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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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599/673

不死隊第九席


 セラの眠そうな瞳が。


 ほんの僅かに細くなった。


「……少し面白かったかな」


 ガンッ‼︎


「……なっ⁉︎」


 フィリアの蹴りを。


 《白鶴》の柄が受け止める。


 だが。


 真正面から止めたわけではない。


 蹴りが触れた瞬間。


 セラの身体が。


 くるりと回る。


「な――」


 フィリアの勢いに逆らわず。


 その力を横へ流す。


 そして。


 蹴りの威力すら。


 自らの回転へ加えていく。


 ギュンッ‼︎


 さらに加速した《白鶴》が。


 そのまま振り抜かれた。


 ドゴッ‼︎


「ぐっほぁ……!」


 柄が。


 フィリアの脇腹へ叩き込まれる。


「……でも」


 セラの回転が止まる。


 何事もなかったように。


 《白鶴》を構え直した。


「……これでおしまい」


「がはっ……! ごほっ!」


 地面を転がったフィリアが。


 激しく咳き込む。


 口元から。


 血が落ちた。


「はぁ……はぁ……」


「…………」


「勝手に……決めんなし……」


 震える腕で。


 地面を押す。


 立つ。


 もう一度。


 フィリアは立ち上がった。


 《遠音》を構え。


 弦を引き絞る。


 ポロン――。


 風の矢が放たれる。


 さらに。


 ポロポロン――。


 二射。


 三射。


 続けざまに放つ。


「……闇雲に撃ってもダメだよ」


 セラは。


 身体を僅かに傾け。


 一つ。


 半歩だけ横へ動き。


 もう一つ。


 最小限の動きだけで。


 風の矢を躱していく。


「……相手の得意や不得意を見つけて」


 《白鶴》を。


 上段へ構える。


 ダッ――!


 一気に。


 距離を詰めた。


「……得意を潰して」


 フィリアの間合いへ。


 踏み込む。


「不得意を強要させる」


 《白鶴》が。


 振り下ろされた。


「くっ……!」


 フィリアが。


 後ろへ下がる。


 ヒュンッ!


 白い刃が。


 身体すれすれを通り過ぎた。


「……それが」


 振り下ろした直後。


 セラの手首が返る。


「戦闘の基本」


「――っ⁉︎」


 刃の向きが変わる。


 同時に。


 セラの手が柄を滑り。


 石突の方へ持ち替えられた。


 そして。


 長い柄を。


 自らの足で蹴り上げる。


 ギュンッ‼︎


 その勢いに乗って。


 《白鶴》の刃が。


 下から跳ね上がった。


「……いっぎっ‼︎」


 ザシュッ――!


 フィリアの右肩を。


 白い刃が斬り上げる。


「っ……!」


 フィリアが。


 肩を押さえる。


 指の隙間から。


 血が滲んでいく。


「はぁ……はぁ……」


 強い。


 間違いなく。


 目の前の女は強い。


 遠距離なら。


 距離を潰される。


 空へ逃げても。


 叩き落とされる。


 近づけば。


 《白鶴》の間合い。


 こちらが攻撃しても。


 その勢いすら利用される。


「…………」


 だが。


(前の私なら……)


 フィリアが。


 ゆっくりと顔を上げる。


(もう、とっくに死んでる……!)


