↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

600/672

誰一人殺させません


(避けられない……!)


 長剣に意識を向けすぎた。


 大きく振りかぶった動きも。


 わざと晒した隙も。


 全て。


 この一撃を通すためのもの。


 気づいた時には。


 もう遅い。


 そう思った。


 ――その瞬間。


 ピタッ――。


「……あ?」


 刃が。


 止まった。


 レテの身体まで。


 あと僅か。


 ドーマの腕に。


 細い水の帯が絡みついていた。


「なんだ、こりゃ……!」


「――っ!」


 誰の仕業か。


 考える必要などない。


 レテは即座に。


 《水凪》を振るった。


「チッ!」


 ドーマが。


 絡みついた水を振り払いながら。


 大きく後ろへ飛び退く。


 ザザッ――!


 靴底を地面へ擦りつけ。


 距離を取った。


「…………」


 レテは追わず。


 自分の傍らへ視線を向ける。


「……ありがとうございます」


 淡い光の中。


 一匹の魚型の精霊が。


 宙を泳いでいた。


「ディーネ」


 ディーネは。


 応えるように。


 大きな尾鰭を。


 ゆらりと揺らめかせる。


 その姿を見て。


 レテの表情が。


 ほんの僅かに緩んだ。


「…………」


 一方。


 ドーマは。


 腕に残った水滴を見つめていた。


 次いで。


 ディーネへ視線を移す。


「へぇ……」


 その目が。


 僅かに細くなる。


「精霊が術を……」


 先ほどまでの苛立ちとは違う。


 何かを確かめるような目。


 だが。


 レテは気に留めない。


「――行きます!」


 地面を蹴る。


 《水凪》を構え。


 真っ直ぐ。


 ドーマへ駆ける。


「《水刃》!」


 横薙ぎ。


 振るわれた刃から。


 水が鋭く伸びる。


 ヒュンッ‼︎


 水の刃が。


 地面すれすれを走り。


 ドーマへ向かって飛んだ。


「はっ!」


 ドーマも。


 避けるどころか。


 レテへ向かって駆け出す。


「……!」


 互いの距離が。


 一気に縮まっていく。


 水の刃が。


 ドーマの胸元へ迫る。


 このまま進めば。


 直撃する。


 それでも。


 ドーマは止まらない。


「――あらよっと!」


「――⁉︎」


 ダンッ!


 地面を強く蹴り。


 前へ跳ぶ。


 さらに。


 空中で。


 身体を大きく捻った。


 ブォンッ――!


 水の刃が。


 その背中すれすれを通り過ぎる。


「……っ!」


 小太りな体型。


 酒臭く。


 立ち姿も。


 どこかだらしない。


 そんな見た目からは。


 到底想像できない。


 軽やかな動き。


 だが。


 レテの目は。


 その動きを冷静に追っていた。


(大きな動き……!)


 先ほどもそうだった。


 大きく振りかぶり。


 隙を晒す。


 そこから。


 予想とは違う攻撃へ繋げてきた。


(また何か……)


 一瞬。


 警戒する。


 だが。


 ドーマは今。


 空中にいる。


 いくら動きを変えられようと。


 地面に足を着けなければ。


 次の動作には移れない。


(なら――)


 狙うのは。


 一つ。


(着地の瞬間!)


 レテが。


 《水凪》を握り直す。


 ドーマの身体が。


 地面へ落ちてくる。


 足が着く。


 その寸前。


「――そこです!」


 踏み込んだ。


 狙うのは。


 着地直後。


 体勢を立て直す。


 僅かな時間。


 《水凪》を。


 全力で振るう。


 ギィィィン‼︎


「なっ……!」


 甲高い音が。


 路地へ響き渡った。


 レテの目が。


 大きく見開かれる。


 止められた。


 《水凪》を受け止めたのは。


 《化双》の長剣。


 だが。


 問題は。


 そこではない。


「なにを……⁉︎」


 ドーマの足は。


 地面に着いていなかった。


 《化双》の長剣。


 その切っ先だけが。


 地面へ突き刺さっている。


 ドーマは。


 長剣の鍔を。


 両足で挟み込むようにしていた。


 剣一本を支えに。


 宙へ身体を浮かせたまま。


 レテの《水凪》を。


 長剣で受け止めている。


「そんな体勢で……!」


「…………」


 ぐらり。


 身体が揺れる。


 今にも。


 崩れそうな姿勢。


 それなのに。


 ドーマの顔には。


 焦りなどない。


 むしろ。


「…………へへ」


 にぃぃぃぃ――。


 口角が。


 気味が悪いほど吊り上がっていく。


「――っ!」


 レテが。


 嫌な予感を覚えた。


 遅かった。


 長剣は。


 《水凪》を受け止めている。


 両足は。


 その長剣を支えている。


 だが。


 もう片方の手は。


 何もしていない。


 そこには。


 《化双》の短剣。


「――死ね」


 ドーマの身体が。


 長剣を軸に。


 ぐるりと回った。


 短剣が。


 レテの首筋へ迫る。


「――っ!」


 避けられない。


 再び。


 そう思った瞬間。


 バシャッ‼︎


「――がっ⁉︎」


 水が。


 ドーマの横顔へ直撃した。


 続けて。


 バシャッ!


