お兄ちゃんやで!
ゆっくりと。
声のした方へ顔を向けた。
「…………」
誰も。
いない。
「……え?」
その瞬間。
身体が勝手に動いた。
半歩。
前へ――。
「ぐっ――⁉︎」
腹に。
凄まじい衝撃が走った。
「うっごぁ……!」
身体が宙に浮く。
何が起きたのか。
分からない。
胃の中を無理やり掻き回され。
全部ひっくり返されたような感覚。
「がっ……!」
吐く。
そう思った瞬間。
今度は。
右頬に衝撃が走った。
視界が回る。
次に気づいた時には。
俺の顔は地面にめり込んでいた。
「ぐ……っ」
右頬に。
靴底が突き刺さっている。
踏まれている。
いや。
蹴り落とされたんだ。
「フ……フーガ……」
「はぁい」
聞き慣れた。
軽い声。
「フーガお兄ちゃんやで」
「てめぇ!」
ログの怒鳴り声。
「何してやがんだ!」
「……!」
ガオンも同時に飛び出した。
二人が。
フーガへ掴みかかる。
「えっ、こっわ……」
フーガが俺の顔から足を退ける。
次の瞬間。
ログの腕を取った。
「ぐっ⁉︎」
捻る。
その勢いのまま投げ飛ばす。
「ログ!」
ガオンの腕も。
伸びてきた瞬間に掴んだ。
「ちぃ!」
身体を入れ替えるようにして。
投げる。
二人の身体が地面を転がった。
「いやぁ……最近の若者、血の気ありすぎやろ?」
フーガが困ったように肩を竦める。
「怖いわぁ……」
「……何者だ」
ヒルトが低い声を出した。
いつの間にか。
フィリアの前へ立っている。
「おれ?」
フーガが自分を指差す。
「言うたやん」
にこっと笑って。
「アルトのお兄ちゃんやって」
そして。
俺を見る。
「な! アルト!」
「ぐふっ⁉︎」
腹を蹴られた。
身体が地面を転がる。
「アルトくん!」
「アルト!」
「いやぁ、まぁ」
フーガは。
何でもないことみたいに続ける。
「最初の一撃で、内臓全部破裂させよ思たんやけどなぁ」
「…………⁉︎」
「咄嗟に半歩前へ出て、腕が伸び切る前に止めるとはなぁ……」
フーガが。
嬉しそうに笑った。
「やるやん!」
「貴方は……」
レテの声が震える。
「貴方は……何を言ってるんですか⁉︎」
「そんなことしたらアルトが……!」
フィリアの顔からも。
いつもの明るさが消えていた。
「死ぬ――って言いたいん?」
フーガが笑う。
「…………」
「そやで?」
その笑顔のまま。
「殺すんや」
「――《火撃》!」
炎が走った。
「うぉっ!」
フーガが身を逸らす。
炎の塊が。
そのすぐ横を通り抜けた。
「…………」
ユノ。
いつもの笑顔はない。
細かった目が。
僅かに開いている。
「殺意があるなら」
ユノがフーガを見据える。
「こちらも、防衛が必要ですよね」
「…………」
フーガが。
ゆっくりとユノを見る。
「……はは」
笑った。
「ははは……」
けれど。
さっきまでとは。
違う。
目が。
笑っていない。
「――お前」
空気が。
一気に重くなった。
「舐めとるやろ?」




