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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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吹き荒れる風の中

「――っ!」


 先に仕掛けたのは。


 セリオだった。


 《飛燕》が。


 左右からミュゼへ迫る。


「ちょっ……!」


 右を弾く。


 左を躱す。


 そのまま身体を捻り。


 セリオの脇を抜けようとする。


「逃がすか!」


「!」


 だが。


 セリオの左脚が。


 ミュゼの進路を塞いだ。


「うわっ!」


 咄嗟に上体を反らす。


 鼻先を。


 セリオの蹴りが通り過ぎた。


 そのまま。


 ミュゼは両手を屋根につく。


 身体をほとんど逆さにしながら。


 両脚を大きく振り上げる。


「よっ!」


「チッ!」


 セリオが後ろへ跳ぶ。


 蹴りが空を切った。


 ミュゼは。


 そのまま片手を軸に一回転。


 両足で着地する。


「…………」


 セリオが眉を寄せた。


「テメェ……身体どうなってんだ」


「柔らかいんすよ、俺」


「そういう問題か?」


「そういう問題っす」


 へらり。


 ミュゼが笑う。


「…………」


 セリオは。


 《飛燕》を下ろした。


「――戻れ」


「?」


 二振りの剣が。


 風へ溶けるように消えていく。


 直後。


 今度は。


 赤い光が右手へ集まり始めた。


「……え?」


 熱。


 ミュゼの頬を。


 熱風が撫でる。


 赤い光が。


 長く。


 大きく。


 形を成していく。


 やがて。


 セリオの右手に現れたのは。


 巨大な大剣。


 だが。


 その刀身は。


 炎そのものを固めたかのように。


 赤く。


 橙に。


 白く。


 絶えず揺らめいていた。


「…………は?」


 ミュゼの目が見開かれる。


「それ……知らないっすよ?」


「あ?」


「2つだけじゃないんすか?」


「んなわけねぇだろ」


 セリオが。


 炎の大剣を肩へ担ぐ。


「火の霊器――《天燼(てんじん)》」


 ゴォッ‼︎


 刀身が。


 一際大きく燃え上がった。


「…………」


 ミュゼが。


 思わず一歩下がる。


「……何個持ってんすか、アンタ」


「四つだ」


「…………」


「…………」


「は?」


「俺は基本属性全てと契約している」


「…………」


 ミュゼが。


 なんとも言えない顔をした。


「……うわぁ」


「なんだよ」


「欲張り」


「知ったことかよ」


 次の瞬間。


 セリオが踏み込んだ。


「――っ!」


 《天燼》が。


 真上から振り下ろされる。


「うおっ⁉︎」


 ミュゼが身体を大きく反らした。


 炎の刃が。


 胸元すれすれを通過する。


「あっつ!」


 触れていない。


 それでも。


