今はそれで
◇ ◇ ◇
白塔を出て。
パメラ女王とダリウスさんと一緒に、王城へ戻った。
行きとは違って。
帰り道では、さっき見た宝剣のことばかり考えていた。
あの黒い大剣。
剣の向こうに見えた気がした誰か。
結局。
何も分からなかった。
でも――。
「……また、見たいな」
「あら」
隣を歩いていたパメラ女王が笑う。
「気に入ったの?」
「気に入ったっていうか……」
なんだろう。
あの剣を見ていると。
寂しいのに。
離れたくなくなる。
「……よく分かんないです」
「ふふっ。それでいいんじゃない?」
「いいんですか?」
「分からないことを、無理に分かったことにする必要はないもの」
「…………」
そっか。
それなら。
今はそれでいいのかもしれない。
「またいつか」
パメラ女王が白塔を振り返る。
「何か分かる日が来るかもしれないわ」
「……はい!」
俺も一度だけ振り返って。
王城へ向かった。
◇ ◇ ◇
「戻りました!」
待合室の扉を開ける。
「おっ」
最初にこっちを見たのはログだった。
「やっと戻ってきたか」
「おかえりなさい、アルトくん」
「ただいま!」
レテ。
ログ。
ガオン。
フィリア。
ヒルト。
ユノ。
みんな揃っている。
……ん?
「…………」
テーブルを見る。
皿。
皿。
皿。
空っぽ。
「お菓子は?」
「食べた」
フィリアが即答した。
「全部⁉︎」
「全部」
「俺の分は⁉︎」
「ないよ?」
「なんで⁉︎」
「遅いから」
「国宝見に行ってたんだぞ俺⁉︎」
「じゃあ国宝食べてくればよかったじゃん」
「食えるか!」
「アルトくん」
レテが困ったように笑う。
「冗談ですよ。ちゃんと残してあります」
「レテ!」
やっぱりレテだ!
「ほら」
レテが小さな皿を差し出してくれる。
そこには焼き菓子が二つ。
「……二つ?」
「…………」
ヒルトが目を逸らした。
「ヒルト?」
「……美味しかったから」
「俺の食ったな⁉︎」
「一個だけ!」
「やっぱり食ったのかよ!」
「あとでダリウスさんにレシピ聞くから!」
「そういう問題じゃねぇ!」
「ガハハハハ!」
後ろから豪快な笑い声が響いた。
「気に入ってくれたなら何よりだ!」
「ダリウスさん!」
ヒルトが立ち上がる。
「これ、本当にダリウスさんが作ったんですよね?」
「おう!」
「あとでレシピ教えてください!」
「もちろんだ! だが分量だけ覚えても駄目だぞ! 焼き加減が重要だからな!」
「はい!」
「なんの話してんだ……」
ログが呆れたように呟く。
「おかえり、アルト」
ガオンが椅子に座ったまま俺を見る。
「どうだった?」
「んー……」
俺はレテから受け取った焼き菓子を一つ口に入れる。
「うまっ!」
「だろ⁉︎」
なぜかダリウスさんが嬉しそうだ。
「それで?」
「あ、そうだった」
危ない。
お菓子に全部持っていかれるところだった。
「近くで見てきた」
「それは見れば分かる」
「すっげぇでかかった!」
「それも昨日見ただろ」
「近くで見るともっとでかいんだよ!」
「……で?」
ガオンが呆れながら聞いてくる。
「何か分かったのか?」
「…………」
俺は少し考えて。
首を横に振った。
「分かんなかった」
「そうか」
「でも……」
みんなが俺を見る。
「剣の後ろに、誰か見えた気がした」
「……誰か?」
レテが聞き返す。
「うん。一瞬だけ」
「どんな人だったんですか?」
「それが分かんないんだよ」
顔も。
姿も。
ちゃんと見えなかった。
「見間違いかもしれない。でも……」
「でも?」
「なんか、嬉しかった」
フィリアが首を傾げる。
「怖くなかったの?」
「全然」
むしろ。
逆だった。
「会いたいって思った」
「…………」
レテが静かに俺を見る。
「パメラ様がさ」
俺は振り返る。
パメラ女王はダリウスさんと並んで、俺達を優しく見守っていた。
「物には持ち主の魂が宿るって。もしかしたら、その人が俺に会いに来たのかもしれないって言ってくれた」
「魂……ですか」
「うん」
「…………」
レテは少し考えて。
柔らかく笑った。
「それなら、また会えるかもしれませんね」
「……うん!」
そうだったらいい。
今は。
誰なのか分からなくても。
いつか。
ちゃんと会えたらいい。
「よし!」
残っていたもう一つの焼き菓子を口へ放り込む。
「じゃあ次どこ行く?」
「切り替え早っ!」
フィリアが笑う。
「だって旅行中だぞ!」
「まだ遊ぶ気かよ……」
「当たり前だろ!」
休暇はまだ残ってる。
スパーナには、まだ見てないものがいっぱいある。
ログが呆れ。
フィリアが笑って。
ユノもいつもの細い目で笑う。
ヒルトはダリウスさんに、本当に焼き菓子の作り方を聞き始めていた。
ガオンはそんな俺達を見て、ため息を吐く。
そして。
レテは。
俺の隣で笑っていた。
結局。
宝剣のことは何も分からなかったけど。
今は。
それでいいような気がした。




