興醒め
「どうした! どうした!」
ゲンザの猛攻は。
止まらない。
右。
左。
上。
下。
二本の《虎鉄》が。
絶え間なくヒルトへ襲いかかる。
「避けてるだけじゃ、俺っちは止まらねぇぜ!」
「くっ!」
右の《虎鉄》を。
身体を逸らして躱す。
続く左。
ヒルトは半歩下がり――。
「ッ!」
咄嗟に。
前蹴りを放った。
「うおっ!」
ドンッ‼︎
ゲンザの腹へ。
ヒルトの靴底が突き刺さる。
僅かに。
ゲンザの身体が後ろへ押された。
「ガッハハハ!」
腹を蹴られたというのに。
ゲンザは嬉しそうに笑う。
「もやしにしてはいい蹴りだ!」
「そりゃどうも!」
その隙に。
ヒルトが大きく後ろへ跳ぶ。
一歩。
二歩。
一気に距離を取った。
「はぁ……はぁ……」
二丁の《ツインコード》を構え直す。
(《蜘蛛檻》と《乱星》はダメだった)
拘束も。
手数も。
あの二本の《虎鉄》に。
力ずくで突破された。
(ここは――)
ヒルトの目が細くなる。
(一点で威力の高いのを……)
「ただ――」
「――!」
声。
近い。
「攻撃の度に止まっちまうのは――」
ゲンザが。
もう。
目の前にいた。
「いただけねぇな?」
「――ッ!」
ドゴッ‼︎
「がふっ!」
《虎鉄》が。
ヒルトの腹部へ叩き込まれた。
身体が。
くの字に折れる。
「ぐっ――」
だが。
それだけでは終わらない。
もう一本。
左肩目掛け。
振り下ろされる。
ドガッ‼︎
「ぐわぁぁあっ‼︎」
石畳へ。
ヒルトの身体が叩きつけられた。
「ぐ……ぅ……」
腹を押さえ。
蹲るヒルト。
その傍らに。
ゲンザが立つ。
二本の《虎鉄》を肩へ乗せ。
倒れたヒルトを見下ろした。
「お前さ」
「……ぐぅ……」
「いちいち考えてんのか?」
「…………」
ゲンザが。
呆れたように眉を下げる。
「テンポ悪りぃなぁ」
「ぐ……ぅぅ……」
「攻撃する前から考えても、手が止まるだけだろ?」
「…………ッ」
「攻撃してから考えりゃいいのに」
「そんな……」
ヒルトが。
痛みに顔を歪めながら。
ゲンザを睨む。
「ぐッ……そんなの……」
息を整え。
吐き捨てる。
「当たるわけ……ないだろ……」
「ん?」
ゲンザが。
きょとんとする。
そして。
「今だって当たってねぇよ?」
「…………」
ヒルトが。
一瞬。
黙った。
「……はは」
口元から。
小さく息が漏れる。
「……確かに」
「お!」
ゲンザの顔が。
ぱっと明るくなった。
「笑う余裕出てきたか!」
ガチッ。
ガチッ。
二本の《虎鉄》を。
楽しそうに打ち合わせる。
「そんじゃ――」
ニッと。
大きく笑った。
「もう一丁いこうか!」
「…………クソ」
ヒルトが。
ふらつきながら立ち上がる。
腹が痛む。
左肩も。
まともに上がらない。
「…………」
ゲンザを。
一度だけ見る。
そして――。
ダッ!
「あ?」
突然。
ヒルトが駆け出した。
ゲンザから。
背を向けて。
「おい!」
返事はない。
「逃げんのか⁉︎」
「…………」
ヒルトは。
そのまま市場通りを駆け抜ける。
半壊した屋台の裏へ。
姿が消えた。
「…………?」
ゲンザが。
首を傾げる。
ヒルトは出てこない。
少し離れた物陰から。
さらに別の物陰へ。
ゲンザの視界を切りながら。
移動していく。
「…………」
ガチッ。
ゲンザが。
《虎鉄》を打ち合わせる。
だが。
先ほどまでの。
豪快な笑い声はなかった。
「……んだよ」
ぼそり。
吐き捨てる。
「アルトのダチだから、楽しみにしてたのによ……」
市場通りを見渡す。
半壊した屋台。
積まれた木箱。
樽。
垂れ下がった祭りの布。
そのどこにも。
ヒルトの姿は見えない。
「興醒めだ」
その顔に。
もう。
笑みはなかった。