 服の表面が焦げた。


「まだだ!」


「!」


 返す刃。


 横薙ぎ。


 ミュゼの身体が。


 一気に沈む。


 ほとんど屋根へ張りつくような姿勢で。


 炎の下を潜り抜けた。


「よっ!」


 片手をつく。


 身体を捻る。


 脚が。


 セリオの側頭部へ跳ね上がった。


「チッ!」


 セリオが首を逸らす。


 蹴りは空を切る。


 だが。


 ミュゼは崩れない。


 腰が。


 ぐにゃりと捻れ。


 片手だけで身体を支えたまま一回転。


 そのまま。


 両足で着地する。


「――甘ぇ!」


「!」


 ドォンッ‼︎


 《天燼》が。


 屋根へ叩きつけられた。


 炎が爆ぜる。


「うおっ⁉︎」


 ミュゼが横へ跳ぶ。


 だが。


 炎は屋根を這い。


 逃げ道まで呑み込んでいく。


「ちょっ!」


 壁を蹴る。


 手すりへ片手をつき。


 身体を折り畳むように。


 炎を飛び越える。


「逃げ道まで潰すんすか!」


「逃げるからだろ!」


「そりゃ逃げるっすよ!」


 再び。


 《天燼》が迫る。


 右。


 左。


 上。


 炎の刃が。


 ミュゼの逃げ道を。


 一つずつ奪っていく。


「――っ!」


 背後には壁。


 右には炎。


 左にはセリオ。


「……これ」


 ミュゼの頬が引きつった。


「詰んでないっすか?」


「やっと分かったか」


 《天燼》が。


 大きく振り上げられる。


「大人しく捕まれ」


「嫌っす!」


「じゃあ――」


 セリオが踏み込む。


「吹っ飛べ!」


 炎の大剣が。


 振り下ろされた。


 その瞬間。


「――よっ!」


「!」


 ミュゼは。


 前へ出た。


「なに――」


 逃げるのではなく。


 セリオへ。


 巨大な刃の内側。


 柄のすぐ横へ。


 身体を滑り込ませる。


「ここなら――!」


 金色の鉤爪が。


 セリオの脇腹へ走る。


「――戻れ、《天燼》」


「え?」


 大剣が。


 赤い光となって消えた。


「――っ⁉︎」


 支えにしていたものが消え。


 ミュゼの身体が僅かに泳ぐ。


 その目の前で。


 セリオが拳を握った。


「武器なくても――」


「ちょっ」


「殴れんだよ!」


 ドゴッ‼︎


「ぐっ――⁉︎」


 拳が。


 ミュゼの腹へ深く突き刺さった。


 身体がくの字に折れ。


 そのまま。


 大きく吹き飛ばされる。


 だが。


 空中で身体を捻り。


 壁へ両足をついた。


 全身をしならせ。


 衝撃を逃がす。


 そのまま壁を蹴り。


 再び屋根へ。


「…………っ」


 ミュゼが。


 腹を押さえる。


「痛ってぇ……」


 口元から垂れた血を。


 親指で拭った。


「あーあー」


 乱れた髪を掻き上げる。


「やってらんねぇ」


「なら諦め――」


「…………?」


 セリオの言葉が止まった。


 なんだ?


 こいつの周りに。


 何かがまとわりついている。


 霊素……?


