声のした方
◇ ◇ ◇
「さて、お前ら。そろそろ帰るぞ」
ヒルトがダリウスさんから焼き菓子のレシピを聞き終えたあたりで。
ガオンが俺達へ声を掛けた。
「もっとゆっくりしていってもいいのよ?」
パメラ女王が少し残念そうに首を傾げる。
「もう十分ゆっくりしたと思いますが……」
「そうかしら?」
「まぁまぁ」
ダリウスさんが豪快に笑う。
「一行は旅行で来ておられますからな。他にも見たい物などがあるでしょう」
「そうね……」
パメラ女王は少し考えてから、俺達を順番に見渡した。
「また、いらしてくださいね?」
「また来てもいいんですか⁉︎」
フィリアが真っ先に食いついた。
「もちろんよ」
「やった!」
「僕、お菓子教わりに来ます!」
ヒルトも続く。
「おう! 待ってっぞ!」
ダリウスさんが嬉しそうに笑った。
「今度は剣なんかも見たいです」
ログがそう言うと。
「ええ、いいわよ!」
「僕は、またお茶の話を聞かせてほしいですね」
「いつでも聞きにいらっしゃい」
「本当に楽しかったです」
レテが丁寧に頭を下げる。
「まあまあ」
パメラ女王が頬へ手を添えた。
「本当に可愛い子達」
そして。
最後にガオンを見る。
「ガオちゃん」
「……はい」
「大事にしなさいよ?」
「…………」
ガオンが俺達を見る。
ほんの少しだけ。
その表情が柔らかくなった。
「……そうですね」
「あの!」
俺も一歩前へ出る。
「本当にありがとうございました!」
「いいのよ」
パメラ女王が優しく微笑む。
「また、宝剣に会いに来てね」
「はい!」
今度来た時には。
もう少しだけ。
何か分かるといいな。
俺達はパメラ女王とダリウスさんに頭を下げ。
案内役の騎士に連れられて、王城を後にした。
◇ ◇ ◇
「ガオン王子も、良い友達を持ちましたな」
遠ざかっていく七人の背中を見ながら。
ダリウスが満足そうに笑う。
「そうね……」
パメラも穏やかな笑みを浮かべていた。
しばらく、その背中を見送って。
「ダリウス」
「はい?」
「警備の打ち合わせはいいの?」
「…………」
「あ……」
◇ ◇ ◇
王城を出た俺達は。
宿のある方角へ向かって歩いていた。
「本当に素敵な時間でしたね」
レテが嬉しそうに言う。
「ですねぇ」
ユノも頷く。
「さすが王子」
「……お前、バカにしてるだろ」
「まさかぁ」
「絶対バカにしてる」
「ははは!」
フィリアが声を上げて笑う。
「ガオちゃん」
ログがぽつり。
「…………」
ガオンのこめかみがピクッと動いた。
「焦げパンが……」
「あぁ?」
「久しぶりに聞いたよ、それ!」
ヒルトが笑う。
「焦げパン……」
フィリアが懐かしそうに呟いた。
「そういえば、あたしが付けたんだっけ」
「思い出すな!」
「ははっ! 懐かしいな!」
俺も笑う。
「お前も笑うな!」
「だって焦げパンだぞ?」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「ははは!」
なんか。
朝はあんなに緊張してたのに。
終わってみれば、本当に楽しかった。
「本当にいい人達だったなぁ!」
パメラ女王も。
ダリウスさんも。
シルヴァンさんは……。
まあ。
ちょっとやりづらかったけど。
悪い人じゃなかった。
「ふぁ……」
大きなあくびが出る。
「でも、なんか眠ぃや」
「緊張が解けたんでしょうね」
レテが俺の顔を見て笑う。
「緊張?」
「はい。お城へ向かっている時から、いつもより少し落ち着きがありませんでしたから」
「そうだった?」
「そうでしたよ」
全然気づかなかった。
「じゃあ帰って寝るか!」
「切り替え早いな」
ログが呆れる。
「だって眠いんだもん」
「子供かよ」
「でもさ!」
俺は少し前へ出て。
みんなの方へ振り返りながら歩く。
「明日はどこ行こうか?」
「前見て歩け」
「まだ見てないところ、いっぱいあるだろ!」
「まあ、それはそうだけど」
フィリアも楽しそうに笑う。
明日は。
どこへ行こう。
何を食べよう。
まだ休暇は残ってる。
スパーナには。
まだ知らないものがいっぱいある。
そんなことを考えていた。
その時だった。
「――楽しそうやなぁ。アルト」
「…………」
足が。
止まった。
心臓が。
ドクンと大きく鳴る。
この声。
忘れるはずがない。
「…………」
ゆっくりと。
声のした方へ顔を向けた。




