トッ。


「左脇腹」


 トンッ。


「右胸」


 トッ。


「左腕」


 トンッ。


「がっ……!」


 ガオンの身体が。


 小刻みに揺れる。


「貴様……ふざけてるのか……」


「あぁ」


 バルドが。


 《蜂穿》を片手で弄ぶ。


「あまりにも弱いからな」


「…………」


 だが。


 ガオンの身体に。


 出血はない。


 バルドが打ち込んでいたのは。


 鋭い穂先ではなく。


 反対側。


 《蜂穿》の石突だった。


「…………」


 ゆらり。


 ガオンの周囲で。


 空気が歪む。


 肌から立ち昇る熱が。


 さらに強くなっていく。


「いいだろう」


 ガオンが。


 ゆっくりと拳を握った。


「少し上げていくぞ?」


 ドクンッ――。


「――《赤獅子》」


 熱。


 ガオンの身体が。


 内側から赤く染まっていく。


 肌が赤熱し。


 足元の空気まで。


 大きく揺らいだ。


「行くぞ!」


 ドンッ‼︎


 地面が爆ぜる。


「――《獅子奮迅》!」


 拳。


 肘。


 膝。


 蹴り。


 肩。


 身体のあらゆる部位を使った連撃が。


 バルドへ襲いかかる。


 一撃を躱しても。


 次。


 それを避けても。


 さらに次。


 止まらない。


 熱を纏った連撃が。


 凄まじい速度で繋がっていく。


「……はぁ」


 その最中。


 バルドが。


 溜息を吐いた。


「舐めてるのか?」


「――⁉︎」


「右足の甲」


 トンッ。


「ぐっ!」


 《蜂穿》の石突が。


 ガオンの右足の甲を正確に突いた。


「なっ――」


 踏み込みが。


 僅かに崩れる。


 連撃が止まった。


(あの連撃の中――)


 ガオンの目が見開かれる。


(たった一点に……狂いもなく当てるだと……⁉︎)


「右肩」


 トッ!


「左肩」


 トンッ!


「右胸」


 ドッ!


「左胸」


 ドンッ!


「鳩尾」


「ぐっ――!」


「右腿」


 トッ!


「左腿」


 トンッ!


「眉間」


 ゴッ‼︎


「ぐわぁぁぁぁぁぁッ‼︎」


 身体が。


 右へ。


 左へ。


 前へ。


 後ろへ。


 バルドが告げた場所へ。


 一つの狂いもなく。


 石突が打ち込まれていく。


 速いわけじゃない。


 手数が多いわけでもない。


 ただ。


 必要な場所へ。


 必要な瞬間に。


 一本の槍が。


 そこにある。


「……喉」


「――がっ!」


 最後。


 石突が。


 ガオンの喉元へ突き込まれた。


「か……っ……」


 声が出ない。


 膝から。


 力が抜ける。


 ガクンッ。


 そのまま。


 ガオンの身体が地面へ崩れ落ちた。


「…………」


 バルドが。


 倒れたガオンを見下ろす。


 《蜂穿》を肩へ担ぎ。


 しばらく待つ。


「……気絶したか」

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