「…………」


「ははは……」


「……?」


 セラが。


 僅かに首を傾げる。


「私……」


 傷だらけの身体を見る。


 肩が痛い。


 脇腹も痛い。


 息をするだけでも。


 身体中が悲鳴を上げる。


 それでも。


 まだ。


 立っている。


「私……強くなってる」


「…………」


「ちゃんと……強くなってる!」


「……そう」


 素っ気ない返事。


 それでも。


 フィリアは笑った。


 《遠音》を。


 もう一度握り直す。


「まだまだ――」


 風が。


 フィリアの周囲へ集まっていく。


「やってやる!」


「…………」


 セラが。


 傷だらけのフィリアを見る。


「……その身体で?」


「へっ!」


 口元の血を。


 腕で乱暴に拭った。


「上等だいっ!」


     ◇ ◇ ◇


 同じ頃。


 王都エルディア。


 細い路地。


「いい加減、離してください!」


「うるせぇな……」


 レテの手首を掴み。


 ずかずかと先を歩く男。


 ドーマ。


「自分で歩けます!」


「あぁ?」


「貴方が私を選んだのでしょう!」


「……チッ」


 ドーマが。


 面倒そうに舌打ちする。


 そして。


 掴んでいた手を。


 乱暴に放した。


「だったら勝手について来い」


「まったく……」


 レテが。


 赤くなった手首を擦る。


「随分と乱暴な方ですね」


「うるせぇ」


「…………」


 レテは。


 改めてドーマの顔を見る。


 間違いない。


 以前。


 祖母と出掛けた。


 あの日。


 偶然ぶつかった。


 酒臭い男。


「…………」


「あ?」


 ドーマが。


 足を止める。


「なんだよ」


「いえ……」


「…………」


 じろり。


 レテを睨む。


「テメェ」


「……?」


「さっき俺を知ってるようなツラしたな?」


「…………」


 ドーマが。


 一歩。


 レテへ近づく。


「何者だ?」


「……ジーアスで」


「あ?」


「以前、ジーアスでお会いしています」


「…………」


「私の祖母と買い物へ出掛けた際に――」


「知らねぇよ!」


「――っ⁉︎」


 ドーマが。


 腰へ手を伸ばす。


 ガキンッ――!


 二つの鞘から。


 二振りの剣が抜き放たれた。


 右手には。


 長剣。


 左手には。


 それよりも短い剣。


 左右非対称の双剣。


 魔器――《化双》。


「昔どこで会ったとか知るか!」


 ブンッ‼︎


 苛立ちをぶつけるように。


 長剣を振り回す。


 続けて。


 短剣。


 ブォンッ‼︎


「覚えてねぇもんは覚えてねぇんだよ!」


「…………」


「それともなんだ⁉︎」


 ブンッ!


「俺がテメェみてぇな女に会ったら、いちいち覚えてなきゃいけねぇのか⁉︎」


「そこまでは言っていません!」


「だったらその顔やめろ!」


「どの顔ですか⁉︎」


「その顔だよ!」


「分かりません!」


「……チッ!」


 盛大な舌打ち。


 ドーマが。


 《化双》を肩へ担ぐ。


「やっぱ気に食わねぇ」


「理不尽です……」


「うるせぇ!」


 レテが。


 小さく息を吐く。


 そして。


 その表情から。


 呆れが消えた。


「……ですが」


「あぁ?」


「私も」


 静かに。


 右手を前へ出す。


「聞きたいことがあります」


 水が。


 その掌へ集まる。


 渦を巻き。


 一振りの湾曲した刃を形作った。


 霊器――《水凪》。


「貴方達は」


 その切っ先を。


 ドーマへ向ける。


「本当に……アルト君を殺すつもりなのですか?」


「…………」


 ドーマが。


 黙り込む。


「答えてください」


「…………」


 数秒。


 沈黙が流れた。


 そして。


「あぁ」


 ドーマが。


 吐き捨てる。


「殺す」


「…………!」


「アイツは裏切り者だ」


 《化双》を。


 だらりと下げる。


「だから殺す」


「……そうですか」


 レテが。


 《水凪》を握る手へ。


 力を込めた。


「でしたら――」


 水が。


 足元を這う。


「貴方を倒して」


 青い瞳が。


 鋭く細められる。


「アルト君のところへ戻ります」


「……はっ」


 ドーマが。


 鼻で笑った。


「簡単に言ってくれんなぁ」


 長剣と短剣。


 二振りを。


 ゆっくりと構える。


「不死隊――」


 そこで。


 ドーマの顔が。


 露骨に歪んだ。


「…………」


「?」


「……第九席」


 チッ――。


 小さな舌打ち。


「《化身(ばけみ)》――ドーマ」


「…………」


 レテが。


 僅かに首を傾げる。


「……何だよ」


「いえ」


「なんか言いたそうな顔しただろ」


「何も言っていませんが」


「その顔がムカつくっつってんだよ!」


「だからどの顔ですか⁉︎」


「うるせぇ!」


 ダンッ‼︎


 ドーマが。


 地面を蹴った。


「――!」


 一気に。


 距離が縮まる。


 速い。


 だが。


 レテの目は。


 右手の長剣を捉えていた。


 ドーマが。


 それを大きく振りかぶる。


(……大振り)


 あまりにも。


 大きな動作。


 先ほど。


 この男は。


 レテの斬撃を正面から受けず。


 身体から力を抜くことで。


 その勢いを流してみせた。


 だからこそ。


 警戒していた。


 またこちらの力を。


 利用してくるのではないかと。


 だが。


 今度は違う。


 自分から。


 大きく。


 力任せに。


 斬りかかってくる。


(これなら――)


 見える。


 避けられる。


 そして。


 振り抜いた後には。


 必ず隙が生まれる。


 レテが。


 半歩。


 身体を横へずらす。


 その瞬間。


「…………」


 ドーマの口元が。


 にやりと歪んだ。


「――素直だなぁ」


「え?」


 長剣が。


 振り下ろされ――。


 ない。


「――っ⁉︎」


 寸前で。


 止まった。


 そして。


 レテが避けた先。


 長剣へ意識を奪われた。


 その死角から。


 左手の短剣が――。


 既に。


 レテの脇腹へ迫っていた。

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