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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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見せ場

 フーガが腰を落とし。


 俺の前に置かれた包みへ手を伸ばす。


「ほな」


 布を掴み。


 するすると解いていく。


「――見るな!」


 ヒルトの鋭い声。


 同時に。


 ヒルトがフィリアの前へ腕を伸ばした。


「ひっ……」


 けど。


 遅かった。


 フィリアの顔から血の気が引く。


「……あ……」


 レテも。


 目を見開いたまま動かない。


「……あ……あ……」


「なんやお前ら」


 フーガが呆れたように振り返る。


「それでも軍人か?」


「…………」


 俺は。


 何も聞こえなかった。


 包みの中。


 そこにあったものから。


 目を離せない。


「あ……」


 男の首。


 頭髪はなく。


 丸い鼻。


 そして。


 重力に逆らうように逆立った、三日月型の髭。


 見間違えるはずがない。


「グ……」


 喉が震える。


「グウェン……」


 間違いない。


 グウェンだ。


「…………」


 頭の中が。


 真っ白になった。


 次の瞬間。


「フゥゥゥゥゥガァァァァァァァァ‼︎」


「うるさっ⁉︎」


 フーガが耳を塞ぐ。


「びっくりするからやめてや」


「なんでだ!」


 身体を起こす。


「なんで!」


 腹が痛い。


 頬も痛い。


 そんなの。


 どうでもいい。


「なんでグウェンを殺した‼︎」


「え?」


 フーガが。


 本当に分からないという顔をした。


「なんでそんな怒っとるん?」


「…………は?」


「一回死んだだけやん?」


「…………」


 違う。


「……違う」


「ん?」


「違う……違う!」


 拳を握る。


「誰も!」


 爪が掌へ食い込む。


「殺していい理由なんてないんだよ‼︎」


「……?」


 フーガは首を傾げた。


「まぁええわ」


 まるで。


 俺が何に怒っているのか、本当に分からないみたいに。


「殺した理由やけどな」


 フーガが頭を掻く。


「アルト殺すって話した時や」


「…………」


「最初はいつもみたいに、やかましく笑っとったんやけど」


 口元に笑みを浮かべたまま。


「だんだんマジになってきてなぁ」


「…………」


「うるさかったから」


 軽く。


 首を傾げる。


「首、刎ねてもーたわ!」


「…………」


 それだけ?


「それ……だけ……?」


「おう!」


「…………」


 何かが。


 切れた。


「ふざけるなぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」


 立ち上がろうとした。


 その瞬間。


「がっ――⁉︎」


 横から。


 硬い何かが顔へ叩き込まれた。


 槍の石突。


 身体が地面へ倒れる。


「さっきからうるせぇ」


「バ……ルド……」


 長槍を持った男。


 バルドが。


 鬱陶しそうに俺を見下ろしている。


「隊長」


 バルドがフーガを見る。


「さっさっと……」


「まぁまぁ、待ちや!」


 フーガが手を叩いた。


「せっかくやし、アルトのお友達にも見せ場やらんとな!」


「……見せ場だと?」


 ガオンの声が低くなる。


「その通り!」


 フーガが大きく両腕を広げた。


「このままでは――アルトは無様に死にます!」


「…………」


「そこで!」


 人差し指を立てる。


「あんたらのうち、誰か一人でも俺らに勝てたら――アルトを助けてやるわ!」


「…………!」


「まぁ」


 にっこりと。


 フーガが笑う。


「あんたらが負けたら、あんたらも殺すけどな」


「えぇ〜……」


 セラが心底面倒そうな声を出した。


「はい、そこ静かに!」


「……眠い」


「対戦表組むから待ってー」


「そんなことは――」


 ユノが一歩踏み出した。


 瞬間。


「――⁉︎」


 鋭い一閃が。


 ユノの鼻先を掠める。


 僅かに遅れて。


 髪が数本、宙を舞った。


「…………」


 レイピアを構えたエルネが。


 いつもの穏やかな顔で笑う。


「隊長」


 切っ先をユノへ向けた。


「彼は僕が貰うよ」


「…………」


 ユノの細い目が。


 僅かに開く。


「けっ」


 今度はドーマが前へ出た。


「俺もだ」


 酒瓶を持ったまま。


 その指先がレテへ向く。


「あの水色頭の女……」


「……!」


「気に食わねぇ」


「…………」


 レテの表情が強張った。


「……私も」


 セラがぼそりと呟く。


 眠そうな目のまま。


 指を伸ばした。


「……あの男の子の後ろの子」


「…………え?」


 その先。


 ヒルトの後ろにいたフィリア。


「フィリア……」


「…………」


「ガッハハハハ!」


 ゲンさんが豪快に笑う。


「俺っちは誰でもいいっすよ!」


「なんや、みんな我儘やなぁ!」


 フーガが困ったように頭を掻く。


 それから。


「ほな、ゲンさんは――」


 指を差した。


「そこのもやしとやりや!」


「…………」


 ヒルト。


「おう!」


 ゲンさんが拳を鳴らす。


「よろしくな!」


「…………」


 ヒルトは何も答えない。


 ただ。


 フィリアを庇うように立ったまま。


 ゲンさんを見ている。


「で」


 フーガが辺りを見回す。


「あとの二人は……近くの奴とやったら?」


 そして。


 最後に。


 俺を見る。


「俺は――」


 笑う。


「兄弟喧嘩やな!」


「…………」


 ダメだ。


 勝てない。


 俺は知ってる。


 こいつらを。


 どれだけ滅茶苦茶な奴らなのか。


 俺は。


 知ってる。


「……ダメだ」


「ん?」


「みんな……逃げて……」


「はっ!」


 ガオンが鼻で笑った。


「逃げられるか!」


「ガオン……」


「そ!」


 ヒルトも。


 ゲンさんから目を離さないまま言う。


「友達置いて逃げたら、隊長に怒られる」


「ヒルト……」


「…………」


 フィリアだけが。


 何も言わない。


「フィリア?」


 レテが心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫ですか?」


「…………」


「フィリア?」


「……うん」


 少し遅れて。


 フィリアが頷いた。


「びっくりしちゃって……」


 その目が。


 ほんの一瞬だけ。


 地面へ向く。


 布の上に置かれた。


 グウェンの首へ。


「…………」


 すぐに。


 フィリアは目を逸らした。

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