不死隊第六席
◇ ◇ ◇
細い路地。
ユノは。
前を歩きながら。
何度も背後へ意識を向けていた。
「…………」
足音。
一定の距離を保ちながら。
ずっと。
ついてくる。
ちらりと。
後ろを見る。
「…………」
目が合った。
眼鏡越しの瞳が。
ユノを優しく見つめている。
エルネは。
何も言わず。
にっこりと微笑んだ。
「…………」
ユノは前へ向き直る。
やがて。
細かった路地を抜け。
少し開けた場所へ出た。
建物に囲まれてはいるが。
先ほどまでより。
随分と広い。
「…………」
エルネが。
ゆっくりと周囲を見渡す。
「ここらでいいよ」
「…………」
ユノが。
足を止めた。
振り返る。
「……貴方は」
少しだけ。
間を置いて。
「貴方達は……何者ですか?」
「うーん……」
エルネが。
顎へ手を添える。
「君は御伽話は好き?」
「……?」
突然の質問に。
ユノが困惑する。
そんなユノを横目に。
エルネは続けた。
「僕達はね」
いつもと変わらない。
穏やかな声で。
「不死隊なんだよ」
「…………」
「……不死隊?」
ユノが。
僅かに目を見開く。
「あの御伽話の……?」
「うん」
「死んでも墓場から出てきて、復讐をしにくる傭兵団の……?」
「ははは」
エルネが。
小さく笑った。
「墓場からは出ないけどね」
「…………」
冗談を言っているようには。
見えない。
「それじゃあ――」
エルネの手が。
腰の柄へ伸びる。
「改めて自己紹介をしよう」
シャリン――。
細い刃が。
鞘から抜かれる。
深い緑。
鹿の角を思わせる意匠が施された。
細身のレイピア。
《翠角》。
その切っ先が。
真っ直ぐ。
ユノへ向けられる。
「不死隊――第六席」
穏やかな笑みを浮かべたまま。
「《枝角》――エルネ」
眼鏡の奥。
その瞳が。
ユノを捉える。
「一手、お相手願うよ」
そして。
「――ユノ・フェルメル君?」
「…………」
ユノの表情が。
強張った。
「なんの冗談――」
ヒュッ――。
「――ッ⁉︎」
頬が。
熱い。
遅れて。
一筋の血が流れる。
「…………」
いつの間に。
距離を詰めた。
エルネの《翠角》が。
ユノの頬を掠めていた。
「……もう」
エルネが。
静かに告げる。
「戦いは始まっているよ?」
「くっ……!」
ユノが。
大きく距離を取る。
反射的に。
腰へ手を回す。
「――っ」
何も。
ない。
(《燈環》……‼︎)
そこで。
思い出す。
(そうだ……旅行だから家に……!)
「あれ?」
エルネが。
ユノの動きを見て。
首を傾げた。
「魔器がないのかい?」
「…………」
「それじゃあ――」
エルネの身体が。
沈む。
「容易に君を殺せそうだ」
「――ッ!」
一気に。
距離を詰めてくる。
「《火弾》!」
ユノが。
腕を振るう。
ボボボボッ‼︎
無数の炎弾が。
エルネへ殺到した。
「おっと」
エルネが。
横へ跳ぶ。
走る。
炎弾が。
そのすぐ後ろを追いかけ。
地面や壁へ次々と着弾する。
「《活火》!」
ユノの身体を。
炎が駆け抜ける。
熱が。
筋肉へ。
脚へ。
全身へと行き渡る。
身体能力を。
強制的に引き上げる。
「キュウ!」
『キュ!』
青白い狐が。
ユノの傍らへ現れる。
「《狐火》!」
『キュウッ!』
ボッ!
ボッ!
ボッ!
九つ。
青白い火球が。
次々と生まれる。
「…………」
エルネが。
足を止めた。
九つの火球が。
その周囲を。
ぐるりと取り囲む。
「ほう……」
円を描き。
回る。
回る。
徐々に。
その速度を上げていく。
「――《狐火・九輪》!」
「むっ」
九つの火球が。
一斉に。
エルネへ向かう。
上下。
左右。
前後。
逃げ道を塞ぎながら。
一点へ。
集まる。
そして――。
ボウッ‼︎
青白い火柱が。
一気に立ち昇った。
「…………」
ユノが。
炎を睨む。
やがて。
火柱が。
徐々に小さくなっていく。
「…………」
その中から。
人影が。
ゆっくりと歩いてきた。
「うん……」
エルネが。
服についた青白い火を。
ぱんぱんと手で払う。
「なかなか面白いね?」
「…………」
「あれ?」
エルネが。
顔を上げる。
「ユノ君?」
いない。
先ほどまで。
そこにいたはずの。
ユノの姿が。
消えている。
「…………」
エルネの瞳が。
僅かに動く。
「――《陽炎》」
「!」
目の前。
揺らめく熱気の中から。
ユノが現れた。
「なるほど」
エルネが。
即座に《翠角》を振るう。
ザンッ!
細い刃が。
ユノの身体を斬り裂いた。
だが。
「…………?」
血が。
出ない。
斬ったはずのユノが。
炎のように。
ゆらりと揺らめく。
そして。
消えた。
「ほう……」
エルネの口元が。
僅かに上がる。
その背後。
「――《火撃》!」
「!」
振り返る。
だが。
既に。
ユノは懐へ潜り込んでいた。
握り締めた拳。
そこへ。
炎が纏わりつく。
「はぁぁっ‼︎」
燃え盛る拳が。
エルネへと。
叩き込まれた。




