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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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不死隊第五席

「良い子ちゃんぶってんなよ」


「…………」


 ドーマは。


 肩を竦めるようにして笑った。


「テメェは軍人。俺は傭兵」


 二振りの《化双》を下げたまま。


 ゆっくりと歩き出す。


「戦地に立ちゃ、やることは一つ」


 その目が。


 細くなる。


「――敵をぶっ殺すことだ」


「…………」


 レテは答えない。


「戦い方一つでもそうだ」


 ドーマの視線が。


 《水凪》へ落ちる。


「正直すぎる」


「…………」


「形が変わる刀なら、もっと遊べばいい」


 ニィッ。


 口角が上がった。


「まぁ、今のは悪くなかったがな」


「……そうですか」


「あぁ」


 ドーマが笑う。


「今も」


「――⁉︎」


 ダンッ‼︎


 突然。


 ドーマが駆け出した。


 長い《化双》を。


 大きく横へ振りかぶる。


「喋ってる間に殺しに来い!」


「くっ……!」


 レテは。


 咄嗟に《水凪》を正眼に構えた。


 迫るドーマ。


 横薙ぎ。


 その軌道を見極めようと。


 手元へ視線を向け――。


「…………?」


 違和感。


 長い《化双》。


 それだけ。


 もう片方の手には。


 何も握られていない。


「……一本だけ?」


 その瞬間。


 ドーマが急停止した。


「――!」


 くるりと。


 レテへ背を向ける。


 そのまま地面を蹴り。


 身体を後方へ倒しながら。


 宙へ跳んだ。


「何を……!」


 ドーマの右足が。


 頭上へ向かって。


 勢いよく振り上げられる。


 その先で。


 地面すれすれに。


 何かが煌めいた。


「――ッ!」


 短い《化双》。


 いつの間にか。


 手放していたそれを――。


 ガキィンッ‼︎


 ドーマの足が。


 蹴り上げた。


「――⁉︎」


 短剣が。


 激しく回転しながら。


 レテ目掛けて飛ぶ。


 気づいた時には。


 もう。


 目の前。


「くっ――!」


 ザクッ――!


「ッ……!」


 右肩に。


 熱が走った。


 身体が。


 僅かに後ろへ揺れる。


「ぐっ……!」


 レテが。


 自分の肩を見る。


 短い《化双》が。


 深々と突き刺さっていた。


「…………ッ」


 ドーマは。


 地面へ手をつく寸前で身体を捻り。


 そのまま。


 軽々と着地する。


 そして。


 痛みに顔を歪めるレテを見て。


 ニヤリと笑った。


「ざ〜こ」


「…………ッ!」


     ◇ ◇ ◇


 王都エルディア。


 王国祭の余韻が残る市場通り。


 つい先ほどまで。


 多くの人々で賑わっていた通りには。


 今は。


 ほとんど人の姿がない。


 倒れた椅子。


 置き去りにされた樽。


 片付け途中の屋台。


 地面には。


 踏み潰された祭りの飾りが散らばっている。


 頭上では。


 色鮮やかな布が。


 風に煽られ揺れていた。


「よぉし!」


 通りの中央で。


 ゲンザが足を止める。


「ここらでいいだろ!」


「……随分走らせてくれたね」


 少し遅れて。


 ヒルトも足を止めた。


「ガッハハハ!」


 ゲンザが。


 豪快に笑う。


「悪かったな!」


「全然悪いと思ってないだろ」


「おう!」


「認めるんだ……」


 ヒルトが。


 呆れたように息を吐く。


 そして。


 ちらりと。


 自分たちが走ってきた方向を見る。


 フィリア。


 アルト。


 レテ。


 みんな。


 今頃――。


「おい」


「……!」


 ヒルトが。


 すぐに視線を戻す。


「よそ見してる暇あんのか?」


「…………」


「戦う相手は俺だぞ」


「……そうだったね」


 ゲンザは。


 そんなヒルトを。


 上から下まで眺めた。


「…………」


「……何?」


「お前」


「うん」


「細ぇな!」


「…………」


 ヒルトの眉が。


 ぴくりと動く。


「ちゃんと飯食ってんのか⁉︎」


「余計なお世話だよ!」


「ガッハハハハ!」


「何なんだよ、もう……」


「肉食え! 肉!」


「敵に食生活の心配されるとは思わなかったよ……」


「ガッハハハ!」


 市場通りに。


 大きな笑い声が響く。


「…………」


 ヒルトは。


 目の前の男を見つめた。


 妙な男だ。


 アルトを殺す。


 邪魔をするなら。


 自分たちも殺す。


 そう言っていた。


 それなのに。


 目の前の男からは。


 妙なほど陰湿さを感じない。


「……一つ聞いていい?」


「おう!」


「本当にアルトを殺すつもり?」


「おう!」


「…………」


 即答。


「……少しくらい考えてよ」


「なんでだ!」


「いや……もういいよ」


「ガッハハハ!」


 再び。


 ゲンザが笑う。


 だが。


 その笑い声が。


 ふっと止まった。


「…………」


 空気が変わる。


 両手に握られた。


 二本の短棍。


 《虎鉄》。


「まぁ――」


 ゲンザが。


 一歩前へ出る。


「ここまで来たんだ」


 二本の《虎鉄》を。


 胸の前で打ち合わせた。


 ガァン‼︎


 重い音が。


 市場通りへ響く。


「名乗っとくか!」


「…………」


 ゲンザが。


 胸を張る。


「不死隊――第五席!」


 そして。


 二本の《虎鉄》を構えた。


「《虎嘯(こしょう)》ゲンザ!」


「……律儀だね」


「戦う相手の名前くらい知っときてぇだろ!」


「……そっか」


 ヒルトが。


 小さく息を吐く。


 両手を開いた。


 淡い光が。


 左右の掌へ集まる。


 光が形を成し。


 二丁の拳銃へと変わっていく。


 霊器。


 《ツインコード》。


 ヒルトは。


 二つの銃口を。


 真っ直ぐゲンザへ向けた。


「精霊国家ガイスト」


 一拍。


「アーヴェル隊所属――ヒルト・エルナー」


「ガッハハハ!」


 ゲンザの口元が。


 大きく吊り上がった。


「いいねぇ!」


 《虎鉄》を構えるゲンザ。


 《ツインコード》を向けるヒルト。


 二人の間を。


 祭りの飾り布が。


 風に吹かれて舞っていった。

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