 いや。


 違う。


 精霊の力じゃねぇ。


 それなのに。


 俺はこの力を知っている。


 いや――。


 俺だけじゃない。


 これは。


 誰しもが持っている。


「……魔力?」


 その瞬間。


 ミュゼの口角が。


 ゆっくりと上がった。


「御名答」


 顔を上げる。


「――《魔脈》」


 ドクンッ。


「…………!」


 次の瞬間。


 ミュゼが消えた。


「な――」


 速い。


 さっきまでとは。


 まるで違う。


「《鎮岳》!」


 土色の光が弾け。


 巨大な盾が現れる。


 セリオは即座に。


 正面へ構えた。


 だが。


「どこ見てんすか?」


「……は?」


 声は。


 後ろ。


「ぐっ!」


 ザシュッ‼︎


 背中に。


 熱が走る。


 セリオが咄嗟に前へ跳んだ。


 黒い服が裂け。


 鮮血が宙へ散る。


「わぁ!」


 ミュゼが目を丸くする。


「咄嗟に避けられた!」


 金色の鉤爪についた血を振り払い。


 楽しそうに笑う。


「やるー!」


「…………」


 セリオが。


 背中へ手を回す。


 浅い。


 あと一瞬。


 反応が遅れていれば。


「……なんだそれ」


「んー?」


「速くなっただけじゃねぇだろ」


「…………」


 ミュゼが首を傾げる。


「秘密?」


「チッ……!」


 次の瞬間。


 ミュゼの身体が。


 地を這うほど低く沈んだ。


 そして。


 一気に飛びかかる。


「――《海嘯(かいしょう)》!」


 青い光が弾けた。


「!」


 セリオの手に現れたのは。


 青銀の長柄。


 その先端から伸びる。


 三本の穂先。


 荒れ狂う水が。


 三叉の刃へまとわりつき。


 絶えず形を変えている。


 水の霊器。


 《海嘯》。


「らぁっ!」


 横薙ぎ。


 水圧を伴った一撃が。


 屋根の上を薙ぎ払う。


「! あらよっと!」


 ミュゼの身体が。


 ぐにゃりと反る。


 水の穂先が。


 鼻先を掠めた。


 そのまま身体を捻り。


 一気に踏み込む。


「――っ!」


 懐。


 《海嘯》の長い間合い。


 その内側へ。


「もらい!」


 両腕が。


 一気に振り下ろされた。


 ザシュッ‼︎


「ぐっ!」


 左右。


 セリオの両肩から。


 鮮血が噴き出す。


「チッ……いてぇな!」


 《海嘯》を。


 強引に横へ振るう。


「おっと!」


 ミュゼが跳び退く。


 水を纏った長柄が。


 その鼻先を通過した。


 着地。


「…………」


「…………」


 二人が睨み合う。


 セリオの背中。


 両肩。


 そこから。


 血が流れ落ちていく。


 対するミュゼは。


 先ほどまでとは。


 明らかに違う。


 速さ。


 踏み込み。


 反応。


 鉤爪の鋭さ。


 その全てが。


 跳ね上がっている。


「…………」


 セリオが。


 《海嘯》を下ろした。


「――戻れ」


 水の三叉槍が。


 青い光となって消える。


 そして。


 風が集まり始めた。


「……《飛燕》」


 二振りの剣が。


 セリオの両手へ収まる。


「…………」


 それを見て。


 ミュゼの目が。


 僅かに細くなった。


「なぁ」


「?」


「お前」


 セリオが。


 《飛燕》を軽く振る。


「俺のこと詳しいみたいだな?」


「…………」


「だったら――」


 虹色の瞳が。


 真っ直ぐミュゼを捉えた。


「これも知ってっか?」


「何を――」


 その瞬間。


「――⁉︎⁉︎」


 ミュゼの表情が変わった。


 風。


 セリオの周囲へ。


 風が集まり始めている。


 だが。


 違う。


 さっきまでとは。


 明らかに違う。


 《飛燕》が纏っていた風じゃない。


 もっと。


 生々しい。


 まるで。


 意思を持っているかのような――。


「なん……すか、それ……」


「霊器の――」


 セリオが。


 二振りの《飛燕》を静かに下ろした。


「その先だ」


 風が。


 セリオの黒髪を撫でる。


 頬を撫で。


 肩を抜け。


 腕へ。


 脚へ。


 その身体へ。


 楽しげにまとわりついていく。


 セリオが。


 静かに息を吐いた。


 そして。


 呼ぶ。


 その名を。


「――来い」


 風が。


 歓喜するように渦巻いた。


「フィン・シルフィロード」


『――やっと出番かよぉ〜』


「…………⁉︎」


 声。


 どこからだ?


 ミュゼが周囲を見回す。


 右。


 左。


 上。


 誰もいない。


 なのに。


 確かに聞こえた。


 直後。


 ゴォォォォォッ‼︎


「――っ!」


 風が爆発した。


 ミュゼが咄嗟に腕で顔を覆う。


「ぐっ……!」


 屋根へ鉤爪を突き立て。


 吹き飛ばされそうになる身体を。


 強引に支える。


「なんだよ……これ……!」


 吹き荒れる風の中心。


 セリオの姿が。


 完全に見えなくなる。


 やがて。


 風が止んだ。


「…………」


 ミュゼが。


 ゆっくりと腕を下ろす。


「…………は?」


 そこに。


 セリオは立っていた。


 だが――。


 さっきまでのセリオとは。


 明らかに。


 何かが違っていた。

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