 バシャバシャッ‼︎


「ぐっ……! がっ!」


 肩。


 腹。


 背中。


 いくつもの水の礫が。


 立て続けに叩きつけられる。


「ぐぉっ!」


 ついに。


 長剣から足が離れ。


 ドーマの身体が地面へ転がった。


「ディーネ!」


 レテが振り返る。


 ディーネの周囲には。


 いくつもの水の礫が。


 ふわりと浮かんでいた。


 大きな尾鰭が。


 再び揺れる。


 バシュッ!


「チィッ!」


 ドーマが。


 頭を下げて避ける。


 地面へ刺していた長剣を引き抜き。


 すぐさま立ち上がった。


「この……!」


 ディーネを睨みつける。


「さっきからチョロチョロと……!」


 苛立ちに任せ。


 《化双》を振りかぶった。


「クソ精霊がぁ‼︎」


 ブォンッ‼︎


 長剣が。


 ディーネを真っ二つに――。


 することはなく。


 ヒュンッ――。


 淡い光を纏う身体を。


 何の抵抗もなく。


 すり抜けた。


「……あ?」


 ドーマの動きが。


 止まる。


「…………」


 もう一度。


 ディーネを見る。


 ディーネも。


 じっと。


 ドーマを見ている。


「…………」


 数秒。


 奇妙な沈黙。


 そして。


「……ぐっ」


 ドーマの肩が。


 小さく震えた。


「ぐっ……ぐっはっはっはっは‼︎」


「……?」


 突然。


 腹を抱えて笑い始める。


「何がおかしいんですか……」


「ぐっはっは! いや……!」


 目尻を拭いながら。


 ドーマが。


 ディーネを指差した。


「なんだよ……」


 笑い声が。


 徐々に収まっていく。


「精霊が出てきたからよぉ……」


 口元には。


 まだ笑みが残っている。


 だが。


 目だけは。


 もう笑っていなかった。


「少しくらい期待したじゃねぇか」


「……?」


「なのに――」


 ディーネへ。


 長剣の切っ先を向ける。


「《顕霊》もできねぇのかよ」


「…………」


 レテの眉が。


 僅かに動く。


「半端もんじゃねぇか」


「……《顕霊》?」


「あ?」


 今度こそ。


 ドーマの笑みが。


 完全に消えた。


「…………」


 レテを見る。


 ディーネを見る。


 もう一度。


 レテを見る。


「テメェ……」


「……?」


「《顕霊》も知らねぇのか?」


「…………」


 レテは答えない。


 知らない言葉だった。


 だが。


 目の前の男が。


 何かを知っている。


 それだけは分かる。


「……チッ」


 ドーマが。


 露骨に舌打ちした。


「なんだよ……」


 《化双》を握る手に。


 力が入る。


「マジで半端もんじゃねぇか……」


「…………」


「舐めやがって……」


 低い声。


 先ほどまでとは。


 明らかに違う。


 ただ苛立っているだけではない。


 何か。


 もっと別の感情が。


 その言葉には混じっていた。


「そんな雑魚が……」


 長剣の切っ先が。


 レテへ向けられる。


「アルトのガキを守るみてぇなこと――」


 ドーマが。


 歯を剥き出しにする。


「ほざきやがって……!」


「…………」


 レテは。


 静かに《水凪》を構え直した。


 その隣へ。


 ディーネが寄り添う。


「……雑魚かどうかは」


「あぁ?」


「貴方が決めることではありません」


「…………」


「それに」


 レテの足元へ。


 水が集まっていく。


「私は」


 ドーマを。


 真っ直ぐ見据える。


「アルト君を守るために強くなったわけではありません」


「……なに?」


「仲間と共に」


 《水凪》を握る。


「戦うために強くなったんです」


 そして。


 その切っ先を。


 再びドーマへ向けた。


「その仲間の中に」


 ディーネが。


 大きな尾鰭を揺らす。


「アルト君もいる」


「…………」


「だから――」


 レテの周囲で。


 水が渦を巻いた。


「貴方達には」


 青い瞳が。


 鋭く細められる。


「誰一人、殺させません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。